第52話 薫のスキル


 「何で玄関が閉まっているんだ?」


 俺は薫と一緒に自宅に戻ってきた。

が、なぜか玄関が閉まっており、中に入れない。


「鍵、持ってないの?」


 薫に言われ、色々と探してはみたものの、鍵が無い。

そういえば、俺の持ち物には鍵らしきものは無かったような……。


「鍵は無いな。さて、どうしたものか」


 薫は俺の顔を見ながら玄関のノブをガチャガチャと回す。


「やっぱり閉まっているわね。 私が開けてもいいかしら?」


 ほぅ、あなたはそんなスキルをお持ちですか?

どっちにしても、中に入れないとここで待ちぼうけも困るな。


「ああ、開けていいぞ。扉とか窓とか物理的に破壊するのは無しだからな」


「大丈夫よ。安心して。ちょっと待っててね」


 薫は持っていた荷物を床に置き、庭の方に歩いて行く。








――ガチャ


「さ、入って」


 目の前の玄関が開き、中から薫が出てくる。


「どうやって入ったんだ?」


「後で説明するわ。とりあえず、荷物を中にいれましょ」


 薫に言われ、俺は二人分の制服と手に持ち、家に入る。

先に中に入っていた薫は俺の先を歩き、二階へと階段を上がっていく。

目の前には健康的な太ももが。直視していいものか、悩むところだ。


 そんな事を考えていると俺の部屋に着く。

なぜか扉が開いている。誰かいるのか? 薫は普通に部屋へと入っていく。

俺も薫の後を追い、部屋の中に。


 窓も開いている。空き巣か? ドキドキしながら部屋に変わったことが無いか見渡す。


「窓、閉めるわね」


 薫は何もなかったかのように窓を閉め、俺のベッドに腰掛ける。


「何故窓が開いていた? 部屋の扉も開いていたが?」


「ん? 私が窓から部屋に入って、玄関を開けたんだけど? 何かまずかったかしら?」


「あ、そですか。窓から入ったんですね?」


 ベッドに座っている薫はくつろいでいる。

俺は手荷物を床に置き、ジャケットをハンガーにかけ、装備品を机の引き出しに入れる。


「やっと帰って来たな。半日も外にいなかったのに、やけに疲れた」


「退院したばっかりだし、体力が戻っていないのかもね」


 薫の隣に腰掛け、そのままベッドに寝っころぶ。思いっきり背伸びをして両手を上げる。


「うーーん、疲れた!」


 薫が俺の顔を覗き込む。何か言いたそうな表情。でも、言いづらそうな顔をしている。

いい男はこっちから聞いてやるべきだろう。うん、俺はいい男になる。


「どうした薫。何か言いたそうだな」


「え? 何でも、ないわよ」


「そんな事言うな。何か言いたいんだろ」


 薫はモジモジしながら、俺にそっとつぶやく。


「今、家には誰もいないんだよね?」


「いないな。妹は友人と出かけているし、母とレイさんは仕事。マリアも仕事か? どちらにせよ、家には俺と薫の二人っきりだな」


「そうなんだ。あのさ、疲れている所申し訳ないんだけど……」


「おう。もう大丈夫だ復活した」


 そうだよ。家には俺たち二人っきりだよ。ここでナニか間違いがあっても大丈夫か?


 きっと大丈夫だろう。今思えば、病院で目覚めてから女の子と二人っきりでいい感じになってないな。

襲われそうになったり、密着されたり……。薫とだったらいいのか? いいんだよね?

さぁ、なんでも来い。お前の願い、叶えてやろう!









「喉かわいた。なにか飲み物持ってきてよ」


 そんな事だろうと思ってたよ。

うん、がっかりしてないよ。まったくしてないんだからねっ!







――カラン トクトクトクトク


 俺は今キッチンでコップに氷を入れジュースを注いでいる。

まったく、しょうがない奴だ。まぁ、一応客人だし、飲み物位だしてやろう。

たまたまレイさんもマリアも不在だ。俺がやるしかない。


 トレイに二人分のドリンクと、菓子を適当に乗せ階段を上がっていく。

茶菓子がなかなか見つからなかったので、探すのに時間がかかってしまった。

とりあえず、スルメと板チョコ、ピスタチオが発掘できたのでそれも合わせて持っていく。



――ガチャ


 部屋に入ると。なぜか俺の布団をマントのように身に着けた薫。

首から下が全く見えなく、俺の机の手前に立っている。

その顔は赤面しており、俺をじっと見ている。


「なんだその格好。ほら、ジュースと菓子だ。ありがたく受け取るがいい!」


「……めて」


「へ? 今何と言った?」


「ドアの鍵、閉めて」


 理由もわからず、とりあえずトレイをテーブルに置き、ドアのカギを閉める。


「どうしたんだ急に。それにその格好。ドラキュラか?」





 しばらく沈黙が続く。


「純一」


 薫が一歩俺に近づく。


「お、おう。何だ?」


「見てほしいの」


 薫がさらに一歩、俺に近づく。

ふと、足元に目をやるとさっきまで薫が着ていた服が落ちている。


 ホワイ。あの服はさっきまで薫が着ていた服だよね?


 見間違うはずないよね? と言う事はその布団の下は、スポポーンデスカ?



「な、何を見るんだ? 映画か?」


 お、俺は何を言っている。この状況で映画とか無いだろ!

焦るな俺! 落ち着け! 人と言う字を思い浮かべ、飲み込む!

一人、二人、三人……。 子供は三人くらい欲しいな!

って、ちがーう!


 薫がさらに一歩、俺に近づく。


「映画も今度、一緒に行けたらいいね」


「そ、そうだな。こ、今度行こうな」


  薫が俺の目の前に。

あと一歩、歩み寄ればお互いに触れてしまう距離。

この位置からでも、薫の吐息が聞こえる。


「純一に見てほしい。私の初めてを。他の誰でもない、純一に」



――パサァ


 薫の肩から布団が落ちた。


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