第29話 男女の比率がおかしい


 俺はいまだかつてない危機に直面している。


 正面には由紀。今、身に着けているバスタオルを取ろうとしている。

華奢な肩、美しい肩甲骨、そしてすらっとした太もも。

目の前には双宝山が見える。男なら是非登ってみたい山だ。


 中学生なのに! 中学生なのにぃ! なぜかとてつもなく色っぽい。

俺はロリコンだったのか?

いや、由紀が大人びているだけだなきっと。


「兄さん、良く見てくださいね……」


「は、早まるな! 兄さんは、まだ心の準備が!」



 はらりと取られたバスタオル。

細い腕、くびれた腰、そして健康的なおへそ。


「兄さん、良く見えますか?」


「ああ、良く見える。可愛い水着だな」


 由紀は白のチューブトップ型ビキニを着ている。

いや、確かに可愛いよ。良く似合っている。


「今度、一緒にプールに行きたいです」


 ニコニコしながら話しかけてくる由紀。

正直俺はドキドキしている。ちょっと勘違いしてしまったが、あと少しで過ちを犯すところだった。

俺もまだまだだな……。ごめんな由紀。


「そうだな、今度一緒に行こう」


「兄さん、ちょっとドキドキしませんでした?」


「ああ、正直まだドキドキしてるよ」


 ここは隠さず本音を言う。俺の顔もきっと赤くなっているだろう。

恥ずかしい……。


「騙してごめんなさい。でも、兄さんの素が見れた気がします」


 由紀はバスタオルを片手に、自分の濡れたところを拭いている。


「では、由紀は部屋に戻ります。上がったら教えてください」


「ああ、上がったら部屋をノックするよ」


 由紀が風呂場を出ていき、俺は一人体を洗う。

なんかむなしいな。俺だけ浮かれていたのか?


 しかし、病院ではあれだけ騒ぎになったのに、家では風呂に入っていても特に何も起きない。

やっぱり自宅だからなのか? 由紀も俺に対して襲ってくるわけでもなく、不思議な感じだ。


 体の泡を流し、湯船に入る。ふぅ、あったまるな。


 しかし、俺が今までいた世界観と違う。

まるで異世界に来たようだ。魔法はないし、モンスターもいないがな。

……ビキニ女はあるいみモンスターか?


 頭にタオルを乗せ、一人考える。

高校卒業の日、俺は確かに階段から落ちた。

そこまでの記憶ははっきりしている。


 次に目を覚ましたのは病院。

その時すでに俺はこの世界にいた。

記憶がない二日間。この二日の間に何かあったのか?


 母さんは警察に捜索願を出していないし、病院でも身元調査をしっかりしていない。

そして、襲われること数回。


 看護師の鈴木さん、主治医の真奈美さん、ビキニ女、母さん、マリア。

少なくともたった数時間で五人に襲われた。


 しかし、アンナさん、レイ、由紀は肉体的に攻めてはこない。

匂いをかがれたり、盗撮されたり、指を舐められたりはしたが、あの五人と比べると相当ソフトな対応だ。


 この二組の差はいったい……。



 それに、男が少なすぎる。

あまりにも少ない。

情報が必要だ。新聞もテレビもあるが、それだけでは足りない。

確か、部屋にパソコンがあったな。


 よし! さっさと風呂から上がって、ネットで検索しよう!

そして、俺の置かれている状況を理解し、対策を取る。


 灰色だった高校生活を、今度はバラ色にするんだ!


 俺は勢いよく湯船から立ち上がり、タオルで体をふく。

脱衣所に出て、いい匂いのバスタオルで体を包み、髪を乾かす。


 洗面所の鏡を見ると若くなった俺がいる。

身長も少し低くなっているし、筋肉も少ない。

これは筋トレの必要がありそうだ。


 ジャージが無いので甚平を着て、ダッシュで自分の部屋に戻る。

部屋に戻る前に由紀の部屋をノックする。


――コンコン


「由紀、あがったぞー」


「はーい、兄さんありがとう。直ぐに行きますね」



 由紀の返事を確認し、部屋に戻る。




 部屋に戻った俺は直ぐに机に向かい、パソコンの電源を入れる。


――ちゃ らーーん


 き、起動音が不思議な音だ。

でも、立ち上がったのは俺の知っているオーエス。使い方も同じだ。良かった!


 ネットを開き、検索キーワードに文字を打ち込む。

調べ方は同じだね。さて、今夜は徹夜になるかな……。






 調べる事数時間。


――そ、そんなバナナ!


 調べて分かったことがある。

この世界では男が圧倒的に少ない。世界的に見ても男女比がおかしい。


 国ごとに少し差はあるが、この国では約四十対一。

ある都市には約一千万人の住人がいるが、男子は二十五万人。

そして、四十人クラスであれば男子は一人しかいない。

な、何でこんなことに……。


 比率について調べてみると、大昔は男女比がほぼ一対一だったらしい。

とある年代から徐々に男子の出生率が下がっていき、現在に至るようだ。


 そして、さらに男児出生率が下がってしまう事を懸念し、政府も対策を色々と練ってはいるが、大きな改善にはなっていないようだ。

男性本人を優遇したり、男子を生んだ家庭に補助金出したり。

それでも根本的な解決にはなっていないようだな。



 さらにキーワードを変え、男性と女性の関係についても調べる。

そこでわかったのが女性の肉食化だ。


 思春期までに男性と関わりを持った女性は成人しても性的興奮を抑えることができるらしい。

しかし、まったく男性とかかわりが無かった女性が成人すると、性的興奮を押さえられなく、野獣になると。

これはホルモンバランスの影響らしく、まだ仮説でしかないらしい。

しかし、現在では一番有力な見解と、ネットには書かれている。


 なるほど、何となくわかった。

由紀は生まれてから『俺』という男性と関わっていた。

恐らくアンナさんもレイさんも過去に男性と関わりを持ったことがあるのだろう。

だから俺はいきなり襲われなかったんだな。


 という事は、俺がこれから普通に接していけば、もしかしたら俺への対応も普通になるのか?

それとも変わらないのかな?


 ネット調べてみたが男性とかかわりが無かった女性は野獣率が非常に高く、実験してくれる男性が皆無の為、検証進まずとなっている。

うむ、よかろう。俺が家で実験してやるよ。

こんな、毎回毎回疲れる対応はまっぴらだ。


 俺は普通の男だ。特殊能力もなければ超人パワーもない。

普通に女の子に恋して、結婚して、家庭を持って、子供ができて、じーちゃんになる。

普通の恋愛がしたいだけなんだ。


 この家で実験しつつ、高校生活をエンジョイしてやる!

そんな事を考え、パソコンの電源を切る。


 時計を見るとそろそろ日付が変わる。

流石に今日は疲れた、歯を磨いてさっさと寝よう。

そして、明日は早起きして、筋トレとランニングでもしようっと!


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