三
俺がなにも言わないでいると、ふうっと息を吐いて、光洋さんは頭を下げた。そして、口の中で、なにかをぼそぼそと呟いた。
階段を上がっていく光洋さんの背を見つめていた俺だったが、そろそろ帰って、学校へ行く準備をしなければならない時間だと気づき、風見館の大きなドアを開けた。
教室へ着くと同時に担任がやってきた。すぐにホームルームが始まる。
窓側の一番後ろが俺の席。その二つ前には維新がいる。メイジは廊下側の真ん中だ。
ここから見る限り、二人とも、いつもと変わらない感じで前に視線を送っている。
維新が窓の向こうへ視線を移す。その横顔から、俺は目が離せなかった。
黒澤の言ったことなんて絶対はったりに決まっているし、維新を信じている。
それでも、もしやと勝手な想像をする自分がいる。
窓の外を眺めていた維新が急に振り向いた。
目が合う。
俺はびっくりして、とっさに逸らしてしまった。それまで考えていたことがあれだっただけに、しばらくは机とにらめっこしていた。
休み時間も、それとなくやんわり避けていたら、 維新がなにかを感じ取ったらしく、お昼休みは静かなランチとなった。
俺たちのそんな空気に、あのメイジが気づかないわけがなかったけど、それについてなにか探るようなこともしなかった。
放課後になると、俺はいつものように置いてきぼりをくらう。しかし、きょうだけはほっとした。
また黒澤のところへ行かなければならないのだけれど、だれもいない教室で、俺は維新の席に座り机に突っ伏していた。
そのときだった。
カバンの中の携帯が鳴った。取り出すと、維新からメールが入ってきた。
「話したいことがあるんだ。部活が終わったら、卓の家に行く」
心臓がどきっと跳ね上がった。
家にまで来て直接俺に言うからには、とっても大事な話だろう。
携帯を持つ手がにわかに震え出した。
黒澤の言っていたことはぜんぶ真実で、隠しきれないと思った維新がいよいよ打ち明けるつもりなのだろうか。
──なんてこと、絶対にあるわけない。
「親友だからって、なにもかもお前に正直に言うと思ったら大間違いだ」
俺は思いきり頭を振った。携帯を睨みつけながら、指を動かした。
「わかった。待ってる。俺もお前に話したいことがあるから」
あのペンダントを返してもらったら、俺の気持ちを維新にしっかり伝えよう。
そうすればなにもかもがはっきりする。あやふやな状態でいるのも、もう限界だ。
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