第51話 アンナの想い
私の名前はアンナ。
本名はもっと長いが、この国では発音が難しいらしく、知人にはアンナと呼んでもらっている。
私の国では男性が非常に少ない。幸運にも私は父と母、両親から生まれ、家族と共に暮らすことができた。父は元軍人、母は医療機関に勤めていた。私は良き父と母に恵まれ色々な事を教わりながら大きくなった。
父は息子が欲しかったようだが生まれてきた子供は私を含め全て女。
せめて孫は男の子がと、姉や妹、私にも話をする。
父の願いを叶える為でもあるが、私自身男性とお付き合いをしてみたい。
この国では男性の奪い合いが日常茶飯事。最悪の場合奪い合いの末死に至る者まで出るしまつ。
しかも、男児の出産率が極端に低い。世界統計で見ても明らかに低い。
ところが、日本という国は全世界でもトップクラスの男児出産率を誇っている。
私は自分の国を離れ日本という国で生活する事にする。
運が良ければ日本で男性とお付き合いができるかもしれない。さらに、その男性との間に男の子が生まれるかもしれない。あくまで確率の問題。私は成人と共に日本に飛び立つ。
父から教わった技術。主に対人格闘、重火器、多種多様の運転技術、語学。
母から教わった自分の精神コントロールや医療知識。これは今の生活に十二分に役に立っている。
日本に来た私は、父の紹介で護衛に仕事に着くことができた。
主に要人の護衛。今の所命の危険が伴った仕事はないが、たまに危険な仕事もある。
休日は主にこの国についていろいろと調べてみる。
そして数年間、色々な国にいく為何度も日本を離れ、現地で情報を収集、日本に戻って解析。
結果、私は一つの答えを見つけた。いや、見つけてしまった。
日本が男児出産率が高い理由。それは国民性が大きくかかわっている。
日本以外の国では女性が男性に求婚し、男性は誰でも受け入れ、ハーレム状態。
男性は寄ってくる女だったら誰でもいい状態だ。
ところが日本は基本的に結婚となると一対一。男性も女性を選ぶし、女性も男性を選ぶ。
恐らく、相思相愛で結ばれることが多いのだろう。
近年、複数の女性と関係を持つことが暗黙のルールとなっていたが、国家的には認められていない、
もし、日本の政府が気が付いたらきっと男性は複数の女性と結婚できるように法を変えてくるはずだ。
そうすれば相思相愛の男女が交際し、結果複数の関係を持つことになる。
生まれてくる子供は男児の確立が高くなる。
もちろん相思相愛でもなく、人工授精だったとしても男児が生まれる確率はある。
が、相思相愛の関係で生まれてくる男児出産率を比べると天と地の差だ。
私は、この国で男性と相思相愛になり、男児を生む。そう、心に誓い今日も誰かを護衛する。
―― ピッコ-ン! ピッコーン!
携帯が鳴る。このコール音は緊急コール音。会社からの緊急連絡の時にしかならない音だ。
「アンナです」
「仕事よ。装備αで、第一病院に。護衛対象者については現地で確認を」
「分かったわ。一時間以内で現地に」
用件だけ話すと電話を切る。装備の内容からそこまで危険度は高くないと判断。
まぁ、どこかの令嬢を護衛する位だと勝手に推測する。
いつか、白馬に乗った王子様が私を抱きかかえ、さらってくれないかしら……。
私も少しだけ筋肉があるけど、王子様はそんな私を力強く抱きかかえてくれるはず。
急いで装備を持ち、バイクで依頼先へと向かう。
場所は病院。それなり要人が運び込まれたのだろう。恐らく退院までの護衛。
黒い商売でもしてないかぎり、特に問題なく任務は完遂することができるだろう。
―― ウォン! ウォン! キュルルルルル! キキ――!
バイクで依頼先の病院に着く。ヘルメットを片手に、受付へと足を進める。
「失礼。先ほど依頼された護衛者だ。これは私の名刺。依頼人に渡してほしい」
名刺を受取った看護師が、受話器を取りどこかに内線をしているようだ。
私は少し離れた場所で待機する。事前に手元に準備した病院の図面を見る。
思ったより広い病院だ。全体をカバーするのは不可能だな……。
そんな事を考えていると、正面の扉から知った顔が近づいてくる。
「待っていたわ。早速こっちに」
「なんだ、真奈美さんか。今回もご指名ですね。ありがとうございます」
挨拶もそこそこに、真奈美さんの後についていく。
「ここよ。退院までの期間この子の護衛を。絶対に守って」
目の前には天使の様な顔で寝ている男性。
その顔は幼く、しかしどこか凛々しさを感じる。
「この男性が今回の護衛対象ですか?」
「ええ、緊急搬送で運ばれたけど、眠ったまま。いつ目覚めるかも……」
まだ若いのに、いったい何があったのか。
すこし真奈美さんと話をする。護衛の方法とタイムスケジュール。
病院の見取り図を見ながら通路の確認、非常階段や各種設備の場所など。
「じゃぁ、お願いするわね。何かあったらコールして」
「ああ分かった。手始めにこの部屋の安全確保からだな」
私は部屋のクローゼットに装備の一部を入れ、部屋の状態を確認する。
盗聴器、カメラ、窓の開閉やドアの施錠。特に問題が無い。
私は部屋に鍵をかけ、服を脱ぐ。下着姿になり、寝ている男性の隣に歩み寄る。
(良く寝ているな……)
私は持参した装備を身に着け、軽く準備運動をする。
寝込みは襲わない。私はいつでも男性に同じ態度をとる。
私は私が好きになる男性に好きになってほしい。相思相愛になりたいのだ。
だから、理性を持ち誠実な対応を心がける。
白馬に乗った王子様はこないかもしれないが、こんな私でも好きと言ってくれる男性がいるはず。
今はまだ出会っていない。でも、今、目の前にいる男性が未来の旦那様かもしれない。
そう、いつでも私は誠実に生きたい。それが私の生きる道……。
――ガチャ
「こ、こんにちわ」
扉が開く。そして、ずっと眠っていた男性が私を見て、声をかけてくる。
わ! 声かけられてしまった! ど、どうしよう……。
あぁ……、でもこの方の、男性特有の匂いが私の所まで漂ってくるのがわかる。
「えっと、ちょっとだけ部屋を出ますね」
彼がそう話すと私から離れて一人、部屋から出て行ってしまった。
あ、私も行かなければ。貴方一人では大変危険ですよ!
私は息を若干荒くしながら彼の後を追うのであった……。
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