精霊魔法

カッカッと言う音を立てながら早歩きで歩くエリーゼ先生それに付き従う人々。彼らもエリーゼと同じ研究者で精霊魔法に気づいた者達だった。エリーゼ先生はエドワードの試合の後、会場を抜け出し彼らを率いてある場所へと向かっていた。


「アルバード様。精霊魔法の使い手が現れました。」

「知っておる。ここから見ておったわい。」


ここは試験会場を見下ろせる個室のvipルーム。そこにはルードア王国の試験で測定不能を出した唯一の超級魔導師でこの国最高戦力であるアルバードがいた。同時に彼は精霊魔法の権威であり彼ほど精霊魔法に詳しいものはこの国にはいない。


「アルバード様これでルードア王国にも精霊魔法が」

「待つのじゃ。確かに精光が見られたが、あれは本当に精霊魔法なのかのう。あまりにも弱すぎる」


20年前突如現れた精霊魔法を使う人間。それは国家間のパワーバランスが崩壊してしまうほど強力な力だった。一瞬にして何十人もの魔導師を喰らう精霊魔法。ルードア王国も精霊魔法の使い手に50名強の中級、上級魔導師からなる大部隊を差し向けたが結果はここにいるアルバードを除いて全滅。まともにやり合えたのはこの国ではアルバードただ一人。その時の精霊魔法の使い手の特徴として精霊であろう光がその者の周りには飛んでいたのでアルバードはそれを精光と名付けた。エドワードにもその精光が見られたがかつてアルバードが戦ったものに比べればエドワードの精霊魔法はあまりにも弱かった。


「あれが全力なのであれば戦力としてはあまり使いものにはならないが、精霊魔法の研究これで進む。もしかしたら精霊魔法がわしらも使えるようになるかもしれんのう。そもそもあの少年はいかにして精霊魔法を手に入れたんじゃ。」

「アルバード様。私はあの少年、エドワード様の家庭教師として今やっております。生まれた頃からエドワード様を知っていますが最近魔力が増大するという妙なことが....しかし昨日まで精霊魔法など一切使えていませんでした」

「そうじゃったか。魔力の増大とはまた奇怪なことじゃな。それが精霊魔法の使い手の特徴なのかはたまた偶然か早く知りたいものじゃのう」


エリーゼの話を聞きますます研究者としての血が滾るアルバード。すぐにでもエドワードを研究したがっているアルバードを見てエリーゼは心配になった。


「アルバード様。エドワード様をどうされるおつもりですか」

「今すぐにでも研究を始めたいものじゃが、少年はまだ幼い。そんな子供を戦いに巻き込んでしまうのは心苦しいものがあるのう。不幸中の幸いにも彼の力は精霊魔法とはいえとても弱々しい。しばらく様子見というところが得策ではないかのう。」


今は何もしないというアルバードの言葉にエリーゼは胸をなでおろす。精光のことはおろか精霊魔法のことを知ってるものなど研究者を含め一部の貴族や王族しか知らない。箝口令が敷かれ精霊魔法を使える人間の存在を知っているものなど王族と研究者である彼ぐらいのものだった。エドワードは精霊魔法が使えるとはいえこれからも他の子供と変わらず生活していけるだろう。しかし、エリーゼの周りで聞いていたものはそんなことは許さない。


「アルバード様、今すぐにも研究を始めるべきです。我々が精霊魔法を手に入るチャンスなのですぞ」

「そうです。1秒でも早く研究を始めるべきです。」


次々と研究を始めろという言葉が上がる。その数多くの言葉に対抗できるほどエリーゼの発言力は強くない。


「だめじゃ、まだ幼い子供を犠牲にしてまで進める研究ではないのう。」

「アルバード様この研究が遅れることによってどれほどの人がその命を散らせると、1人の子供の平穏な生活の犠牲など取るに足らぬこと」

「だめじゃ。わしは1度決めたことは絶対に覆さん。この話は終わりじゃ下がれ。」


そんなアルバードの物言いに愚痴をこぼしながらも次々と部屋を出て行く研究者たち。愚痴をこぼすがこの国の最高戦力としての確かな地位を築いて入る彼に従わないものはいなかった。


見慣れない天井だ。僕の部屋よりかは低く質素な白い天井。どうやら僕はあの後気絶したらしい。隣ではテリシアが眠っていた。


「んっ...エド..気分はどう」


リエール姉様が目をこすりながら聞いてくる。どうやら僕が体を起こしたことにより傍らに座って僕の布団の上に頭を乗せて寝ていたリエール姉様が起きたようだ。


「リエール姉様気分はとてもいいですよ体も異常なし」

「そう...それは良かった」


体が大丈夫だと証明するため体をよじるエドワード。リエールはまだ寝起きで視界が安定しない中そんなエドワード見て安心する。


「エリーゼ先生はどこですか? 」

「エドの試合が終わった後どこかへ行っちゃったわ」

「リエール姉様。僕一体どれくらい気を失っていたんでしょう」

「そうね3時間くらいかしら」


時計を出し確認するリエール。窓からはすっかり赤色に染まった空がみえていた。すると隣で見ていたテリシアが目を覚ました。


「おはようございます。エドワード。リエール様。どうやら私は気を失っていたようですね」


リエールと違ってすぐさま意識を覚醒させるテリシア。即座に自分の状況を判断した。エドワードと違ってテリシアが目を覚ますのを待っている人はいなかった。


「2人とも、体の方は回復魔法で直してもらったからもう帰って大丈夫みたいよ」

「そうですかそれでは外で迎えのものが待ってると思いますのでこれにて失礼します。......エドワード、次に戦うことがあればその時は決着をつけましょう。」


リエールの言葉を聞いてそう言い残し颯爽と部屋を去っていった。部屋にはリエールとエドワードが残された。


「相変わらず忙しい子ね。わたし達も帰りましょうか」

「そうですね」


エドワードはベットから降りリエールと一緒に馬車へと向かう。そこではなんとエリーゼ先生が待っていた。何故医務室に顔を出さなかったのかリエール姉様に不満を投げかけれ困るエリーゼ先生。そんな2人を傍らでエドワードは見守りつつ3人で屋敷へと帰っていったのだった。

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