33 告げ口、疑問、猿川の彼女?

「ナギサちゃん、聞いてよ」

 拓海がすぐに告げ口する。

「あいつ、祠をぶっ壊したら犬子さんが出てくるんじゃないかって」


「ええっ」


「最終手段だっていってたけど」

「もう蹴飛ばしてたりして」

「乱暴だなぁ」


 ナギサはすっかりあきれているようだ。おれが、


「猿川は犬飼さんを知ってるみたいだった。はっきり思い出したわけじゃないようだけど」


 と話すと、


「本当? わたしには何もいわなかったのに」


 むっと表情を険しくする。

 

「おれとモモは、犬子さんって、クラスメイトじゃないかって話してたんだけどー」


 拓海がから揚げを食べながらいう。


「でも本当の記憶ってやつじゃ、猿川と犬子さんって、どういうつながりがあるんだ。だって、あいつ、他校の男子校に通ってたんだろ。な?」


 同意を求めてくるので、「猿川の記憶ではそうなってる」と答えた。


「なら、あいつの記憶が間違ってるってことあるかな。前からヤンキー願望があってさ。キャラ変に呪いを利用してるとか」


 おれたちの記憶だと、あいつ、真面目なメガネだろ? そう拓海。おれとナギサも、「まあ」「そうね」とうなずく。


 それでも猿川が犬飼を知っていることが嘘だと思えず、なぜ彼だけが彼女の名前に反応したのかが不思議だ。


 おれに彼女いる、と指摘したのも猿川。二重の記憶があると強く主張しているが、おれたち三人は、同じ夢を見ていたこと以外に、奇妙な現象は今まで感じたことはなかった。


「桃太郎、桃太郎、言い出したのも猿川なんだよな」


 おれがつぶやくと、「でも苗字がそうなってるのは本当でしょう?」とナギサ。


「同じ夢を見てて、そのメンバーが全員桃太郎にちなんだ苗字なんだもん。……わたしは鬼だけど」


 不服そうにそう付け加える。


「思ったんだけど」


 おれは考え考え口にした。


「呪いで現実を作り出した人と、おれたちに共通の夢を見せているのは、別の人なんだよな?」


「そっか」ナギサがうなずく。

「犬飼さんがやってるんだ。わたしたちに助け出してほしくて」


「ん、どういうこと?」拓海が聞く。


「呪いをかけた人は、この現実を本当だと信じさせたいわけでしょう?」


「この現実に違和感があると言い出したのは猿川だけど、同じ夢を見る奇妙な現象が起こっているのは、お前も認めるな?」


「あー、うん。で?」


「今の状況で困っているのは誰?」とナギサ。


「誰?」と拓海が問い返すので、「犬飼さんだよ」と教える。


「おぉ」


「つまり奇妙な現象を起こしてるのは、犬飼さんの力ってことじゃないか、って」


「違和感を起こして、『この世界はおかしいから元に戻して!』って。わたしたちに知らせてるんだよ」


「犬子さん、すげぇ」


「でも影が襲ってくるのは、呪いをかけた人の影響よね?」

「助け出すのを邪魔してるからだろうしな」

「ふーん。で、おれたちはどうしたらいいわけ?」


 と、おれとナギサは黙ってしまう。


「記憶を戻す努力をする、とか?」

「影が邪魔するなら、やっぱりまた祠を調べる?」


 そう提案するが、じゃあ、どうしろと、ってなると行動に出るわけでもなく。それでもナギサがややあって口を開いた。


「犬飼さんを思い出しそうな修二くんが、重要な役割をしてると思うんだけど」


「モモじゃなくて?」と拓海。

「桃太郎で主役じゃん」


「でも他の部分では修二くんの方が犬飼さんの影響を受けてると思う。本来の記憶がいちばんあるのは修二くんだもん」


「そうだな。あいつ、幻想街ではいつも影と戦ってたようだから」


「犬子さんを救い出そうとしてた、ってことか?」


「おれは誰かを探してる感じはしてたけど。影を見たのはあの日が初めてだった」


「誰か探してた、ってのは、おれも何となくわかる。それが犬子さんだったって話だろ?」


「たぶん」


「でもさ、猿川は犬飼さんとどういう関係なんだ? そこに話が戻るけどさ、あいつ、男子校にいたんだろ?」


 拓海のもっともな疑問に、

「修二くんの彼女かも」

 と、ナギサ。


「えっ」拓海と同時に驚く。

「なんかね」ナギサは眉根をよせる。


「修二くん、この呪いは恋愛絡みだ、って。詳しく聞こうとすると、『桃田に聞け』って。どういう意味かな?」


「えっ、どうだろ」


 視線が泳ぐが、ナギサは「だよね」と納得している。


「でも祠に、『犬飼さんを消して』ってあったでしょう? もし、修二くんがいうように恋愛絡みだとすると、誰かが彼女を消して得したってことよね」


「得って?」と拓海。


「犬飼さんと誰かが付き合ってて」

 ナギサはくすっと笑う。

「その彼氏を横取りしたくて、鬼影の呪いで彼女を消したのかも」


「ひえぇ」拓海がわめく。

「じゃっ、呪いをかけたやつは女子か」


「そうは限らないだろ」

 即座に否定すると、

「どうしてだよ」

 拓海が訝る。


「だって猿川がそう考えてるだけなんだから」と力説する。


「誰かを消したがる理由が恋愛絡みとは限らない。友情がこじれたとか成績で競い合ってたとか、いろいろあるだろ」

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