宝もの
一
風見館へ行くと、待ってましたとばかりに、二階の副会長室へ案内された。
そこで黒澤はのたまく。
「どうやら捨ててしまったらしい」
俺は、自分の耳を疑った。
でも、目の前でふんぞり返っている男は悪びれる様子もなく、むしろ冷たい笑みを浮かべ、つけ加えた。
「お前の、大切な大切なペンダント」
黒澤は組んでいた足を下ろすと、「副会長」というプレートのある立派な机を小突いた。
「さっきここの片づけをしていたんだが、どうもそのときに、間違って『いらない物』のほうに分別してしまったらしい」
わざわざ、いらない物を強調して言う。
それからおもむろに立ち上がると、黒澤はぐんと近づいてきた。
ていうか、故意に捨てたに決まってる。それを確信できるほど、口元は緩んでいた。
俺は、そのふざけた顔を睨みつけてやった。黒澤を振りきり、くまなく探してみたけれど、くずかごさえも見当たらない。
「どこに捨てたんだよ」
「もちろん、いまごろは焼却炉行きだ」
愕然となった。
涙が込み上げてくる。
「あんた……マジ最低だな」
こぼれてきそうな涙を手の甲で拭い、俺は副会長室を飛び出した。
たしかに、規則を守らなかったこっちも悪い。
けど、いくらなんでもやりすぎだ。あのペンダントがどれほど大事なものか知らないにしてもだ。
階段を駆け下り、エントランスの立派なドアに体当たりをかました。一目散にチャリに跨る。
ペダルを漕ぎながら、焼却炉の場所を頭の地図で探した。
すでに燃やされているかもしれない。それでも一縷の望みにかけ、怒涛の勢いで足を動かした。
アスファルトの道路からオフロードになる。
焼却場へ着くと、俺はチャリを投げ、いままさに焼却炉へゴミを入れようとしているおっさんに向かい、声を張り上げた。
「ちょっと待った!」
用務員のおっさんからゴミ箱を奪い、片っ端から引っ掻き回した。
「ない!」
「なんだ。いきなりどうした」
「探しものしてんの。シルバーのペンダント。ちっちゃい十字架のヤツ。見なかったっすか?」
「ペンダント? だったら『燃えないゴミ』だろう。そこにあるのは『燃えるゴミ』に分別したのだよ」
俺は散らかしたゴミを元に戻し、眉を曇らせているおっさんへ返した。
ついでに、分別前のが置かれている場所を教えてもらって、そこへと足を出しかけたが、用務員のおっさんに呼び止められた。
「そういえば、さっき犬がやってきて、なにかあさってたな」
「え」
「そうだ。あの犬は光りものが好きだから、そのペンダントも、もしかしたら持っていったのかもしれない」
思わず詰め寄った。
後ずさりしたおっさんには構わず、詳しく訊けば、農業部で飼っている犬が、よくここをあさって、光るいいものを見つけてはどこかに隠すらしい。
念のため、風見館から運ばれてきたというゴミを確認してみたけど、ペンダントは見つからなかった。
俺は再びチャリに跨った。アスファルトを猛然と進む。
おっさんの言う農業部で飼っている犬とは、もちろんミケのことだ。
俺は、農業部へ向かうさなか、あるやりとりを思い出した。
イチカワマサノリさんを探すためにゴルフ部へ行ったときのこと。マサノリさんには結局会えず、諦めて家に帰ろうとしたところに、メイジがやってきた。維新はホールにいると教えられ、俺はそこへ行くことにした。
その帰り道だ。奥芝さんがカブに乗って現れ、俺には読めない会話を維新と交わしていた。
「また、お宝でも埋めに行ったか」
奥芝さんはそう残して、俺たちが歩いてきた一本道をさかのぼっていったんだ。
その前には維新の不可解な行動もあった。ゴルフ部の作業小屋から一緒に出たあと、なにかを探るように林の中を見ていた。
あのとき、もしかしたらミケがいたんじゃないだろうか。きょうみたいに、焼却場で光るいいものを見つけ、ホールの林の中に隠していたんじゃないだろうか。
俺は、農業部は通りすぎ、ゴルフ部のホールに向かった。
一本道を猛スピードで走ると、ぜいぜいいいながらログハウス調の作業小屋のそばにチャリを停め、林の中へ入った。
ミケの姿を探し、闇雲に迷走していたけど、思いのほかここは広く、自分がどこにいるのかもわからなくなった。俺はなんとかログハウスまで戻り、ひとり作戦会議を開く。
ミケがお宝を埋めるのに掘った跡があるだろうから、ひとまずそれを探すことにした。
今度は、目を皿のようにして林の中を進む。そして、ちょっとでも怪しい箇所があったら手で掘り返す。
それをあちこちで繰り返していたら、後ろから声をかけられた。
「おい、きみ。そこでなにをやっている」
土を掻いていた手を止め、俺は振り返った。
頭にはサンバイザー。真っ白なポロシャツを着て、グリーンのパンツを穿いている。
ゴルフクラブを持ち、俺を見下ろしていたのは、マキさんだった。
薄暗い林の中でも、つい手をひさしにしてしまうぐらい、マキさんは鮮やかだった。
「きみは──」
俺は、俄然気まずくなる雰囲気を感じつつ、軽く頭を下げた。
けさ会ったときとは、また違う空気を、マキさんは纏っていた。
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