第17話 「はっ?」
「はっ?」
「…俺もビックリした。」
翌日、昼に会社に居るか。と華月が連絡して来て。
居ると答えると、イタリアンランチを持参して来た。
深田さんの分も。
「で…みんなは聖と優里さんが付き合ってる事は…」
「言えねーよ。優里さんも俺に『はじめまして』つったし。」
「…謎過ぎる…」
華月は目を白黒させながら、パスタをちゅるんっと口に入れた。
実はー…
身内の女性陣には花束を用意したけど、ちゃんとペアでの食事券も用意してて。
華月と
さりげなく詩生にスケジュールを聞いてみると。
『俺、今日の夕方からアメリカなんだ』
目を見開くような返事が。
まあ…DEEBEEも色々あるみたいだから、詩生も成長のために修行が必要なんだとは思う。
でも、今日の夕方から?
華月の誕生日はいいのか?
とは言えずにいた俺に。
『…タイミング悪いのは十分解かってるけど、今は…どうしても行かなきゃいけねーんだよ。』
男として。
将来を見据えて。
その将来に華月の事が含まれてると、俺は理解したけど…
華月はそれをちゃんとそこまで納得してんのかな…
「聖、お兄ちゃんのプレゼント、何にした?」
「食事券。」
「紅美ちゃんと?」
「そ。」
「あっ、いいな~。」
「…おまえさ。」
「あ、あたしは要らない。詩生、しばらくいないから。」
「……」
「それにしても、優里さんがシンガーだったなんて驚きよね~。どんな歌歌うんだろ。想像出来ないわ。」
華月の視線は、ずっとパスタ。
そして…やっぱり、よく喋る。
「…あのさ。」
「んー?」
「俺…優里さんに、クリスマスプレゼント、家族が欲しいって言われた。」
「えっ。」
華月は…自分がへこんでても、誰かの幸せを聞けば元気になる。
だからー…ここはちょっと、俺の相談でもしてみようと思った。
「えっえっ?それって、家族って。」
華月は手に持ってたボックスをテーブルに置いて、ゴクゴクとお茶を飲んで。
「それって、プロポーズしてくれ…っておねだり?」
真ん丸い目をして言った。
「…やっぱ…そうなのかな。」
「他に何があるのよー!!」
「…子供が欲しいとか?」
「そっち!?」
「いや…分かんね…」
「あーっ!!もうじれったーい!!」
華月は手足をバタバタさせると。
「聖、優里さんの指のサイズ調べて、すぐに指輪買わなきゃ。」
立ち上がって、力を込めて言った。
「…はっ?」
「自分の誕生日にプロポーズなんて、ロマンチック~!!」
「い…いや、それは成功したら…の話だよな。」
「だって、リクエストだったんでしょ?」
「……まあ…そうかも…だけど…」
「何悩んでんの?」
「いや…別に悩んでなんか…」
ただ…
今、目の前に幸せがぶら下がってるとして。
俺は…それを手にしていいのかな。と思ったりもする。
なぜかと言うと…
「…俺、勝手なんだけどさ。」
「何。」
「優里さんの事、すっげーまっしぐらに好きになって、まだお互いよく知りもしないのに…結婚なんて言葉をマジで考えたりするクセにさ。」
華月はストンとソファーに座ると、膝の上で指を組んだ。
「…ふっ…と、泉の事、考えちまうんだ。」
「……」
「あいつ、仕事で会えないからとか、冷めたとか…ほんと、その時を狙ったように距離を置いて別れ文句言ってさ。」
「…うん。」
「バカじゃねーの…って。腹も立ったけどさ。」
「……」
「…あいつより先に、俺が幸せになっていいのかな…なんて、なんつーか…ほんと…勝手なんだけど…急に足がすくむんだよな…」
今も…泉に対する気持ちがゼロとは言わない。
だけど、優里さんに対しての気持ちが大きい事は確かだ。
「…遠慮なんか要らないんじゃない?」
華月はバッグからスマホを取り出すと。
「最近はアメリカで暴れてるみたいよ。」
そこには…珍しく、笑顔の泉の写真があった。
「……」
つい、華月からスマホを取ってまで見入ってしまう。
…変わんねーな…でも、笑顔…
「…モテてるらしいよ。」
「は?」
「今になってモテモテで困っちゃうんだよね~って。」
「……」
「いいんじゃない?聖は聖で幸せになって。そしたらあたしが泉に『叔父に奇跡が』って送るから。」
「ふっ…何が奇跡だ。バーカ。」
奇跡…か。
もし、本当に…優里さんとの幸せが奇跡なら。
もし、それが叶うとしたら…
俺は…自分の壁を壊せそうな気がする…。
…壊したい。
気がしてる。
「おまえは?」
「何?」
「女からのプロポーズも、俺はありだと思うけど。」
「……」
華月は首を傾げて俺を見て。
「…今はないかな~。」
わざとらしい笑顔。
「…溜め込まずに吐き出せよ?」
「そうしたい時はする。」
「あ、でも明日は勘弁してくれ。」
「そうしたくなったら、明日でも呼び出すかも。」
「おいおい~。」
「冗談よ。明日はあたしも予定あるし。」
