試験
「エドワード様遂にこの日がやって来ましたね。」
支度を終え中庭に出るとそこにはすでにエリーゼ先生が待っていた。4月1日やっとこの日がやって来た。この日は記念すべき僕の初の試験日だ。試験にはエリーゼ先生が同行することになっていたが、それに加えて春休み中ということでリエール姉様もついてくるということだ。試験会場までは馬車で移動することになっている。
——あまり馬車に乗った経験がないから興奮してしまうな
馬車に乗り込むとすぐに馬車は動き出した。ヴェルノ伯爵家のはじめての馬車を僕は窓の外を見ながら楽しんでいた。僕の隣に座っていたリエール姉様は何やらエリーゼ先生と話している。
「リエール様知っていますか今日はテリシア様がくるそうですよ」
「そういえばエドと同い年だったわね。一年ぐらい会ってないけどあの天才はどこまで強くなってるのかしらね」
「そこまで強い方なんですか。」
昨日聞いた名前が出てきたので思わず僕はリエール姉様に聞いた。
「そうね。確かに強いわ4歳で既に身体強化を使いこなしていたわね。けど大丈夫エドには敵わないわ」
その発言にエリーゼ先生は苦笑いしているのを見てあてにならないと僕は判断した。それからしばらくすると周りには同じように馬車が走り、ようやく会場に到着したようだった。
それは突然のことだった。人と人の間を抜け馬車から降りた僕の方に電光石火のごとく一直線に走ってくる少女。気がつければ目の前に剣の切っ先が迫っていた。僕はリエール姉様が腕を引っ張ってくれたおかげでなんとかその剣を避けることができ、リエール姉様はもう片方の手で少女の突き出された腕をそのまま受け流した。
「流石リエール様。まだまだ私には修行が足りなかったようですね」
「テリシアあなたどうゆうつもりよ。エドが怪我したらどうするの。」
「そんなことにはならないでしょう。『白』のリエール様とエリーゼ先生がいるんですから」
僕が怪我することなど全く考えていなかったというふうに悪気なく話すこの少女はどうやら今回試験を受ける第3王女テリシア様らしい。リエール姉様は過去に面識があるらしく親しげな様子だった。
「はじめましてエドワード様ルードア王国第3王女のテリシアと申します以後お見知りおきを」
と見事なカーテシーをしてみせるテリシア。エドワードはあまりの出来事に頭が追いついておらず固まっていた。
「どうやら驚かせてしまったようですね申し訳ございません。私にはやることはあるのでこれにて失礼させてもらいます。」
テリシアはそう言って去っていき他の貴族達と挨拶を交わしていた。エドワードはまるで嵐のような出来事にただ呆然とするのだった。
「相変わらずだわテリシアは。エド大丈夫よ今あったことは気にしなくていいから」
「...リエールお姉様助けていただきありがとうございます」
「そんなの当たり前よエドが怪我なんてしたらたまったものじゃないわ」
そのあとすぐに試験官に号令をかけられ今回受けるであろう子供達は試験官の先導に従う。
今回の試験で模擬戦が行われるのは最後だ。まずは魔力測定をするために試験官に連れられてくるとそこには僕の頭より一回り大きい大きな透明な丸い球体の石があった。どうやら魔力測定にはこの石を使うらしい。
「皆さんにはまずこここに手を当て魔力を込めてもらいます。その時の色で魔力の強さを判断します。魔力の強さは下から紫、藍、青、緑、黄、橙、赤となっています。それでは準備のできた人から名前を名乗ってやっていって下さい。」
次々と名乗り手を当てていくが、みんなだいたい藍色で5人に1人ぐらい緑、青と言った様子だった。すると先ほど切りかかって来たテリシアの番が来た。
「流石ですねテリシア様。黄色とは中々見れませんよ」
「ありがとうございます。残念です。姉様には及びませんでした」
テリシアの言葉は顔の表情には出ていないが言葉からどこか悔しさが伝わってきた。エリーゼ先生の話によるとテリシアの姉であるアリシアは5歳の時に赤色を出していたらしいそれはここルードア王国で7人しかいない中々貴重なものだった。僕はみんながやってるのを見ているとついに最後の1人となってしまったので一歩前に出る。
「ヴェルノ伯爵家が次男エドワードです。」
