殉職者

「はっ...はっ...はっ」


いつものように商品を売るため元気に人に声をかける商人たちそんな下町特有の喧騒をよそにカッ....カッ..と素焼き瓦を蹴り出す音を立てながら屋根の上を走る10代の若い女。少女の腕には自分より一回り大きい意識のない男がいた。そんな男を軽々しく抱え込み馬にも負けず劣らずの速さで走る。


「エリック...あなたは私が..」


少女はルーデル国に入って再び溢れた涙で視界がぐちゃぐちゃになりながらもただ屋根の上を全力疾走していた。彼女は国の中心を目指していた。国の真ん中には国王たち王族が住む城があり、その周りには貴族たちの住んでいる貴族街が広がっている。


貴族街に入るための門が見え屋根から飛び降り門番達に急いで開けてくれるように命令する。急に屋根から現れた男を抱えた少女の有無を言わせる物言いに門番達は即座に反応出来なかったが、彼女が王族だとわかり慌てて門を開けようとする。少女はすぐに門を抜け静かな貴族街の道を一人全力疾走する。


「門を開けてくださいっ! 」


少女はヴェルノ伯爵家の屋敷まで辿り着き、息を乱しながらもその屋敷の門の近くで作業をしていた庭師に通してくれるよう命令する。


「アリシア様っ! それにエリック様っ!」

「アリシア様。一体何があったのですかっ! 」

「エリック...エリックが...」


庭師は二人がだれだか分かると急いで門を開ける。門を抜けるとメイドたちが集まってき、満身創痍なアリシアと意識がないエリックを見て慌てて何があったのか話を聞こうとした。しかし三日三晩走った彼女には答える気力さえもなかった。

彼女は力尽きその場で倒れてしまった。


そんな時僕はエリーゼ先生から試験結果を聞いている最中だった。試験が終わってから半月見事魔法力782,剣力523と両方500を上回る結果が出たことをエリーゼ先生から知らされ喜んでる最中何やらメイド達が騒がしくしていた。


「何かあったんでしょうか? 」

「さてどうしたのでしょう。」


2人で疑問に思っているとこちらに向かって走ってくるメイドがそのメイドの険しい顔から察するに何か良からぬことがあったらしい。


「エドワード様、エリーゼ様。エリック様が帰ってこられました。」

「エリック兄様がっ!そうか帰ってきたのか。エリック兄様は今どこに」

「それが...」


言葉を詰まらせるメイド。何かあったのだろう僕は急いで屋敷に戻った。そこには険しい表情した父親と母様とリエール姉様それに見知らぬ女性がいた。


「エリック兄様はどこにいるのですか? 」

「エド。...エリック兄様は今ベットで寝ていますわ」

「一体何があったのですか? 」

「それは...」


僕の質問に言葉を詰まらせるリエール姉様。エリック兄様は初任務で何かトラブルでもあったのだろう。


「いいリエール。私が説明しよう。エリックが任務に出ていたことはエドも知っていると思うがどうやらエリックの部隊で3人の殉職者が出たらしい。幸いエリックは無事だがいつ意識が戻るかは分からない状態だ。」

「話の途中申し訳ございませんが私はこのことを報告に行かねばならないのでこれで失礼させてもらいます。」

「ああご苦労だった。」


見知らぬ女性はそう言って部屋を去っていった。殉職者の情報は彼女から得たものだろう。


「彼女もエリックの部隊メンバーの1人だ。彼女とアイリスが別行動をしたらしいが戻ったらエリック以外全滅していたらしい。どうやらエリック達は化け物に襲われたそうだ。それが敵国の兵器なのか自然発生したものかはまだわからないが」


どうやらまだエリックが目覚めていないのでまだ詳しいことは分からないらしい。近年、戦争とは言っても長い睨み合いが続き大きな動きはほとんどなかった。そんな中で比較的な安全な後方で調査任務を行なっていたエリック達が襲われたのが敵国によるものだとすればそれは緊急事態だ。

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