第5話 入浴中に襲われた
部屋に戻った俺はそのままベッドに入り込む。
一体どうなっている? 俺はタイムスリップでもしたのか?
それにしても男がいない。看護師に女医。売店の店員さんに患者。
全てが女性だ。あまりにもおかしすぎる。
そうだ、テレビだ。テレビだったら何か分かるかもしれない。
隣にあるテレビのスイッチを入れ、チャンネルを回す。
どのチャンネルも女性ばかり。ニュースキャスター、ドラマ、芸人その全てが女性だ。
男は俺だけなのか? そんなバカな……。
その時ニューステロップが流れる。
『男児出産。この市では今年三人目の出産。国民の皆さんで祝福しましょう』
は? そんな事でいちいち速報を流すなよ。
扉の外から女性達の歓喜が聞こえる。
まさか、このニューステロップで歓声が上がるのか?
やっぱり何かおかしい。早く両親に会いたい。
この場から逃げたくなってきた。テレビを消しそのままベッドに寝っころがる。
天井を見ながらボーっとし、何も考えられなくなる。
コンコン
「入るわよ」
さっきまでここに居た主治医の真奈美さんの声だ。
「開いてます」
「北村さんのお母様に連絡が取れたわ。今から来るそうよ」
「本当ですか! 俺は退院できますか?」
「そうね。しばらく通院はしてもらうけど、退院してもいいわよ」
「やったぁ! ところで僕の服は?」
「着ていた制服かしら? それだったら無菌室で保管されているわ」
「へ? えっと、返してもらえますか?」
「無理ね。この病院で永久保管させてもらう事にしたの」
真奈美さんは俺が座っているベッドにやってきて、そのまま俺の隣に座る。
気のせいか、シャツのボタンがさっきより二つ空いている気がする。
そして胸を強調するかのように俺にすり寄ってくる。
「お願い。着ていた制服をそのままにして。この幸せをみんなで感じたいの」
「えっと、だったら他の服を……」
「至急用意させるわ」
「ありがとうござます。あと、出来ればお風呂に入りたいのですが」
その途端、真奈美さんはナースコールのボタンを押す。
『き、北村さん! どうかされましたか! 今直ぐ行きますね!』
「近藤よ。北村さんがお風呂を要望されたわ」
『な、何ですと! わかりました! 警備体制第一種準備します!』
突然館内にサイレンが鳴る。
な、何が起きている。俺は何かとんでもないことを言ってしまったのか?
「北村さん。今からお風呂の準備をするわ。新しい服もその時に」
「わ、わかりました」
「アンナ! 入ってきて! 第一種よ!」
扉から金髪の女性が入ってくる。このボディーガードはアンナさんというのか。
「分かったわ。今から装備を準備するから、三分待って」
なぜか俺の居る病室の戸棚から何かゴソゴソ取り出している。
防弾チョッキ。フルフェイスメット。保護アーマー。
さらに金属のトンファーを二本腰につけ、大きなバックの鍵を開け、中から銃を取り出している。
ちょ、何しているんですか! ここは日本ですよ!
そんな物騒な物しまってください!
「オーケー。準備できたわ。最悪の場合、命を奪ってもいいかしら?」
「出来るだけ穏便に。病院で死者は出したくないわ」
あかん。この二人の会話にもついていけません。
『こちらステーション。第一種準備完了! ルート確保しました』
「了解。移動を開始するわ。さ、北村さん行くわよ」
俺は手を握られ、真奈美さんに連れて行かれる。
先頭にはアンナさん。まるで脱出ゲームのような感覚。
俺はいったい何に狙われ、何から守られているんだ?
扉を出て廊下を進む。
時折閉まったシャッターからガンガン音がする。
「お願い! この後どうなってもいいから見せて!」
「私も! お願い! 一目でいいから!」
「アンナ、急ぐわよ。ルートの情報が漏れているわ」
「分かったわ。別ルートで行きましょう」
階段を上がり、下がり、天井裏を通り、机の下を通り抜け、何とか風呂場に到着。
「ここよ。中に入ったら鍵をかけ、絶対に開けない事。いいわね」
真奈美さんに抱き着かれ、しばしの別れとなる。
仁王立ちで背中を向けているアンナさんはかっこいい。
きっと俺を守ってくれるだろう、何から守ってくれるかは分からないが。
脱衣所でスッポンポンになり、浴室に入る。
湯気が立ち込め、大きな浴槽が見える。
体を洗い、湯船につかる。
はふぅー! いい湯! 生きてるって感じがするね!
ん? お風呂の中に何かる?
足で突っついてみると何か柔らかいものに当たる。
なんだ? おもちゃかな?
目の前に泡がブクブクと浮かんでは消えていく。
な、何だ? 何かいるのか!
突然目の前に人影が! 良く見ると水着を着た女性だ!
わー! 潜っていたのか! な、何なんだよ!
風呂位ゆっくり入らせろよ!
――シュコー
シュノーケルから息をしているのが聞こえる。
そして、ゆっくり俺に近づいてきてそのまま抱き着かれる。
「あは! やったぁ! 男だ! この子可愛い!」
俺の知らない女性が目の前にいる。
なぜかビキニを着ていて、俺に抱き着いている。
「あ、あなたは誰ですか! ここはお風呂ですよ!」
「んふ。いい声してるわね。この体もいい感じ。とても素敵よ」
全身触ってくる女性は自分が何をして、何を話しているのかわかっているのだろうか?
「ちょ、やめて下さい! あ、そこは触らないで! た、助けてーー!」
浴槽から逃げようとするが、この女性の力も結構強い。
腰に腕を巻きつかれ、なかなか抜け出せない。
「男の尻! 一生の運を使ったわね! あは、き、気持ちいい!」
ダメだ。この人完全にイってる。逃げなきゃ。
早く、脱衣所に行かないと、喰われてしまう!
アンナさん! 真奈美さん! 誰でもいいから助けてー!
突然脱衣所の扉が開き、アンナさんが入って来た。
た、助かったー!
「き、貴様! ここでナニをしている! 早く離れないか!」
「断るわ! 絶対にこの手は離さない!」
「っく! 仕方ない! これでもくらいな!」
腰から銃を取り出し、シュノーケル女に発砲。
――シュッパーーン!
あれ? 拳銃の発砲音とは違う。
銃身から放たれた何かは女の額に当たり、そのまま後ろに吹っ飛ぶ。
コロコロッとスーパーボールのようなものが転がっていく。
なんだ、ゴム弾か。びっくりしたー!
「北村さん、大丈夫か?」
アンナさんは全裸の俺をまじまじ見ながら、話しかけてくる。
「だ、大丈夫です」
「間に合ってよかった。こいつはこの病院の看護師だな。恐らく先回りして、潜んでいたのだろう」
「なぜこんな事を」
「なぜって? 北村さんに近づくためさ」
訳の分からないまま、俺は脱衣所で新しい服を着る。
疲れた。知らない女性に全裸を見られ、まさぐられた。
これが彼女だったら、一緒のお風呂でいちゃつけるのに!
人生初の女性とお風呂がこんなことになるなんて……。
「こいつの処分はこっちでする」
女はビキニのまま病院の人に連行され、廊下の奥に消えて行った。
母さん、早く迎えに来て。この病院は異常だよ……。
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