そう名乗り僕は手を当てて魔力流す。すると橙色に輝き出した。
「...これは素晴らしいですね。今回の試験で黄色だけでなく橙まで見れるとは」
試験官はこれは驚いたという様子で目を見開いていた。周りの人達は橙色に素直に感心するもの敵視するものと反応は様々だった。エドワードはそんな色々な目線に晒されて少し気分が悪くなる。
「驚きました。まさか橙色の方が現れるなんて」
試験を終え元の場所に戻るとテリシア様が声をかけてきた。僕はさっきのこともあったため身構えてしまう。
「テリシア様。申し遅れました。僕はヴェルノ伯爵が次男エドワードです。」
僕はさっき名乗れなかったことが少し気がかりだったので出来るだけ丁寧にお辞儀をしながら名を名乗る。
「エドワードと呼んでもいいかしら。私のことはテリシアと呼び捨てにしてくれていいわ。これからお互い仲良くしましょう。」
笑顔を向けてくるテリシア。エドワードはその完璧な笑顔に思わず見惚れてしまう。
橙色が現れたことにより子供達の付き添いできた貴族達はざわつきを見せていた。
「これはなかなか珍しいものを見せてもらったな」
「ヴェルノ伯爵家は長男のエリック様長女リエール様に続き次男エドワード様も例外なく優秀なのか。リエール様に関しては最近『白』の座についたとか」
「1年で称号持ちというのは5年ぶり、5年前は彼の兄を含め2人いましたからね。そうなると彼も一年で称号持ちになる逸材かもしれません。目をつけておくべきかもしれませんね。」
そんなことを話しているなどつゆ知らず僕はテリシアと次の試験場へと移動していた。
「知ってますかエドワード。私のお姉様とあなたの兄であるエリック様はこの5歳の試験の時に模擬戦で戦っているんですよ。」
「....知りませんでした。エリック兄様は第2王女様と...それでその戦いはどちらが勝ったのでしょう。」
「エドワードさっきから気になっていたんですが同い年なんですから無理に敬語を使おうとしなくていいですわ。試合はエリック様が勝ちました。アリシア姉様は魔力赤を出し当時から色々な属性魔法を使うほど魔法の才能に溢れていたのですが、エリック様の剣の腕は同年代では並ぶものがいないほどですからね。私はエリック様から剣を習ったことがあるんですよ。」
自慢げに話すテリシア。初耳だった。エリック兄様はあまり語らない人なので知らないことが多い。勿論剣を教えてもらったことなど一度もなかった。エリック兄様に剣を習ったというテリシアにどこか嫉妬をしてしまっていた。
「今日はエリック様の弟が来られると聞いて楽しみにしていたんですよ。一体どれほど強いのか?今の私に勝てるのだろうか?わくわくして昨日はあまり寝つきが良くありませんでした」
「楽しみにしてるところ悪いけど、僕は君の思ってるほど強くないよ」
「そうですか? それは戦った時のお楽しみということで」
そうこう話しているうちに次の試験場にたどり着いた。そこにはカカシのようなものが何体か立っており脇腹は鉱石でできていた。
「今からここではこの木刀をこの脇腹に全力で当ててもらいます。身体強化魔法を使ってもらっても構いません。これも先ほどと同じように下から紫、藍、青、緑、黄、橙、赤となっています。」
あれがよっぽどなことがないと折れないとエリーゼ先生から聞いていた木刀だろう。なんでも衝撃に強い特殊な木と魔法でつくったをものしい。今度は様子を見ることなく一番手で名乗りをあげる。するとテリシアも並んで名乗った。
「藍色ですね。それでは次の方」
「テリシア様流石ですね緑です」
結果は一瞬で出た藍色だった。それから次々と受けていくが僕はその中で下から数えた方が早い。
——あれ、おかしいなもっといくと思っていたのに
魔力で好成績を残したためこの試験もいけるかなと思ったけど結果は惨敗だった。見たところ身体強化を使える人は半々というところだったが藍色は下の方だった。
「エドワード。あなた力が弱いわねちゃんとご飯たべているのですか」
「もっといいところまでいくと思ったんだけどダメだったみたいだね」
「あんまり悔しそうじゃないですね」
これが今の僕の実力なので真摯に受け止める。しかしこれじゃあ魔力が強いだけになってしまう。
この結果に貴族達ギャラリーはざわつく。
