第11話 夢

総合病院から近場の空き家までたどりついた。

この空き家を緊急時のキャンプにしていた。

体育座りのままケツをずらしながら移動。

たっぷり22時間かかった。

空き家キャンプに入った俺は水をガブガブ飲んでカギを閉めて眠った。

眠っているあいだに夢を見たが過去の思い出を正確にトレースした夢だ。

そういえばゾンビ発生から二カ月ほどの間、夢は数回見た。

その夢は決まってゾンビパニック以降の記憶の夢だ。

テレビ画面やラジオの音声の夢。

昼間なに食べたか、家の前の道路のゾンビの顔。

夢なら多少のデフォルメや空想など非現実が入っても良いはずだが。

ゾンビ発生以降に見た夢は全て現実の記憶を再現しているだけだ。


俺の自宅がある町内を多数のゾンビがウロウロして警官まで噛まれて灰色の顔の世界はどうかしているが火災も消防車が来ないから猛烈に燃えたままだし自宅の裏手から叫び声が聞こえるけれども原因不明で恐ろしい車が衝突する音や犬が吠える鳴き声や赤ちゃんの泣き声が怖いから家にこもっていたら食糧はガンガン減っていって腹は減るしテレビやネットは停電して見えないしリアルに戦争が起きた時はこんな感じだろうか。


ゾンビ発生当時、俺は自宅でこもって耳を澄ませていた。

夜も昼も耳を澄ませていた。

これからゾンビ騒動がおさまるのか拡大するのかどうなるのか。

それを知りたくて耳を澄ませてじっと静かに聞いていた。

耳を澄ませたからって何かが聞こえてくるはずはないのだが。

ゾンビパニックなど誰も経験したことはないから。

耳をすませても何かが分かるわけでもないのだが。

でも俺は静かに耳を澄ませて聞いていた。

これから、どうなるのかを。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る