「朝起きたら?」

「部屋見てもいねえわ。すげえ焦った。そのうち善之が帰ってきて、お前が俺を捜しに行ったって言うから……」

「ねえ、どういうこと?」

「ああ?」

「おい」


 ぼくに食ってかかりそうなお兄ちゃんの頭を次郎さんが後ろから小突いた。


「いってぇな」

「ちゃんと説明してやらなきゃ、人夢くんも困るだろ。それになんだ。その格好は。まるで寝起きじゃないか。着替えぐらいすませてから来い」


 お兄ちゃんは小突かれたところを撫でながら、バツが悪そうに急におとなしくなった。

 次郎さんの言うとおり、お兄ちゃんはものすごい格好をしていた。寝るときにいつも着ているスウェットの上下。これを買ったときよりも背が伸びたみたいで、袖や、ズボンのすそは寸足らずだ。

 髪も、ところどころぴょこんとなっている。


「もしかして……家にいたの?」

「どうやら、ちょっとした行き違いがあったみたいだね」


 次郎さんがお兄ちゃんの代わりにそう言った。


「あの兄貴が豪をほったらかしにするわけがないよ。前にきみが家出したときも、兄貴はすぐに来ただろう? 僕が親父とケンカして家を出たときも、すぐに訪ねてきてくれた」

「じゃあ、一清さんは……」

「ゆうべすぐに僕のところへ電話してきて、豪はうちにいるからと伝えたら来てくれたよ。そこでいろいろ話をして、豪も納得してくれたから、二人で仲良く家へ帰ったんだ」


「仲良く」を強調して、次郎さんはお兄ちゃんを見やった。


「時間も時間だったし、朝にでも話そうと思ってたんじゃないのかな」

「俺はてっきり兄貴が言うもんだと」

「人夢くんに関しては大体の原因を作ったのが豪で、自分は口出しするべきじゃないと兄貴は思ったんじゃないの。ていうかさ、そこら辺の意思疎通がきみたちは相変わらず下手くそだよね」

「……うるせえ」


 次郎さんの言葉に、ぼくはものすごく共感した。

 お兄ちゃんと一清さんは、思考回路がおんなじ系列をしてるんじゃないかと思うほど行動パターンが似ている。それなのに、ぼくも呆れるくらいの単純なすれ違いが多い。

 さすが次郎さんだ。

 ずっと離れて暮らしていたのに、押さえどころはまったく忘れてない。


「お兄ちゃん。……ぼくが言うのもなんだけど、次郎さんと再会できてほんとによかったね」

「あ?」

「それと、ぼくの心配をしてくれてありがとう」


 不完全でも、ぼくは精いっぱいの笑顔で言った。



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