「エドワード様。剣はあまり得意ではないのかしら」
「そもそも身体強化も使えてませんでしたぞ。期待はずれかもしれませんな」
そう話している2人に迫り来る殺気
「あら私の弟に何か文句でもおありで? 」
「これはリエール様っ! そんなことは」
「ええ文句など」
弟の話をしている2人を不快に思ったリエールは目の笑ってない笑顔で2人に話しかける。他にもそれに似た話をしている人に次々と圧力をかけていく。エリーゼ先生が止めなければリエールは怒りで暴走していた。
そんな試験会場を上から見ている2人がいた。
「ねぇエリックあなたの妹が暴走寸前よ大丈夫なのかしら」
「全くあいつは..。あそこにはエリーゼ先生がいるから大丈夫だろう。」
「それにしてもあなたの弟の割には身体強化すら使えないのねエド君は」
「それを言うならアリシア。お前の妹は俺の弟の魔力に負けてるぞ」
「確かにね。ねぇ面白そうだからお互いの弟が勝つか妹が勝つか賭けない?」
「その賭けはそもそも成立しないんじゃないか模擬戦で弟とテリシアが当たる可能性は限りなく低い」
「それなら問題ないわこの私にかかれば造作もないことよ」
「...全くお前は無茶苦茶するな、しかし面白ろそうだ乗ろうじゃないか」
そこでは家族の前ではあまり話さないエリックの意外な一面があった。エリックは弟に内緒で今日の休みを利用しアリシアを連れて隠れてエドワードの様子を見に来ていたのだ。
「これにて測定は以上です。休憩を挟んだのち模擬戦を行いますお疲れ様です。」
あれからというもの走らされたり。魔力を一定量注ぎこみ続ける試験をしたり本当に大変なものだった。その結果僕は32人中13位というなんとも言えない順位に落ち着いていた。最終結果は模擬戦をした後の最後に出るらしい。ちなみにテリシアはというと32人中1位だった。
「お疲れ様ですエドワード。」
そう言ってベンチに座り込んでいる僕に飲み物を手渡してくれるテリシア。
「テリシアは疲れているようには見えないね。」
「私も疲れてますよ。ただ隠すのが上手いだけですわ。立場上見苦しい所をあまり見られたくないのです。」
僕には汗ひとつかいてないテリシアが疲れているようには全く見えない。試験を受ける前とまるで変わらない。テリシアの体力は底なしなのか。
その一方でリエール達は 先に模擬戦の行われる会場に移動していた。
「久しぶり。リエールちゃん一年振り」
「アリシア様っ!何故ここにいるのですか」
手を振りながら近づいてくるアリシア。そんなくるはずもないと思っていたアリシアの登場に驚くリエール。
「ん〜それはあなたのお兄様の付き添い? 」
「エリック兄様も来ているのですか!?」
「うん、ほらあそこ。」
アリシアの指差す先には一人で誰もいない模擬戦の会場を立って見つめるエリックがいた。
「エリック兄様来られていたのですか!」
「...やぁリエール。アリシアがどうしてもというものだから」
え?とアリシアの方を向くリエール。
「エリックが言うならそう言うことにしといてあげる。今日は妹の様子を見に来たの」
「そうですか。お二人は模擬戦も観ていくのですか? 」
リエールは多忙な二人がまだ見ていくのかを問うた。
アリシアとエリックがこうして油を売っていることなど滅多にないことだった。
「勿論。エドくんとうちの妹の戦いは見逃せないからね。賭けもしてるし」
「え? それはどういうことですかアリシア様」
「エドとテリシア様は戦うことが決まっているらしいアリシアの手引きでな。」
「そういうこと。エドくんには悪いけどこの模擬戦は負けてもらうわ」
「それはまだやらなければわからないだろう。」
「そうですわ。エドが勝つに決まってます。」
「2対1かこれは言い争っては勝てる気がしないね」
淡々と言うエリックに言い放つリエールそれに笑いながら答えるアリシア。そんな言い争いをエリーゼ先生は温かい目で見守っていた。
「それでは模擬戦を始めさせていただきます受験生は控え室にお集まり下さい組み合わせを発表します。」
30分ほどの休みを終えると模擬戦の始まりを知らせるアナウンスが聞こえた。
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