第83話 記念写真


 観覧車がゆっくりと動き出す。

俺の隣に移動した薫は俺の肩に頬を乗せ、俺に体重をかけてくる。

見える景色がゆっくりと動く中、俺達は終始無言で流れる時に身を任せた。


「お帰りなさーい」


 スタッフがゴンドラの扉を開ける。

俺が先に降り、薫にむけて手を差し伸べる。

薫は俺の手を取り、ゴンドラから降りる。


「いかがでしたか? またのお越しくださいませ!」


 手を繋ぎ、観覧車の出口からゲートを出る。

ゲートを出た先の写真販売店と書かれた看板に目が行く。


「薫、写真販売だって。見てみる?」


 無言でうなずく薫。俺達は販売店に立ち寄った。

ここで記念の写真一枚くらいとってもいいかな? と思ったのでちょっと寄ってみた。

が、その考えは甘かった……。


「あ、いらっしゃいませ! 写真で来てますよ!」


 撮られた記憶はないが、写真ができていると?

気になって出された写真を見てみる。


 入園の時から乗り物に乗っている最中、昼食時、馬車の写真など今日一日の写真が数十枚。

い、いったい何時撮ったんだ?


「オススメはこちらですね!」


 出された写真に俺達は顔を赤くする。

観覧車の最上部でのシーン。隠し撮りか!


「あ、こ、これは! そうじゃないんだ!」


 俺はあわてて写真を隠そうとする。

が、薫は俺の手を握り、写真をまじまじ見る。


「全部。全部下さい。この写真は追加で五枚。データーも買えるのかしら?」


 ……。え? 買うんですか? 結構な量ですよ?


「はい! もちろん全部購入可能です。カップルチケットの方限定で、全部で五千円になります!」


 薫がポシェットから財布を出そうとする。

俺は、胸ポケットから財布を出し、現金をスタッフに渡す。


「ここは俺が出すよ。記念になるだろ?」


 スタッフに写真とデーターの入ったメモリーカードを受け取り、薫はポシェットに入れる。


「ありがと。大切にするね」



 そんな話を薫としていると、夜限定のライトアップパレードが始まり、俺達の目の前を通り過ぎていく。

マスコットキャラたちが勢ぞろいし、遊園地真ん中にそびえたっている城へ集まっていく。


 俺達はパレードを横目に馬車へ乗り込み入園ゲートへと向かう。

閉園の時間までもう少しあるが、未成年の俺達はそろそろ退園しなければならない。


 入園ゲートが近づき、馬車を下りる。


「本日はご来園ありがとうございました。馬車はここまでですので、着替えは出口ゲートの隣の衣装館にてご返却ください」


 馬車の運転手は俺達に挨拶し、マスコットキャラを乗せ城に向かって移動し始めた。

衣装館に向かって歩き出す俺達は、その手間にあるお土産館を横目にメインストリートを進む。


「純一。ちょっと待ってて」


「どうした?」


「化粧直しよ! それくらい気をきかせて!」


 はい。大変申し訳ありません。鈍感男で大変申し訳ありません。

ベンチに腰を落とし、空を見上げる。なんだかんだ言って一日遊んだな。





 しばらくすると肩を叩かれた。お、やっと戻って来たか。

振り返ると知らない女性がいる。


「お前が純一だな?」


 どちら様でしょうか? そんな貴族のような服を着た女性に俺は心当たりは全く無い。


「確かにそうだが、どちら様で?」


 にやりと頬を上げた女性が俺の目の前に移動し、腕をつかむ。

右に一人、左に一人。俺は左右の腕をつかまれ、強制的に立たされる。


「答える必要はない。用件だけを伝える。一人で帰りな」


 俺は一瞬背筋が寒くなった。薫はどこに!

少し離れた所に薫がいた。どうやら腕を後ろで縛られているようで、こっちも貴族っぽい女性につかまっている。


「薫! 大丈夫か!」


 俺は大声で薫に声をかける。


「私は大丈夫! 純一はそのまま帰って! 私の事は心配しないで!」


 その声に薫の後ろにいた貴族女性は薫の頬をつねる。


「別れのあいさつは終わったね。園内でイチャイチャ! 心底むかつくんだよ! お前を嫁に行けないようにしてやる! あははは!」


 そう言い放つと貴族女性は園内カートに薫を詰め込み、エンジンをかける。


「姉御! こ、この男性は! 好きにしちゃっていいんすか!」


 俺の腕をつかんでいた女性がカートの貴族女性に声をかける。


「バカヤロー! 男は丁寧に扱うんだよ! 顔に傷がついたらどうするんだ!」


「ス、スンマセン! だとよ。男性様はこのまま出口に移動だ。そ、それまでは私があなたの腕を掴んでも問題ないな。あ、あははは、男、男の腕……」


 や、やばい。色々な意味でやばい。俺の事はともかく、薫がやばい!


 俺が無理やり出口に連れて行かれそうになる中、ドンドン薫が遠ざかっていく。

なんとかしなきゃ、何とか……。



――フォン! フォン! キュルルルルルルルゥ キキィィィーーー


 こ、この音はまさか!


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