第30話 夢の中で


 なんだか今夜はぐっすりと寝れる気がする。

今日は色々あって疲れた。さっさと洗面所に行くか……。


 部屋を出た俺は何となくつま先立ちで足音を立てないように歩く。

部屋を出て、階段を下り、一階の洗面所に行く。

どうやらみんなもう寝てしまったらしい。一階はとても静かだ。


 洗面所に向かう前に一階にある部屋から光が漏れているのに気が付く。

なんだ、まだ起きているのか。中から小声で話し声が聞こえる。

盗み聞きって訳じゃないけど、ちょっと気になるので、聞き耳を立てる。



『はい。問題ありません。このまま続けます』


 かすかに聞こえるが、誰の声だ? 小さすぎてわからない。


『その影響は少ないかと。……はい。……はい。了解しました。続行します』


 いったい何の話だろうか?

まぁ、いいやこれ以上ここに居たら怪しまれてしまう。

さっさと洗面所に向かおう。


 俺は洗面所の扉を開け、電気をつける。

歯を磨き、トイレに行ってそのまま自分の部屋に行く。


 うーん、疲れた。さ、やっと落ち着いて寝れるぜ!

念のため、部屋のカギをかけ、ベランダへ続く窓の前にはテーブルを移動しておこう。

外部からの侵入を防ぐためだ。

念には念を入れた方がいいよね。


 さて、明日は何時に起きようか……。ふぁぁぁ、眠い……。

ベッドに入り、俺は夢の中に落ちて行った……。






――――


――


 ん、何だ?

布団の中で何かがもぞもぞ動いている。



 何かいる!


 寝ていた俺の布団に誰か勝手に入って来た!

おおぅ! 俺の腕にしがみついてきた!

鍵をかけていたのにどうやって!? 

ピッキングされて侵入されたのか!

俺はもぞもぞ動き、誰が入って来たのか確認する。



「……てる?」


 こ、この声は……。


「……起きてる?」


 俺の胸の上に顔を置いている由紀の顔が見えた。


「……。由紀さん、どうやって部屋に入ったんだ?」


「秘密です」


 布団の中に入ってきたのは妹の由紀だ。

可愛いフリルの付いたネグリジェに身を包み、俺の腕をホールドしている。

胸を俺の二の腕に押し付け、太ももで俺の足を挟んでいる。


 どうやって侵入してきたのか分からないが、この状況はあまりよくない。

俺の睡眠時間が無くなるし、疲れも取れない。

だが、この感触は捨てがたい。


「どうして由紀はここで寝ている?」 


「久々に兄さんと一緒に寝ようと思って……」


 うーん、まぁ、ただ一緒に寝るだけならいいか。

ここで騒いでも寝る時間が無くなるだけだけだし……。

しかし、俺も免疫がついてきたのか、この状況をあっさりと受け入れてしまう。

もっと、皆に男に対する免疫をつけてもらって、俺自身が襲われないようにしていかないと。


「そうだな、ただ寝るだけならいいが、どうやって侵入したか教えてくれ」


「いいですよ。さっき、兄さんが一階に行った隙に部屋に入って、そのままベッドの下に隠れていました」


「今度、部屋に呼ぶと言ったじゃないか……」


「どうしても一緒に寝たかったんです……」


 由紀はわがままだな。この年頃の女の子はみんなこんな感じなのか?


「もう勝手に入るな。兄さんと約束だ」


「分かりました。今度からは先に声をかけますね」


 由紀は俺に体重をかけてきて、半身俺の上に乗っかってくる。

片足を俺のお腹の上に乗せ、顔を俺の胸の上に置き、目を閉じる。


「兄さんの匂い。いい匂い……。安心して寝れますね」


「ただ寝るだけだぞ……」


「分かってます、おやすみなさい……」


 胸と太ももの感触が気になり、なかなか寝付けない!

由紀は早々に寝息を立て、寝てしまったようだ。

そして、少しだけよだれが俺の服についている。


 こうしていていると、普通の子に見える。

妹じゃなかったら、妹じゃなかったらいい関係になれただろうか?


 俺も眠い……。

次第に思考が止まり再び夢の世界に……。










――――


――


『ごめんなさい、あなたとはお付き合いできないわ』


『ごめんねー、私好きな人いるんだよねー』


『付き合っている人がいるの、ごめんなさいね』


『ごめん! 純一とはずっといい友達でいたいんだ』


『純一先輩には、もっといい人がいますよ』



――痛い。

心が痛い。振られたくない。嫌われたくない。

今までの関係を壊したくない。だから、俺から想いを伝えられない。


 怖いんだ。想いを伝えるのが。

嫌なんだ。想っている人を失うのが。


 だから俺は、どんな彼女ができてもいいように、自分を高める。

どんな子に告白されても、一緒にいてお互いが幸せを感じれる関係を築くために。


 俺は、俺はただ彼女が欲しいだけなんだ。

一緒にデートして、ランチして、映画見て、一緒に笑て、手を繋いで。

ただ、それだけなんだ。まぁ、ちょっとだけいちゃこらもしたいけど……。




――チュンチュン


 ん、朝か。変な夢を見てしまった。

なんで今さらふられたときのセリフを思い出すんだ。

夢の中ならせめてもっといい夢を見させてくれよ。



「兄さん、おはよう。良く眠ましたか?」


「ああ、由紀のおかげでぐっすりだよ」


「ふふ、それでは毎日一緒に寝なくてはなりませんね」


「そうだな、今夜もお願いできるか?」


「いいですよ」



 とか、そんな会話があるのかと思ったら、由紀はすでにいない。

ぬくもりもない。大部前にいなくなったって事か。

何だか拍子抜けだな。


 ベッドから起き上がり、時計を見ると六時半。

しまった! ジョギングに行く時間が無い!

というか、ジャージが無い。結局いけないじゃないか。


 俺はそのまま自分の部屋で少しだけ体を動かす。

腕立て、腹筋、背筋、スクワット、股上げを三十回×三セット。


 き、きつい! おかしい、前なら普通にこなしていた回数なのに。

時計を見ると七時を過ぎている。


 

――プルルルル プルルルル


『純一様、起きていらっしゃいましたか?』


「ああ、少し前に起きていたよ」


『そろそろ朝食ですが、いかがいたしますか?』


「顔を洗ったらすぐに行きます』


『かしこまりました、お待ちしております』



 朝食の時間になったのか。

俺は筋トレもそこそこに部屋から出て階段を下り、洗面所に。


 もちろん洗面所に入る前にノックをする。

うん、誰もいないな。


 顔を洗って、リビングに行く。

パンの焼けるいい匂いがする。

今朝はトーストかな? 何だかお腹が空いてきたよ。


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