再会
一
それから二年後。俺は、再び日本の地に立っていた。
もちろん、無二の親友、松永維新(まつながいしん)との約束を果たすため。きょうも首元で光っている餞別を返すために。
「なせばなるぅ~、なさねばならぬぅ~、なにごともぉ~」
もはや俺の座右の銘と化しているフレーズに節をつけて口ずさむ。十畳以上はある新しい部屋で、荷物を片づけながら何度も繰り返した。
家具などはすべてこっちで用意してもらったから、俺の荷物はスーツケース一個のみ。その中に服と下着、維新からの手紙を入れ、アメリカを発ったのがやのおととい。
このたびめでたく同居することになった祖父の豪邸にて、満点はなまるをもらった編入試験の結果通知を見ながら、俺のニヤニヤはいつまでも止まらなかった。
じつは、両親はもとより、俺も高校はアメリカでと考えていた。大学生になっていくらか自由になったら日本へ戻ろうと思っていた。
でも、ある日送られてきた維新の手紙を読んで、即行、その計画のほうを破り捨てた。
「風見原高校に受かった」
──私立風見原高校。俺の祖父が理事長を務める学校である。
じいちゃんは、俺がアメリカへ行くのを最も悲しんだ人だったし、オヤジとママの手前、すぐに独り立ちするのに気が引けていたこの状況で、これを利用しない手はないと思った。じいちゃんに電話して、なんとか風見原高校に通えるようオヤジとママを説得してと頼んだ。
結果は上々。
風見原は全寮制だけど、俺はじいちゃんの家から通うって条件でオヤジとママは了承してくれた。とはいえ、寮もこの豪邸も学校の敷地内にあるから、あまり意味のない条件のような気もするが……。
とにもかくにも、夏休み明けの来週から、ちょっと遅い新入生として俺は風見原高校へ通うことになったのだ。
「たっくん。お友達がいらっしゃったわよ」
藍(あい)おばさんの弾んだ声がドアの向こうから飛んできた。藍おばさんはオヤジの妹にあたる。イイお年なのにまだ独身で、いまはじいちゃんの身の回りの世話をしている。
アイドル好きのミーハーらしく、でもさばさばした人で話しやすく、俺は好きだな。料理もうまいし。
俺がドアを開けると、長い廊下のかどから藍おばさんが顔を覗かせた。
「もう~、あたしびっくりしちゃった! まさかたっくんが風見原のハニカミコンビとお友達だったなんて!」
まるで女子高生みたいにはしゃいで、藍おばさんは廊下の向こうに消えた。
ハニカミコンビ? ……俺にはそんな友達はいないぞ。俺はそう首を傾げ、小走りで玄関へ向かう。
それにしてもじいちゃんちはすごい。玄関なのに、客間でも作れるんじゃないかという広さがある。
そんな格子戸の前には、懐かしくもどこか新鮮な姿があった。
「維新! メイジ!」
目を輝かせて俺が近づくと、二年のブランクもなんのその、二人はめちゃくちゃ爽やかに手を上げた。
「おう」
「卓(たく)、久しぶり」
「チョー久しぶり!」
サンダルもなにも突っかけず、俺は勢いよく二人に飛びついた。
メイジこと石岡明治(いしおかあきはる)は、維新の幼なじみ。俺とは中一のときに同じクラスになって、それからの付き合い。
しかも、メイジも風見原に受かっていて、維新と同じクラスなんだ。
「まさか、お前のお祖父さんが、うちの高校の理事長だったなんてな」
と、メイジ。
その横の維新は、相変わらず無駄に表情を変えずに頷いた。
「なにはともあれ、こうして再会できてよかった。また、よろしくな」
「うん」
維新の男前ぶりはこの二年でさらに磨きがかかっていた。
ちまちまとしか成長しない俺に対して、二人はもっと背が高くなっていて、がっしりしていた。いい具合にこんがり焼けてもいるし。
風見原は進学校でありながらスポーツにも力を入れているらしいから、二人もなにか運動部に所属しているんだと思う。
同じ男として悔しい気もするが、藍おばさんがはしゃぎたくなる気持ちもわかる。
ただ、なぜハニカミコンビなのか、その意味はよくわからなかった。
「たっくん、ハニカミくんたちに上がってもらって」
台所のほうからおばさんの声がした。
俺は二人の腕を引いて廊下に上がるよう促し、そのまま奥の和室へと連れて行った。
「ごめんなさいね、大したものも出せなくて」
麦茶と羊羮をお盆に乗せ、藍おばさんがやってきた。
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