34 鬼退治の伝説
「でも修二くんと犬飼さんの関係が近しいとしたら、恋人同士だった可能性が高いよ」
ナギサも主張を譲らない。
「そうかな」と興味を示さないでいたが、「だって」と彼女は続ける。
「他校の修二くんと犬飼さんのつながりを考えたらそうなるでしょ。修二くんがいちばん積極的に呪いを解こうとしてる理由にだってなるよね」
「じゃあ犬飼さんってヤンキー?」
拓海が嫌そうな顔をする。
「もしかしてレディースなんじゃないの」
「お前、いつの時代の……」
「わたしの友達だと思う」
ナギサは申し訳なさそうなる。
「家に遊びに来てて修二くんと会ったんじゃないかな。家すぐ近所だから。ってことは、すごく仲良かったんだろうな、犬飼さん。忘れちゃってるなんて、わたしひどいよね」
「呪いのせいだから」
フォローするがナギサの表情はくもっている。
「そうだけど、やっぱひどいよ」
「ナギサちゃん、そんな気にしなくても大丈夫だって。助け出したら記憶も戻るっていうし、張りきって救出したらいいんだよ」
明るく返した拓海は、「うんうん」とひとり何度もうなずく。
「でもかなり状況が見えてきたぞ。おれとモモは犬子さんとクラスメイト。ナギサちゃんはクラスがちがうけど女子友。猿は彼氏。オッケー、だいたいわかった」
「それで具体的に何をやったらいいんだろうな」
やっぱり祠を見に行くしかないのか。そう思ったのだが。
「まずはこの呪いについて調べることだね」
拓海があごを触りながらいう。
「わたしサイトページを保存してます」
挙手するナギサ。
「見せたまえ、ナギサくん」
拓海がエアメガネを押し上げる真似をする。おっほん、と咳付きで。
「はい、こちらです」
「うむ」
拓海の横からおれも画面をのぞく。
「二人とも、
ナギサが聞く。
「ああ知ってるよ」
「ハイハイ、ウラね。知ってますとも。桃太郎のモデルのやつね」
「拓海、温羅は鬼のほうだって」
「鬼ね、うん鬼ですよ。モモ、君を試したんだよ」
「あっそ」
拓海がページをスクロールすると、鬼影についての説明があった。
「
「うん。温羅の首をはねたあと、影だけが逃げた。その影を封印したのがあの祠だって」
伝わる温羅伝説はいくつかあるが、朝廷から派遣された皇子が、吉備で悪行の限りを尽くしていた鬼を退治したものが有名だ。その鬼の名前が
皇子は一本の弓で二本の矢を放ち、温羅の左目を打ち抜く。血を流した温羅は雉に化けて逃げたので、皇子は鷹に変身してあとを追いかけた。
山中を逃げた温羅だったが、危うく捕まりそうになったので、雉から鯉に化けた。皇子は鵜になって温羅を捕まえる。
その後、温羅は打ち首となったが、その首はいつまでも腐ることがなく、大声で吠え続けた。
皇子は部下に命じて首を犬に食わせたが、髑髏になっても温羅は吠えるのをやめない。皇子は温羅の髑髏を地中深くに埋める。
「そして……と、
ナギサはふうと息を吐く。
「オカルトサイトでは、その打ち首の時に影だけ逃げて、と説明が続くわけ」
「そうみたいだな」
サイトの記載では、「影の討伐は困難なため祠を立て、そこに温羅の影を封じ込めた」とある。
「怪しい情報だけどね」
三人で顔を見合わす。でも現実に今、呪いの渦中にいるんだ。
封じ込められた温羅の影は、人々の守り神として存在する、とのことで、サイトには祠を使ってのまじない方法が記してある。
「温羅伝説を使って誰かが創作したオカルト話ではあるんだろうけど。でも祠はあったし、願い事をしたお札も貼ってあったから、効果あった、ってことよね」
「そうだな」
誰かがこの呪いを本当に試したんだ。そして本当に世界が激変した。
「このサイトさー」
ずっと難しい顔をして、「ほー」と「へー」しか発言してなかった拓海が、どんどん画面をスクロールしていく。
「呪いの解除方法って書いてないの?」
「残念でした。おまじないの方法しかないの」
「そう簡単じゃないか」
記載の「まじない方法」も、「とある呪文を唱える」となっているだけで、肝心の呪文は記してない。
おれたちは、はあ、と同時に嘆息する。
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