第8話 何で女装なんだよ!
実年齢十八歳。しかし今は十五歳になっているっぽい。
膨大な人生の経験値はないが、高校三年間の記憶はこれから先役に立つだろう。
もしかしたら失敗した告白もやり直せるかもしれない。
ちょっとだけ期待してしまう。
「純一さん。帰りますよ」
「はい。真奈美さんお世話になりました」
「そんな事はないわ。これから北村さんの事、ずっとお世話するんですもの……」
何か激しく勘違いしている模様。まぁ、めんどくさいので放置しておこう。
母さんが紙袋から何か取り出した。
「純一さん。これに着替えてくださいね」
そこにあるのは女性ものの服。さらにロングウィッグまである。
大きめのハットにワンピース。薄手のカーディガンにショートブーツまでそろっている。
はい? なぜ俺が女性の服を着なければいけない?
母さんは何か勘違いしているのか?
「母さん? 僕は女じゃないよ? この服着るの?」
「そのまま男の格好で病院を出たら、大変なことになるわよ」
言っている意味が分からない。
「えっと、具体的に言うと?」
「まず、患者が大勢出入り口に集まり、そのまま私達を追ってくるわ」
「は?」
「最悪の場合、自宅までついてきて部屋に入ってこようとするわね」
「ボク、このワンピース着てみたかったんだ! ありがとう!」
もういいです。安心してゆっくりまったり家に帰って、コーヒー飲んで映画見て、ソファーでゴロゴロさせてください。
もう贅沢は言いません。新しいスマフォも我慢します。
俺はいそいそと女装する。
母親と女医の前で女装。これはイジメだ!
ニヤニヤ、はぁはぁしながら目の前の女性二人は俺に化粧をする。
最後にすね毛をガムテープで処理される。
「いきますよ」
「純一さん、いきますね」
「はい。もう好きにしちゃって下さい」
――ベリベリベリー!
「ぎゃぁぁぁぁ! い、痛い!」
うぅぅ、すねがひりひりする。でもすべすべのすねになる。
いい事なのか、悪い事なのか……。
気が付いたら二人とも俺のすねに頬すりしている。
頬を赤くしながらはぁはぁと声が漏れている。
「すべすべの足……。男性の生足。ゴクリ……」
「純一さんの足……。綺麗ね。とれも美しいわ……」
真奈美さんの目がトロンとなっており、俺のすねを舐める。
いやー! ほらお母さんが見てますよ!
母さんも何か言ってよ!
と思ったら母さんはモジモジしながら俺のふくらはぎを揉んでいる。
時折吐息が漏れている。あのー、お母様?
「ごめんなさいね、純一さん。母親失格ね。我慢できないわ……」
母さんは桜色の色っぽい唇からチロっと舌を少しだけ出し、俺のすねを舐める。
「んは……。もっと、もっと……」
「ん……。すべすべの生足。いいわぁ……」
……まさか母さんまでこのありさま。
二人ともさっきからもじもじしている。吐息も聞こえ、異常な風景だ。
女装の俺にはぁはぁは二人。俺までおかしくなりそう。
いかんいかん。早く帰ろう。この病院が悪い!
「はーくしょん!」
激しくわざとくしゃみをする。
我を取り戻した二人は、お互いに見つめ合い、頬を赤くする。
「……退院しましょうね。北村さん、これ、私の名刺。何かあったらすぐに連絡を」
「分かりました。ありがとうございます」
「じゅ、純一さん。行きましょう……」
頬を赤くしながら母さんに手を握られ病室を出る。
「今日でお別れだな」
「ああ、色々とありがとう」
「名刺を渡しておく。フリーで警護をしているので、依頼があったら連絡を」
「ありがとう。また機会があればどこかで」
さっきまで入院患者に凝視されていたが今度は誰もこっちを見ない。
これが女装効果か。俺自身は恥ずかしいが、襲われるよりましだ。
病院を出ると黒塗りの高級車が止まっている。
運転手付だ。これに乗るのか?
「さ、早く中に……」
母さんに言われるがまま車に乗り込む……。
さよなら病院。さよなら芸人の二人。
そしてアンナ……。また来週会おう。
――<後書き>――
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
作者の紅狐と申します。
『何で女装なんだよ!』にて、第一章一節、病院脱出編完結となります。
本作品は、作者にとって初めての転生作品となります。
ここまで読んでいただけた読者の皆様。
数ある作品の中から、当作品を読んでいただき、本当に感謝しております。
これからも、引き続き応援していただければ幸いです。
それでは、第二節もよろしくお願いいたします!
最後に。
沢山の応援コメント、作品フォローありがとうございます。
作者の励みになっております。
もし、よろしければ★レビューや応援コメント、作品フォローをよろしくお願いいたします。
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