どちらかというと、初めて会った日に見た隙のない目つきをしていた。


「そんなところでなにをしている」

「……すいません」

「ここはゴルフ部の敷地内だ。部外者が勝手に入るな」


 ものすごい迫力で怒鳴られてしまった。

 俺は、ここにいたいきさつを、仕方なくマキさんに話した。


「──というわけでして。ほんと、すいません」

「全くもってくだらない。いいから早く帰れ」


 マキさんはそう捨てゼリフを吐いたあと、俺に一瞥を投げ、バカにするように鼻を鳴らした。そして、さっきまで自分がいたところだろう、林の向こうに広がる芝生に立った。

 黒澤の名前が出てきたことにも、マキさんは不愉快そうにしていた気がする。

 それにしても、マキさんの背中は、けさの姿を打ち消すかのようにきりっとしている。ショットの瞬間から、打ったボールを目で追う仕草まで、なにもかもがカッコいい。

 俺は冷たくあしらわれたのも忘れ、また歩き出したマキさんを追い、芝生へ足を踏み入れた。


「そんな汚い靴で入ってくるんじゃない!」


 すかさず大声が飛んできた。

 俺は立ち止まり、グリーン上の背中に「あかんべ」をしてやった。そのマキさんがタイミングよく振り返る。

 俺は慌てて林の中へ引っ込んだ。


「それにしたって、もうちょっと優しく言ってくれてもいいんじゃね」


 奥芝さんの前ではガキみたいだったのに。

 ぶつぶつと独り言をまき散らし、俺はペンダントの捜索を再開させた。

 そろそろ手で掘るのもキツい。爪の中まで泥だらけだ。指先は疲労で感覚がおかしくなっている。

 俺はため息を吐くと、その場にあぐらをかいた。空を見上げる。

 その視界に、マキさんの仏頂面が入ってきた。

 内心で飛び上がるくらいびっくりした。

 そんな俺の眼前に、今度はスコップが現れた。


「目障りなんだよ。早いとこ見つけて、さっさと家へ帰れ」


 スコップを投げ、マキさんは背を向ける。けど、俺からすぐに離れることはなかった。


「あの、……」

「そんなに大事なものなのか。松からもらったペンダントってのは」


 それにはなにも答えず、俺はスコップを取って、ありがとうございますと頭を下げた。

 なんだかんだ、マキさんはいい人なんだ。ただ、ちょっと素直じゃないだけなんだ。

 俺はそう思いながら次の場所へ移動した。


「きみは松のことが好きなのか?」


 その言葉は不意にやってきた。

 俺は立ち止まり、ゆっくりとマキさんへ振り返った。相変わらずのキツい眼差しがある。

 俺が前にここにへ来たとき、マキさんは、練習場のほうへ帰る道すがら、鶴の一声を発して維新を呼び、まるで自分のものだと誇示するかのようにした。

 俺はそれを思い出すと、負けじと視線をぶつけた。

 マキさんの言う『好き』の意味合いが、たとえ違っても、下手にごまかすことなんてしないで、大きく頷いた。


「……否定しないんだな」

「本当のことだから」

「……」

「言わなきゃいけないときに言っておかないで、後悔することになったら絶対にいやだし」


 木々が、突然ざわざわと騒ぎ出した。俺が目を上げると、重なりあう無数の葉っぱが風に揺れていた。

 その音に混じって、マキさんの笑む声もあったような気がした。


「なにも聞かないんだな、きみは」

「え?」

「光洋のことや、生徒会長の件。なにか言ってくるだろうと思ったから」

「言ったほうがよかったですか?」

「……」

「俺を会長にする気はもともとなかったって、黒澤さんは言うし、もう用済みみたいだから、そのことは忘れることにしました。なんだかバカバカしいし。それに、光洋さんもマキさんも、自分たちがどうするべきかなんて、俺がわざわざ助言しなくてもわかりきっているでしょ」


 風がやみ、周りがしんとなる。

 マキさんも黙ったままだ。

 とても生意気なことを、俺は言ったと思うから、頭の片隅ではマキさんのねちっこい説教を覚悟していた。それでも、強気な態度は崩さないようにと思った。

 しかし、マキさんの口から出たのは、意外な言葉だった。


「ミケランジェロがお宝を隠しているのはここじゃない。もう一つ向こうの林の中だ」

「──は?」


 俺は目を丸くした。パチパチとまばたきを繰り返す。

 マキさんが予想外なことを言ったのもそうだけど、まず訊かなければならないことがある。

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