31 コンビニ集合、今日もナギサは黒一色
「な、どうだ? いる、いない、どっち」
「待てって。あー、男の店員しかいない」
「よっしゃ」
拓海が全力でガッツポーズをとる。
翌日の日曜日。
おれと拓海は学校近くにあるコンビニの駐車場にいた。
拓海は例のコンビニ姫が店内にいるかどうか気にして、「見て来い」と背をぐいぐい押してくる。
「ほんとにいないか? バックヤードにいるとかないよな?」
「そんなに気になるなら、自分で確かめて来いよ」
おれは拓海を押し返す。
「だいたい、お前より向こうのほうが会いたくないと思うけどな。もしかしたらトラウマになって辞めたかもよ。どうする、から揚げ小僧。お前が告白したせいで、あの人、心に深い傷を」
「モモっ、なんてこというんだ!」
「だってそうだろ。いきなりレジで告白したのはお前で」
「やーめーろっ。おれにとってもトラウマなの」
「ああ、そうですか」
昨日は夜になって拓海たちとやっと連絡がついた。どちらも親と遠出してただの、寝てただの、そんな理由で夜まで伝言に気がつかなかったそうだ。
結局、祠を見つけたことと影が出たことを簡単に説明するだけにして、詳しいことは翌日、四人で集合して話すことになった。
集合場所は、影が出現したあの公園になりかけたが、「もう行きたくない」とナギサが嫌がったので、高校近くのコンビニで落ちあう約束をする。
高校近くのコンビニといっても、駅とは反対側になるので、ナギサは場所を知らないようだったが、猿川が知っていたので、二人で来ることで問題解決。
拓海だけが、「いやー、あそこはどうかなー」と難色を示したが、多数決で決定となった。
「なぁ、モモぅ。から揚げ買ってきてくんない?」
「はぁ?」
「久しぶりに食べたくなってさー。でも買いに行く勇気が出ない。だから頼むっ」
「やだよ」
拓海は「いじわるぅ」と気持ち悪く甘える。
「ああ、ゆーうつだな。大好物にケチがついた」
「ケチつけたのは自分だろ」
「そうだけどー。ところで」
停車ブロックに座った拓海は、「ちょいちょい」と手招く。
「なんだよ」
「ナギサちゃんと猿川だけど。あの二人、どうなってんのかな」
ひそひそと話す拓海。「幼なじみだろ?」と返すが、「そーだけどー」と不満そうだ。
「でも猿川じゃんか。あいつ、ナギサちゃんに変なことしないよな?」
「変なことって?」
すると拓海は肩をぱん、と殴ってくる。
「変なことは変なことだっつの。あいつ、前は大人しいメガネくんだったじゃんか。くそ真面目で勉強ばっか。『君たちと関わるとバカがうつりそうだ』、みたいな」
拓海はメガネをくいくい動かす仕草をする。
「でも今はヤンキーじゃん、ヤンキー。あいつ、この夏になんかあったんだ。激変するなんて情緒不安定すぎだろ。ナギサちゃん、あいつと関わってたら危険だって」
「だから」おれは拓海に説明する。
「こっちの世界と本当の世界の話、お前にもしたろ? ピンとこないみたいだけど、猿川は元々ああいう性格なんだ、秀才イメージのほうが嘘。だから大人しくしとけよ。何があいつの地雷かわかんないし、バカなこといってると殴られるぞ」
「ヤダー、不吉ぅ」
拓海は自分を抱きしめ、じたばたする。
「猿川、怖すぎるぅ。桃太郎、助けてぇ」
「お前、そういうのが地雷になるって話してんだぞ」
「なんだよー。モモはブラック猿川が好きなのか。あんなガン飛ばし野郎に媚びへつらえってか」
……ブラック猿川って。
「あのな、今一番頼りになるのは猿川なんだよ。昨日、こっちでも影が出たんだ。拓海、お前、戦えないだろ? 雉って戦闘員っぽいけど、お前はケンケン鳴くだけな気がする」
「なんだとっ。全然戦うわ、戦闘員だわ」
拓海はぶんぶん腕を振る。
「でもよー。その偽世界だの、二重の記憶だの、よくわかんねーんだよな。モモが信じてるみたいだから、そうなんかなー、夢は不思議だもんなー、って。おれ、そういうレベルだかんな」
「わかってる。でもお前は、夢で――幻想街で影を見たことあるんだろ?」
「あの伸びる黒いやつだろ? ちらっとなら何度かな。でも、そいつがこっちにも出たなんて、おっかねぇよ。なんで出たんだ?」
「たぶん祠と関係してるんだと」
あの公園に祠があることを、拓海も知らなかった。いや、記憶にないといった。
「うーん。おれたちヤバい状況なんだろうけど実感ないなぁ。その、犬子さんだっけ。が呪いのせいで、幻想街に閉じ込められてるから、桃太郎とその仲間たちで助け出そうぜ、って話なんだな?」
「
「犬飼ね。いぬかい、いぬかい……、その子ってクラスメイトか何か?」
「……たぶん、そうじゃないかな」
もしかしたら、おれが付き合っていた彼女かも、という話は拓海にも伏せている。
「なーんで、助け出すのが、おれたちなんだろーな。嫌ってわけじゃないけど」
「苗字、かな?」
「桃太郎ってことかぁ? 犬飼に犬の字がついて、ちょうどクラスに、桃と雉と猿がいたから? あ、でもナギサちゃんはクラスちがうぞ」
「でも鬼だから」
「なるほどー。鬼ノ城でキノジョウだもんな。桃太郎で集めたわけね」
拓海は納得したのかどうなのか。ふんふん、と腕組みしてうなずいている。
通りを眺めていると、二人連れの自転車が近づいてくるのが見えた。ナギサと猿川だ。
「待ったか?」
キッ、とブレーキ音。
「いや、そうでも」
猿川の服装を見て、つい視線をそらしてしまった。ベージュのチノパンに、チェック柄のシャツ。正直、休日のお父さんみたいだった。
本人も自覚があるのか、「家によ、こんな服ばっかあるんだ。見ろよ」と先手を打ってくる。
「衣装チェンジまでしてんだぞ、この世界はよ。親も品が良くて『修二ちゃん』って呼んでくるんだぜ。あの口より手が出る親がっ。だから、はえぇとこ世界を終わらせよう」
拓海が、「魔王みてーだな」と耳打ちしてくる。やめろよ、地獄耳だったらどうするんだ。
「わたし、ちょっと買い物してくるね」
自転車を停めるとナギサがコンビニに向かう。彼女は今日も黒一色だった。黒のチュニックに黒のスキニー、黒のサンダル。
この日はトートバッグを肩にかけていたが、それも真っ黒。さらに犬猫論争していた、あの毛もじゃキーホルダーも、昨日と同じようにつけている。
「拓海」
足を蹴ると拓海が「うん?」とこっちを見る。
「お前、から揚げ買ってきてもらえばよかったのに」
「うるせぇ」
拓海のパンチを避けていると、猿川が「おい」と聞いてくる。
「桃田、祠にあった名前。犬飼って本当か」
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