第63話 家族会談


 あ、頭が痛い。ガンガンする。

いつの間にか俺は自分の部屋ではなく、由紀のベッドに寝てしまっていたようだ。

なぜか記憶が曖昧だが、いったい俺はなんで由紀のベッドに寝ている?


「兄さん、気分はどう? 少しは楽になった?」


 俺の目に映ったのは笑顔の由紀。

あ、俺は由紀に口づけされたんだっけ……。


 あれ? それからどうしたんだっけ? 思い出せない。


「気分は良いよ。ところで、俺はなんでここに寝ているんだ?」


 由紀はベッドに寝ている俺の隣に座り、両手を握ってくる。


「兄さんが急に倒れてしまったので、由紀が兄さんをベッドに運びました!」


 そうか、俺はに倒れたのか。若干記憶があやふやなのはそのせいだなきっと。


「ありがとう。理由は分からないけど、助かったよ。ところで薫は?」


 バツが悪そうに、俺の目から視線をそらす由紀。

目が泳いでいるとはまさにこの事だろう。


「か、薫さんは兄さんのベッドで横になっています。そろそろ起き上がると思いますよ?」


「そっか。じゃぁ、薫の所に戻るか」


 ベッドから起き上がり、由紀と一緒に自室に戻る。

そこにはベッドに寝ている薫。正確にはベッドの上で、布団を被り超絶ゴロゴロしている。

薫はいったい何をしているんだ? 元気なのか?


「おーい。俺の布団でゴロゴロしているのは薫か?」


 念の為、布団をはぐ前に声をかけてみる。

声をかけた瞬間、その動きは止まりもぞもぞし始めた。い、いったい中で何が起きている?


「そ、その声は純一ね。ちょっと待ってね。」


 布団をマントのように肩にかけ、顔だけ出す薫。

若干頬が赤くなっているが、さっきよりは随分顔色がいい。


「ご、ごめんなさいね。急に倒れ込んでしまって。迷惑かけたわね」


 今の格好はともかく、元気になったようだ。


「由紀ちゃん。ちょっといいかしら?」


 薫は目線を俺の後ろにいる薫に移す。由紀は下斜めをみつめ、薫の方を見ようとしない。

さっきから左右の人差し指をグルグル回している。


「な、何でしょうか? 私は何もしていないですよ?」


「単刀直入に聞くわね。由紀ちゃん、寝ている私に何か飲ませた?」


 由紀のまぶたが大きく開く。あ、この反応、絶対に何か飲ませたな。



「え、えぇ。ぐったりていたので先ほど錠剤を少々……」


「そうだったの。あ、ありがとう。随分楽になったわ」


 薫は由紀にお礼を言う。言われた由紀は頬が少し引きつっているように見える。

なんか変だな。由紀らしくない反応だ。


「そ、それは良かったです。あー! そうそう! お母さんが帰ってきたので、由紀と兄さん、薫さんを呼んでいます! は、早く行きましょう! ねっ!」


 由紀は思い出したかのように俺達に母さんの事を話す。

そうか、母さんは帰ってきたのか。思ったより早い帰宅だな。何かあったのだろうか?


 マント布団から出てきた薫。まー、服は乱れていますね。

スカートがめくり上がり、太ももの付け根まで見えておりますが、俺には直視する勇気はない。

気が付いてすぐに目線を机の方に移す。


 机にはさっき投げ飛ばしたジャケット。俺はジャケットを回収し、袖を通す。


「あ! それが原因か!」


 由紀が突然大声を上げた。


「な、何が原因なんだ? 俺のジャケットが原因なのか?」


 慌てて由紀が両手と頭を横にブンブンふる。


「ちがっ! なんでもない! 大丈夫! 気にしないで! さ、先にリビングに行ってるね!」


 大慌てで由紀は部屋から出ていき、階段の駆け下りる足音がここまで聞こえてくる。

何をそんなに慌てているのか? 階段を踏み外したら危ないじゃないか。

後で注意をしておこう。


「さて、薫。もういいか?」


「えぇ、待たせたわね。所で、何で私まで純一のお母さんに呼ばれるの?」


「さぁ? 俺も呼ばれているけど、理由は分からん。とりあえず行くか」


 俺と薫は部屋から出て、階段を下り、母さんと由紀の待つリビングに行く。

テーブルにはすでに母さんと由紀が座っている。コーヒーも並んでおり、俺と薫はゆっくりと席に着く。

母さんの後ろにはレイとマリアがいる。


「お待たせしました。母さん、話ってなんですか? あと、薫も呼んだのはなぜですか?」


 俺はコーヒーを片手に、母さんに話しかける。


「そうね。どこから話そうかしら……」


 全員が言葉を発しなく、しばらく沈黙の時間が流れる。

時計のコチコチという音が部屋に響く。


「ゆ、由紀の事ですか? 由紀がこれからどうなるか、その話なんですか?」


 沈黙に耐えられなかったのか、由紀が母さんに問いかける。

母さんは由紀の方を見て、真剣な顔つきで口を開き始める。


「そうね。とりあえず由紀のこれからについて話をしようかしら」



 由紀の目に涙が浮かんでくるのが見えた。

今にも泣き出しそうな表情は、見ているこっちがつらくなる。


 由紀は膝の上に置いた手を強く握りしめ、涙を出さないようにくいしばっている。

薫も悲しげな表情で由紀を見つめる。



「京都……」



 全員が母さんの言葉を聞いた。俺が聞き間違ったのか?

今母さんは京都と言った気がした。


「四月から、京都に行くわ」


 母さんは確かに京都と言った。四月から京都。

俺だけが理解できないのか? なぜ京都?


 そして、俺は由紀の方を見る。

由紀の頬には涙のあとがあり、がテーブルには涙の落ちた後が残っている……。

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