「予定?」
「仕事仲間とね。たまには、そんな誕生日があってもいいかな。」
そう言って、またパスタを食べ始める華月。
俺は、この時…
華月がどんなに思い悩んでるか。
分かってるつもりで…全然、分かっていなかった。
* * *
「ちぃーっす。」
店先で鼻を赤くしてる絵美さんに声をかけると。
「…軽い登場ね、社長。」
絵美さんは目を細めて、大きなバケツを抱えた。
「花束、教えてもらった住所に配達でいいのね?」
「よろしくお願いします。」
「彼女のも?」
「明日信じられねー仕事が入って…」
「…仕方ないねー…」
そう。
華月が帰った後…
「社長。明日、ミラー社の専務がどうしてもお会いしたいと…」
深田さんが険しい顔で言って来た。
「…明日?」
「はい。しかも…夜…J.M.Bホテルのクリスマスパーティーに同席して欲しい…と…」
「…なんで?」
代わりに深田さんが出るとか、総務の若い男に行かせようだとか…色んな話は出たが。
みんな家族がいるしなー…って。
俺はどうしても、そこを考えてしまう。
俺にも…一緒に過ごしたい人はいるけど…ミラー社は桐生院の父さんが苦労して契約を結んだフィルム会社だ。
今、アメリカ支社が大きくなってるのも、ミラー社との提携があったからこそ。
で…結局出席する事にしたんだけど…
「パートナーは…」
「……」
まさかいきなり優里さんに仕事のパーティーに同席させるわけにはいかないし…
って事で。
華月にお願いした。
『えっ、ミラー社って、あのミラー社?ハリウッドに本社があって、空港に大きなスクリーンの看板出してる、あのミラー社!?』
…適任。
俺から一緒に過ごして欲しいって言ったのに…優里さん、怒るかなー…
いや…
泣くかなー…
「で?今日はお詫びの花束か何か?」
「……」
何も考えずにここに来てしまったな。と、自分でも少し驚いた。
このガッカリ感を誰かに言いたかっただけかもしれない。
でも、お詫びの花束か…
それもありかな…
「じゃあ、特別な一本を。」
肩を落としたまま言うと。
「もう…そんなマイナスオーラで特別な花を持たないでよ?」
絵美さんは俺の肩をバシッと叩いた。
「いてっ。」
「やわだなー。社長。」
「……」
クスクスと笑いながら店に入る絵美さんを見て。
この間まで、すっげー落ち込んでて暗い女だったとは思えねーなー…と、ちょっと思った。
相変わらず32歳ぐらいには見えるけど…笑顔は増えた。
それに…少し服の色も明るくなった。
自己満足と余計なお節介ではあったけど、話せて良かった…
なんて。
これまた、超自己満足で頷いた。
* * *
「ごめん。」
「……」
「ほんっとうにごめん。」
優里さんちに帰って、明日一緒に過ごせない事を告白して。
すぐさま跪いて、絵美さんに作ってもらった赤いチューリップを一輪差し出した。
「すげー悔しいんだけど…でも俺が行かないと、他の人が行く事になるからさ…」
「……」
優里さんはそんな俺の前に立って…少し不思議そうな顔…?
「…怒ってる?」
見上げながら問いかける。
怒ってる顔じゃないけど、ついそう言ってしまった。
「…どうして…」
「え?」
「……ううん……」
ゆっくりとチューリップを手にして、それを見つめる優里さん。
…ああ…
花が似合う人だな…
立ち上がって優里さんの肩に手をかけると。
「聖君……」
優里さんはチューリップを胸に抱いたまま、俺の胸に頭をぶつけた。
「ん?」
「…あたし…」
「うん。」
「……」
「どした?」
「……あなたに…」
「……」
「……」
「……」
優里さんが自分から俺に何か伝えようとしてくれてる。
すげーワクワクした。
早く言ってくれー。とも思ったが、焦らずに待った。
だけど…そのポーズのまま…優里さんが言葉を発さなくなって…
「にゃ~。」
まるで、『もういいんじゃない?』と言わんばかりに…シロが足元に擦り寄って来た。
「…腹減らない?」
「…減ってる…」
「座ってて。何か作るか…」
料理をしようと、優里さんの肩から手を離しかけると…
優里さんが、チューリップを持ってない方の手で…俺の腕を掴んで。
その腕に…頭をぶつけた。
「…優里さん?」
「……あたし…」
「うん。」
「…聖君…」
「うん?」
「…大好き…」
…よく分からないけど…
優里さんは俺の首に腕を回して抱き着くと。
何度もキスを繰り返した。
優里さんの腰を抱き寄せて、それに応える。
背中に回ったチューリップが、『やったな』って励ましてくれてるようにも思えて。
明日の事はこれで何とかなるかな。
なんて…
俺は、『明日の事』って…
すげー…小さなくくりで考えてた。
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