三
「なあ。お前も変だと思わなかったか?」
お墓参りがすんで帰宅後、一番風呂をもらったぼくは、台所で水分補給をしていた。
そこへ、居間からお兄ちゃんが出てきて、開口一番にそう言った。
「変って、なにが?」
「うーん」
言い出しっぺなはずのお兄ちゃんが首をひねっている。
ぼくは、洗ったコップをホルダーに伏せ、腕組みをしているお兄ちゃんのそばに立った。
「どうしたの?」
「なんでもかんでも二つずつあっただろ」
「え?」
「さっき親父さんの墓を参ったときだよ。すげえ不思議だなと思って」
ぼくは息を呑んで、お兄ちゃんの瞳を見つめた。
なぜ、お父さんのお墓に二つずつもお供え物があるのか。そのいきさつを話そうかとも思ったけれど、あの人の言葉が頭に浮かんだ。
「ここできょう僕と会ったことは、お兄さんたちには内緒にしておいて」
もちろん、あの人の言うお兄さんたちの中には、お兄ちゃんも含まれているわけだ。
「人夢?」
「そんなに不思議かな。お供え物が二つもあるの」
お兄ちゃんに目を合わされたぼくは、どこかバツが悪い感じになって、そそくさとシンクのほうへ移動した。
どこも汚れてないのに、近くにあった布巾を取る。
「だって、ぜんぶだぞ、ぜんぶ。ワンカップに、豆大福にみたらし団子に。一つはまあ、お前が置いたんだろうけど」
「ねえ、もうその話やめようよ」
つい、声が鋭くなってしまった。
お兄ちゃんも、ただならぬぼくの雰囲気を感じ取ったのか、しばらく閉口した。
「……変なのは、俺か」
「……」
「お前のじいちゃんとばあちゃんもいるわけだもんな」
なにかしらの返事を、お兄ちゃんは待っているみたいだったけど、ぼくはなにも言えなかった。
「悪い。いまのは忘れてくれていいから」
どこかイライラした感じで言葉を捨て置く。戸に体をぶつけながら、お兄ちゃんは台所を出ていった。
たしかに、まったく同じものが並んでいるというのは、首を傾げたくなる光景かもしれない。でも、それはお供え物なんだし、被ることだってある。
ただ、ぼくとしては、お父さんの大好物を完璧に揃えられる人がほかにいて、そのことにかなりびっくりした。
行田のおじいちゃんとおばちゃんでさえ、あれはできないと思う。せいぜいお新香までだ。
ぼくは、霊園で会った「ジローちゃん」をもう一度思い出した。
あの人は、お兄さんたちを知っている。
「内緒」という言葉の響きが、どうしてか、お兄さんたちが、次郎さんのなにかをお兄ちゃんに隠そうとしているあのことと重なった。
もしも、あのジローちゃんが次郎さんだとしたら──。
たとえそうでも、やっぱりいろんな疑問が残る。
お母さんは、なぜなにも教えてくれなかったのか。それに、次郎さんの年齢である二十代後半の人には、ぼくは見えなかった。
しかし、あれやこれやと考えてみても、結局ぼくにはどうすることもできない。
あのジローちゃんが次郎さんであったとしても、お兄さんたちとお兄ちゃんのあいだにある「隠しごと」の壁がなくならない限り、ぼくが口を挟めるわけもないんだ。
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