二
どう見ても俺のとなりの人を快く思っていない態度。そんなやりとりに、俺はきょとんとして、維新はカレーを食べながらチラチラ見ている。
「二時間後くらいに顔を出すから、そうマキに伝えておいてくれ」
俺のとなりの人が腕時計に視線を落とし、すくっと立ち上がった。紙束を小脇に挟んだところで、メイジも立ち上がる。
「あんたが何回来ても、あの人の気持ちは変わらねえ。あんたんトコには行きたくねえって何遍言ったらわかんだよ!」
「メイジ!」
維新が少しきつめの声を上げた。
それに気づいたメイジは俺に視線を送り、その途端に目を見開いた。すとんと腰を下ろす。
俺には話しの見えない一連のできごとだったけどこれだけは言える。きのうまではなかった二年のブランクが思いも寄らぬところでぽっかり空いた。
だって、メイジも維新も急に黙り込んじゃって、このテーブルにめちゃくちゃ気まずい空気が流れている。小さな壁もできちゃっている。
「なんで生徒会役員が大食堂に来るんだよ」
「せっかくのメシがマズくなる」
すると、後ろのテーブルからそう口々に言う声が聞こえてきた。
「あいつら一年だろ」
「ナンバーツーに楯突くなんてな……」
「つうか、あの人がどんな人か知らねえだけだろ」
「ああ、マジで──」
「卓」
最後に維新の声が聞こえ、俺は伏せていた目をぱっと上げた。
「俺たち、そろそろ寮へ戻らないとなんだ」
「あ、うん」
自分のお膳と俺のカレー皿を器用に持ち、維新は立ち上がる。
俺も一緒に立ち上がり、それからふと気づく。メイジの姿がない。
「維新。メイジは?」
「先に行くって。卓──」
さっきとは打って変わって、お互いの声のトーンは落ちていた。お通夜帰りみたいに沈みきっている。
「すまない」
去り際、維新がそう言った。
……きょうは「あとで電話する」じゃないんだ。
ということは、さっきのはやっぱスルーしろってことか。
小さくなる後ろ姿を見つめながら俺はとてつもなく寂しい気持ちになった。
……たしかに途中からやってきたし。これまでのことに俺は関係ないのかもしれない。だけど、親友なんだから、ちょっとぐらいなにか言ってくれてもいいじゃん。
それとも、あの「すまない」は維新なりの優しさなのかな……。
ご飯のあと、寮やゴルフを見せてもらいたかったのに。
仕方なく俺はテーブルから離れた。相変わらず騒がしい人の波間を縫い、ひとり帰路についた。
なんて、いつまでも意気消沈している俺だと思ったら大間違い。維新が俺をほったらかしにするなら、自分からゴルフ部を見に行ってやろうと思った。
私服に着替え、チャリに跨る。
風見原の敷地は、初めて見る人には、開いた口が塞がらなくなるほどの広さ。だから、一応は地図で位置を確認してきた。
そうしたら、前におばさんが「奥にホールを三つも」と言った通り、校舎や体育館、主要な部の寮が集まるところよりかなり離れていることがわかった。
庭の植え込みのあいだから小川にかかる橋を渡り、そうしてまず目に入るのは小さなお稲荷さんだ。その前を右へ行った左手に校門がある。左の道は、田んぼを迂回しながらゴルフ部へと通ずる。
そのどちらの道も、葉が空を覆う木々のトンネルがしばらく続く。桜なんかもあるから、春は花見、秋は紅葉と、見どころの多い通りなんだ。
その木々のトンネルを抜けると、右手には田んぼが広がる。
じつはこっちのほうへ来たのは初めてで、たぶん位置的に、校舎や体育館が集まっているところの裏側になるとは思うけど、風見原はあるひとくくりの建物を木々で覆う特徴があったりして、一つの場所からすべてを把握するのは難しい。
それだけこの学校の敷地が広く、複雑だというわけだけども、日本にこんな高校が存在するんだと思うと、身内のことながら、ただただため息しか出なかった。
チャリで走っているいまも、本当は一般道じゃないかと疑わずにはいられない。でも、正面に見えてきた立派な門に、「風見原高校裏通用口」という札がかかっていて、やっぱりここは学校の敷地内なんだと再認識した。
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