第66話 母さんとの面談 レイ


 私は自室にレイを招き入れ、テーブルの奥側に座る。

私の部屋は和室で、テーブルの隣には座布団が4つ置かれている。

レイは私の向かい側に座り、しばし沈黙の時間が流れる。


「二階が騒がしいわね」


 二階からいつもは聞こえてこない騒音が聞こえてくる。

いつもは聞こえてこない音だけに、若干ではあるが不安になる。


「きっと何がゲームでもしているのでは?」


 レイはそう答えると、真顔で私の方を見つめる。

家に来てからほとんどの時間を私と共に行動し、ここ数年は色々な仕事を教えてきた。

きっと、私が不在でもやり遂げてくれるはず。そう信じていますよ。


「奥様、そろそろ本題をうかがっても?」


「そうね、早く終わらせてしまいましょう。レイには私の表側も裏側も、迷惑をかけてばっかりね」

 

「そんな事はありません。と言う事は、はやり例の件で本部に?」


「そうよ。話が早くて助かるわ。由紀と純一さんにこの事は?」


「大丈夫です。恐らくまだ何も知らないと思います。ただ一つ気になると言えば……」


 レイは少し言いにくそうに話を続ける。


「由紀様は少々、行動が激しいと言うか、少しばかり対処に困る場面が」


 由紀は普段は猫を数匹かぶっているが、純一の事になるとその猫がいなくなる。

普段、思いもしないような行動をあっさりしてくる。

私も予想しない行動に、私自身戸惑うことが多くなったのは確かだ。


「そうね、最近は特に行動が目立ちますね。今日、その件についても本人に話しますね」


「助かります。さすがに私が純一様の事を言うと、矛先が私に向いてしまう可能性がありますので」


 由紀は若干過激派だ。普段は大人しいが一度火が付くとなかなか止まらない。

例えマリアでもレイでも手を焼くだろう。二人とも、それなりに鍛えてはいるが、本性を現した由紀は厄介だ。


「それでね、レイ。私が不在の間は家の事を任せます。これを渡しておきますね」


 レイに二枚のカードと通帳。そして、拳銃を一丁。


「奥様? さすがに拳銃はまずいのでは?」


「大丈夫よ。許可は取ってあります。ちなみに、ゴム弾なので、打たれても死ぬことはありません。ただ、かなり痛いけど。ですから、安心して発砲して下さいね」


 私は不安そうに銃を見ているレイに、満面の笑みで答える。


「そ、そうですか。このカードは?」


「一枚は家計用に。もう一枚は緊急対応費に。それなりの金額が入っているので足りると思います」


 家計用には三百万。もう一枚の方は二千万入っている。

私が不在の時に何かあってはまずい。それなりの金額が入っているので、しばらくは持つはず。


「分かりました。いざという時は……」


 レイは受け取った拳銃、ベレッタのマガジンを取り出し、弾数を確認する。

弾の先端がゴムになっている。ただ、それなりの威力を持った弾丸が発射されるので、撃たれたらひとたまりもない。


「もし、本部以外の人間が純一さん宛に来たら、その対応は分かっているわね?」


 レイは生唾(なまつば)を飲み込み、口を開き始める。


「生け捕りにし、拷問。そして、黒幕を吐かせ組織ごと壊滅」


 私は無言でうなずき、微笑む。

レイも覚悟を決めたようで、私に託されたカードを受け取り、ベレッタを腰ベルトに差す。


「定期的に連絡を。緊急事態の時は高速ヘリですぐに戻るわ」


「かしこまりました。奥様も十分お気を付け下さい」


「ふふっ。レイも十分気を付けるのよ。お互い、男性を守る立場として負けられないわね」








――ドッゴッーーーン



 二階からものすごい音が聞こえた。

何か激しくぶつかる音が聞こえる。金属が交差する甲高い音も聞こえてきた。



――キィィン カァァン バッターーーン



「レイ? 最近のゲームはリアルな効果音が出るのね」


「そ、そうですね」



 そして、私とレイは何気に天井を見上げるとゆらゆら揺れるペンダントライト。

そして、まるで二階で戦闘が行われているかのようなドタバタ音に騒ぎ声。



「二階の騒音が気になるわね。さて、次はマリアと話をする予定だし、マリアを呼んできてもらえるかしら? ついでに二階の様子も見に行ってちょうだい」


「かしこまりました」



 部屋を出て行ったレイを見送り、手元のスマートフォンのロックを解除する。



――メールを一件受信しました「コード八八一」


 私の心音が少し高鳴る。

コード八八一。コードヤバイ。


 間に合わなかった。本部が本格的に動く前に、奴らが先に動き出した。

レイ、純一さんを頼みますよ。


 純一さん。貴方(あなた)の思う幸せをつかみ取りなさい。

待っていても、願いは届かないわ。


 人より多くの事を考えなさい。


 人より早く行動しなさい。


 人より早く答えを出しなさい。 


 そして、誰よりも想い人を守りなさい。




 そんな事を考えながら、私はスマートフォンの画面をロックする。

もう少し、時間があればいいのだけど……。


 レイが部屋を出て行って数分。二階の騒音がピタリとやんだ。

きっとゲームを中断したのね。

でも、最近のゲームは本当にリアルな音を出すのね。

こっちまでドキドキするわ。いったい何のゲームだったのかしら?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る