鉄と魚
いつみきとてか
第1話 鉄溺れる魚
灰色の空から降りてくる酸性雨の粒がエルマーの体に当たっている。ここ何十年も雨は止まず空は一向に日を射さない。
一体いつからエルマーは日をみてないのだろうか。それはこの街に住む誰もが望んでいることなのだろう。
人は日がないと沈む。今や上を向いて歩いているものなどエルマーを除き、綺麗に溶かされていなくなってしまった。
自分だけが空を憂いている。
それが特別な何かに思えてしまっているエルマーはまだ十四歳だった。
エルマーの一日は溶け落ちた鉄を拾いあげて地上から地下へものを輸送するダストシュートのようなゴミ捨て場へと投げ入れる。返礼のようにその鉄に見合った量の食事と言っても長方形のカステラのような食べ物と一日持つか持たないかほどの水がダストシュートから出され、それを食べて棄てられたアパートの一室で床に就き一日が終わる。
地上から人の賑わいは消えた。人は見えない太陽にあきらめを覚えて、捨て、いつしか地上から地下へと生活を移動した。
地下鉄によって都市間を移動しては発展と争いを行ってきた。
いつしか人が住んだ地上の後は地下に住めない子供の住処となる。
地上に住む人を地下の人間はアシッドチルドレン。そう呼ぶようになったのはまだエルマーが幼かった頃の話。
アシッドチルドレンは一様に金魚鉢のようなヘルメットと宇宙服を連想させるなりをして鉄を拾い地下へと届けている。みんないつかは地下へと夢を見る。
エルマーは金魚鉢のようなヘルメット越しに息を吐く。このヘルメットがエルマーの山吹色の髪を酸性雨から守ってくれているが体を打つ雨がエルマーは好きであったし、いつか見えるかもしれない太陽も待ち望んでいた。
つまるところ、生きることが好きなのがエルマーであった。
いつもながらに鉄を拾い錆びたくず鉄に手を伸ばした時だった。
エルマーは肌に焼けるような痛みを感じると何かに気づいたのか、大急ぎで拾い集めていた鉄から重たいものを捨て去り、屋根がある建物に目掛けて走り出す。
体が建物に半分入った時だった。
到底雨とも思えない鉛のような重たい雨が天から地面に向けこれでもかと言わんばかりに降りてきた。
弾雨と昔一緒にいた仲間が言っていたのを思い出す。なんでも、銃と呼ばれる武器から発射される弾はこんな風だと自慢気に語っていた。
今日は偶々運がよかったとエルマーは安堵する。
「今日はここで寝るかなぁ」
ぼそっと呟く。
弾雨の中エルマーは安らかに瞳を閉じた。
鉄と魚 いつみきとてか @Itumiki_toteka
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