第9話 男性婚姻特別法

 黒塗りの高級車に乗り込む俺と母さん。

後部座席に二人で乗り込み、鍵をかける。そして、エンジンがかかり、車が走り出す。


 運転手さんももちろん女性なんだが、バックミラー越しに俺を見るのはやめてほしい。

さっきから何回も目が合っていますよ。


「純一さん、もしかしたら追手がいるかもしれないので、少し回り道をしますね」


「は、はい。僕は命を狙われているのでしょうか?」


 母さんは少しニヤニヤしながら俺の隣に座る。

腕を組まれ、胸が肘に当たる。


 おっふ。着物でもその大きさが伝わってくる。

きっとでかい。俺の知っている母さんとは違う。

この目の前にいる俺の母さんは美しく、大きい。

うん、間違いない。俺の母さんだ。


「純一さんは私の知る限り恋人はいないわ。もちろん婚約者も」


「それが何か?」


「いい? 十五歳にして彼女がいない。これは天然記念物レベルよ」


「そこんとこ詳しく」


「本当に記憶がないのね……」


「ごめんなさい」


 俺の肩に頭を乗せよりかかてくる。

クンクンするととてもいい匂いだ。石鹸の匂いかな?

濃い香水の匂いではなく、とてもいい香りがする。


「この国の男性は十五歳までに婚約をし、十六歳で結婚するわ」


「は、早いですね」


「そんな事無いわよ。これが一般的。でもね、国会で新しい法案が成立しようとしてるの」


「それは?」


「今日がその採決の日ね。テレビをつけましょう」


 ヘッドレストについているテレビが映り、国会の映像が流れる。

おおぅ。議員も女性ばかり。これはいったい……。


 あーー! 男がいた! 二、三人だけどスーツ着ている!

でも、その周りは黒服のマッチョレディーが数十人で囲んでいる。

目立ってるなー。


『それでは賛成多数で『男性婚姻特別法』は成立されました!』


 歓声が、女性議員全員が席を立ち拍手している。

男性陣は肩を落としている。いったい何が可決されたんだ?


『新しい法律は明日から公布されます! 男性の方は十分ご注意ください!』


 母さんがテレビを消す。


「成立されたわね」


「男性婚姻特別法ってなんですか?」


「本当に記憶がないのですね……」


「この法律は誰でも知っているのでしょうか?」


「純一さんはこの法律のせいで、一度家出をしようとしたのを覚えていないのね」


「はい、まったく記憶が。それに、この街風景の記憶も全くありません」


「そう、いずれ思い出すといいわね」


「そうですね」


「それで、男性婚姻特別法について話しておきますね」


――男性婚姻特別法

一、男性は年齢が満十八歳になるまでに五人、二十二歳までに十人の女性と婚姻しなければならない

二、婚姻は一親等以上から可能とする。

三、同じ両親を持つ男女は婚姻できない。

四、男性の一人暮らしを禁止する。

五、男性に対する違法行為があった場合、処遇は被害者の一任による


こんな法律が成立したようだ。

そ、そんな馬鹿な。

なんなんだこの法律は………。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る