第65話 告白


 母さんの衝撃的告白から数分。

俺の目の前には手の甲を差し出した由紀。

ここに居る全員が一言も話すことなく、沈黙の時間が流れる。

俺はこの手を取り、由紀の出した答えを受け取ってもいいのだろうか?


「母さん、俺が付きあう女性の条件はあるの?」


 ふと気になった。将来結婚するとなれば、母さんと同居もするだろうし、嫁対姑の構図もちらほら見える。

先につぶせる芽はつぶしておいた方がいい。


「母さんからの条件は無いわ。純一さんの決めた相手であれば、母さんは快く受け入れます」


「分かりました。入学前までに三人ですね」


 俺は手を差し出した由紀を見ながら、席を立つ。


「母さん、ちょっと薫と由紀と話がしたい。母さんの話しはレイとマリアから先にお願いしても?」


「いいですよ。ではレイ、私の部屋に」


 母さんは席を立ち、リビングを出ていく。

レイも母さんの後を追い、同時に部屋を出ていく。


「薫、由紀。ちょっといいか?」


 手を差し出した由紀は不満そうに手をひっこめ席を立つ。

薫も無言で席を立ち、俺の方を見ている。


「二人に話がある、ちょっと俺の部屋でいいか?」


「私はいいけど、由紀ちゃんへの対応はこのままでいいの?」


「あぁ、由紀には俺の部屋でちゃんと話す」


「兄さん、私に恥をかかせましたね……。ひどいです!」


 ふくれっつらの由紀は頬を膨らませ、俺を睨んでいる。


「まぁ、そう言うなよ。じゃ、二人とも行くか」


 俺はリビングを出て自室に戻る。二人も部屋に入りさっきまで座っていた場所に座る。


「さて、さっき母さんから話が合った通りだ。二人の意見を聞きたい」


 俺の心情や今後の事より二人の率直な意見を聞きたい。

母さんやマリアがいたところでは話しずらいだろうと思い、部屋を移動した。


「わ、私は別に……。ねぇ、まぁ、あれ、あれよ、あれ……」


 薫はどもっている。はっきりとしない。あれって何ですかぁ?


「はぁ……、薫さん。ここまで来てそれですか? 正直がっかりしました。何を躊躇(ちゅうちょ)しているのですか?」


 由紀は席を立ち、俺の隣に移動する。

そのまま正座し、両手で俺の手を握る。真っ直ぐ俺の瞳を見ながら、由紀の口が開く。


「兄さん。さっきも言いましたが、私の生涯を兄さんに。兄さんの為に全てを捧げます。苦楽を共にし、どんな時でも支え合いましょう。世界で私が一番兄さんの事を理解し、支えることができます」




――ドクンッ


 俺の心音が高まる。妹とはいえ、それなりの美少女にここまで言わせる俺自身にグーパンチをしたい。

俺はそこまでの男なのか? 正直に言えば嬉しい。俺からではなく、女の子から愛の告白を受けるなど死ぬまで無いと思っていた大事件が目の前で起きている。



 ん? いや、まて。女の子から告白されて、受けるのは男らしくない?

男らしく俺から告白し、女の子に返事をしてもらうお決まりのパターンからそれてしまう?

俺ダメじゃん。俺から告白しないと。



「ありがとう、由紀。嬉しいよ。薫は? 俺は薫の気持ちを知りたい」



 由紀に手を握られながら、俺は薫の方に目を向ける。



「わ、私は……。純一と一緒にいたいと思ってる。でも、それが愛情なのかは分からない。でも、純一の事は誰よりも、大切な人だと思ってる……」


 もじもじしながら薫は答える。でも、そのまなざしは真剣だ。


「そうか、薫もありがとう。俺は嬉しいよ」


 俺は由紀の手を振りほどき、席を立つ。

机の引き出しから紙袋を取り出し、箱を二つ手に取る。


 一つは由紀の手に。

 一つは薫の手に。



「二人とも開けてみてくれ」



 二人とも同時に箱を空ける。

そして、びっくりしたような顔をしながら、薫は笑顔に。

由紀は半泣きになりながら箱の中身を見ている。




「俺はそんなにいい男ではない。二枚目でもなければ運動も人並みだ。勉強だってそれほどでもない、ただ平凡な男だ。でも、俺には誰にも負けない真心を持っている。俺の心を二人は生涯を通して、受け取ってくれるか?」




 何度目の告白だろう。

今まで全敗の告白。たとえ、今日ここで負けたとしても俺は立ち上がれる。

人を好きになる気持ち、守りたいという願い、一緒にいたいという心。


 その心が動いた時、その心を俺は伝えたい。

言わなければわからない。伝えなければ、俺の心は黒くなってしまう。

自己満足かもしれない。でも、俺は自分の心に嘘はつきたくない。


 俺は将来を共にする、彼女が欲しい。

もちろん下心がないと言ったら嘘になる。


 それ以上に、俺は心を互いに分かり合える貴女(ひと)と共に過ごしたい。

それが俺の願い。



「わがままかもしれないが、俺は薫も由紀も失いたくない。ごめんな、わがままで……」












――ガチャッ



「わ、私には無いんですか!!」


 突然部屋に侵入してきたのはマリア。


 ちょーー! いい雰囲気だったのに、ぶち壊しじゃないか!

俺はまだ返事を聞いてない! 二人だって、今は邪魔されたくないと思っているんじゃないか?



 恐る恐る二人を見てみる。

あ、薫から赤き虎のオーラが。そして、由紀から黒き竜のオーラが。



 こ、これはまずんじゃないか?

俺の脳内スカウターが二人の戦闘能力をはじき出す。


 や、やばい。とてつもない数字だ。

俺はゆっくりと後ずさりし、ベッドに這い上がる。


 そして、戦闘力が上昇中の二人は無言で箱を閉じ、テーブルに置く。

由紀と薫の目線が交差する。互いに無言だが二人でうなずいている。


 そして、二人同時にマリアの方へ歩み寄っていく……。


 新たな修羅場。そして、今ここに最恐タッグが生まれた……。


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