53 幻想街の最後
「モモ、この姿なら、平気、だろ?」
拓海は白い歯を見せて笑う。目から涙が流れ落ちていく。
「おれ、嘘の人間らしいけど、記憶あるっていうか、今さら昔のこと思い出したんだ」
ふぅ、と呼吸。かなり辛そうだ。
「二学期から転校でさ、友達できるかなって心配してたんだよなぁ。はは、こういう設定も犬子さん作ってたのか、こだわってるなあ」
ひと筋、ふた筋、涙が頬を伝う。
「ああ、おかしいなあ。おれは犬子さんの創作なのに消えるの怖いとか思っちゃうや」
に、と笑う拓海。
「モモ、なるべくひと思いにスパッと頼む。お前と話せて楽しかった。嘘に聞こえるかもしれないけどさ、全部おれにとっては本物だった。ナギサちゃん可愛いなぁとか、猿川はなるべく関わらんとこっ、とか」
「お前、雉なのか?」
猿川がそばにくる。
「結衣の演技にしちゃ、すげぇな」
「あっは、演技かな」
拓海が泣き笑う。
「おれ、騙してるつもりはなかった。だから、もし……もし、あり得ないけど、また会ったら遊んでくれ、おれと」
「拓海」
「おう感謝してくれ。大人しく斬られてやる」
拓海はぐっと反るように背筋を伸ばした。
「雉島」猿川がそっと拓海の肩を叩く。
「退治するのは桃田だけどよ。真のヒーローはお前だわ」
「だにゃん。雉、かっこいいぞ。最後、見届けてやるにゃよ」
拓海の顔が笑顔でいっぱいになる。そして音を立てて息を吸う。
「さあバイバイだ、斬ってくれ。ナギサちゃんと仲直りするんだぞ。あと大事なことをいう。から揚げを見るたび、拓海というカッコ良すぎる偉大な男がいたことを思い出すこと、絶対だ」
「わかった、拓海」
剣を握る手に力を込めた。拓海は笑顔のまま目を閉じる。おれも一度目を閉じて、剣を頭の上まで振り上げ、そこでちゃんと見ようと目を開けた。
うつむき、ゆったり腕を広げている拓海。その首めがけて、剣を振り落とした。
「バイバイ」
刃が当たった瞬間も。
首をすり抜け胸や腹まで到達したときも。
空気を斬るように何の抵抗もなく、血が噴き出ることもなく。
ただ白い光の筋ができて、星屑のような光る粒が空気へ舞い上がる。
「あ、痛くねーや」
拓海は笑った。その体は光り輝く砂になり、少しずつ散っていく。
「じゃあな」
「ああ」
崩壊が激しくなる。粉塵が混ざり、光る砂は、あっという間に消えていった。
「終わりだな」
猿川がいった。おれたちの体も幻想街も、何もかもがぼやけ、脈打つように点滅を繰り返している。
「帰ろう、元の世界へ」
そして。
ぷつん、と真っ暗になった。
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