47 猫と犬、雉も集合、犬の計画

「お前の妹が犬飼だったぁ」


 さっき起こった出来事を話すと、猿川は「ハァ、あいつ何やってんだ」と天を仰ぐ。


「やっぱにゃ、あのちび女は怪しかったもんにゃ」


 キビちゃんは何度もうなずいている。


「毛もじゃをモミモミしてきたとき、やべーやつだと思ったにゃん。キビちゃんの野生の勘がカチンカチン反応したにゃん」


「犬飼は、猿川の本当の幼なじみなんだよな?」


「まあな」

 猿川は眉をしかめる。

「あいつ、昔から変わってて」


 と、その時。


「猿川ァァァ」


 叫び声をあげながら拓海が路地を走ってくる。


「きーさーまーっ、成敗してくれるわ」


 ぐるんぐるんに腕を回し、「たくみんパーンチ」と繰り出す。べちん、猿川が片手で弾く。拓海は反動で転んだ。


「くっそー、魔王サッルカーワめ。わかっているぞ、お前がすべての悪であると」


「こいつ、全然わかってねーぞ」


 ブーツで拓海を軽く蹴る猿川。拓海は、「ひんっ」と声をあげ、おれの後ろに回る。


「モモ、ナギサちゃんが、ナギサちゃんがっ。猿川にあんなにくっついて!」


「何にゃん?」

「さあ」


 猿川とキビちゃんが顔を見合わせている。二人は意気投合してしまい、不快なほど距離が近い。猿川はすぐキビちゃんに肩を回すし、キビちゃんも猿川にばかり笑顔を向けている。


「モモっ、大変だ、ナギサちゃんが猿川の餌食に」


「ああまあ、……大丈夫だ。それよりよくここがわかったな。お前も飛ばされたのか?」


「何が大丈夫なんだ。ったく。そうだよ、お前がいなくなったと思ったら飛ばされて。さっきまで影に追われてたんだよ」


「雉、桃田は犬飼を見つけたぞ」

「だいたい絵本はどうしたんだ、重要な手がかりをなくし……え、見つけた?」


「拓海。犬飼、見つかったんだ」

「本当なのか、モモ?」


「そうだにゃんっ」


 拓海にキビちゃんが指を突きつける。


「呪いに勝つにゃんっ。犬を退治して世界を元に戻すにゃんよ」


「ナ、ナギサちゃん?」

「キビちゃんにゃん」


 拓海は目をひんむくと、肩をつかんできてガクガク揺さぶる。


「ナギサちゃんがニャンコになっとる、モモゥ、猿川のせいかっ、そうなのかっ。モモはこれでいいのか、いいのか、いいのかあああ」


「落ち着け、良いんだよ。ナギサは今猫なんだ」


「今猫なんだっ。お前まで。ふ、不潔だっ。最低だあああ」


「うるせぇ」


 猿川が一発殴る。ばたん、気絶の拓海。


「あっ」

 

「で、どうすっかな」

 猿川は手をぱんぱん払う。

「犯人がわかったとしても、どうやって呪いを解くか」


「犬を見つけるにゃん」

「そうなんだがよ」


 猿川は腕組みする。


「あいつのシナリオは、桃田、お前に助け出してもらってENDなんだ。鬼ノ城ナギサが鬼影の呪いをかけ、犠牲者である犬飼を桃田が助ける。桃太郎が鬼を退治するわけだな」


「そんな」


「って思うだろ? でもおれが知る犬飼は思考回路が変わってるんだ。今思えば、ここの風景とか、昔あいつと遊んだゲームに似てる。あいつはナギサを呪い主に仕立てあげ、お前が彼女に幻滅するよう仕向けたかったんだろう」


 言葉をなくしていると、猿川はぽん、と肩を叩いてくる。


「でも失敗した。犬飼は負けたんだ」

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