第10話 息子の息子


 『男性婚姻特別法』ざっくりというとこんな感じだ。


 一、男は十八歳までに五人と結婚しなければならない。

彼女一人もいないのに結婚なんかできるか!


 二、親兄弟とかも婚姻関係を持てるって事ですね。

姉とか妹とかいないから! でも母さんならありかな!


 三、同じ親を持つ姉妹とかとは婚姻できないって事だな。

父親か母親のどちらかが異なっている場合ならオッケーって事だ。

そんなレアケースあるかい!


 四、男の一人暮らし禁止。

なんでじゃー! そんな事したら彼女連れ込めなくなるやろ!


 五、俺を襲ってきた女性に対して、俺が処罰できるって事だな。

ほほぅ。俺を襲ったら禁固十年にしてやる!って事も可能という事だ。



「そ、そんな法律が賛成多数で可決? 成立したんですか?」


 俺はちょっとドキドキしながら母さんに聞く


「たった今可決されたわ」


 母さんが俺に抱き着いてくる。

ワンピース姿の俺はスカート部分がスース―するのが気になってしょうがない。

まだしばらく着替えない方がいいと言われ、今だに女装中。


 しかし、ウィッグを付け、化粧をして、それなりの服を着ると本当に女性に見えてしまう。

もともと俺が中世的な、いやいや中性的な顔立ちだからか、自分で言うのもなんなんだが結構可愛いと思う。このワンピースも馴れれば着心地よく感じるのだろうか?


 そんな事を考えていたら、母さんの手が俺の太ももを触ってくる。

ぞくぞくする。母さんの息が俺の耳に……、そして軽く噛まれる。


 ちょ、何をしてるのですか?


「ん……。か、母さん? ナニを?」


「はぁはぁ……。私も純一さんと婚姻できるようになったのよ」


「さっき成立した法律でですか?」


「そう、今までずっと我慢してきたの。純一さんは可愛いけど、言葉使いや性格に問題があったわ。でも今日あった純一さんは別人よ」


 はい。恐らくは別人と思われます。

しかし、まさか和服美人のお母様に、自分が女装状態で襲われるとは、夢にも思いませんでしたよ。


「そ、そうなんですか……」


 母さんが俺の太ももを触りながら、耳をハムハムしてくる。

母さんの吐息が耳から聞こえてくると、俺の四四マグナムも起動準備ができてしまう。

まずい! ジーパンならともかく、ワンピースだとテントができてしまう!


 母親に対してテント張ったなんて、黒歴史の一ページになってしまう!

な、何とかしないと……。


「ん……、か、母さん?」


「はぁはぁ……、私、純一さんの事好きだったのよ。お願い、私と結婚して……」


 母さんは俺の耳をちゅぱちゅぱ舐めながら、太ももを触っていた手で息子の息子を触ろうとしてきた。いや、軽くタッチされた気がした。


「母さん! 母さんには父さんが!」


「え? 父さんはいないわよ? 本当に記憶がないのね……」


――ドクン!

 一瞬心臓の音が聞こえた気がした。


「いない? そんな馬鹿な!」


 俺は両手で母さんの肩を鷲掴みにする。

いい感じで距離を取る事が出来、切迫した状況を回避できた!

グッジョブ俺。危なかった。



「純一さんのお父さんは零七二一九一九番。遺伝子バンクの中にいるわよ」



 そ、そんな!



衝 撃 の 新 事 実!



 新しい法律とか言う前に、父親が! 遺伝子バンク!

そんなばーなーなー!


 がっくし、肩を落とし、座席に倒れ込む。

マジか。本気と書いてマジですか。

流石にちょっとショックかも。

父さん、俺はあなたに会えそうにありません……。


 車から見える景色も全く知らない景色。

父さんはバンク。母さんは息子の息子に。

運転手はさっきから俺をガン見している。


 この世界に普通の人はいないのか?

自宅に着いたら俺はどうしたらいい?

母さんと二人っきりは危険だ。


 狼の居る部屋の中に入れた肉状態だ。

確実に襲われる気がする。家出でもしようか……。

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