第163話目 真崎直人5


「実は愛子さん、KENのブログに来てくれたことがあるんですよ。自分も、KENのブログは誰に気付かれてもいいというスタンスでいたので、何人かのクラウンが気づいたようです。KENのブログを覗いたということは、そこに出入りしているAIというブロガーにも気づいたわけですが、そもそもKENも最初にAIというハンドルネームを目にした時、クラウンのAIさんかと思ったくらいなんですけど、それで愛子さんはAIのブログを覗いたようです。つまり、愛子さんもMASATOさんがNAOさんだと気付いたわけです。その話、愛子さんから聞きましたか?」


「いえ、初めて知りました」


「愛子さんも以前ブログをやったことがあったらしく、そこの仕組みも知っていたようで、一度、聞かれたことがありました。あのAIさんと言うブロガーさんとNAOさんは仲がいいみたいですねと。自分は適当にNAOさんも愛子さんだと思って交流してたのかもしれませんねと、笑って誤魔化しておきましたけど」


 拓也の話は衝撃的なものだった。愛子がブロガーのAIの存在を知っていたなんて……今までそんな話は一度も出なかったじゃないか。もちろん自分からもしていないのだが……


「愛子さんに今の感情を話すんですか?」


「……悩んでいます。愛子さんを好きだと思う気持ちもあるので……とてもいい子だし、会う度、彼女のいい面ばかりが見つけられるほどで、失う怖さがあります。でもブログの中にいたAIさんのことも、どうしても気になってしまって」


「そうですか……じゃあ一つ教えておきますよ。AIさんが消えて、そこまでしょ気ているNAOさん、ブロガーのAIさんは、名前に愛するの愛という漢字がつくそうですよ。ご存知でした?」


「あ、はい。それは聞いたことがあります。なので自分は、ブログの内緒の書き込みの中で彼女の名前を書く時には漢字で愛さんと……」


「それ、あ・い・さんと呼んでましたか?」


「えっ?」


 思いがけない聞き返しだった。


「一度、ハンドルネームの話になったんです。ほら、クラウンにもAIさんがいるでしょ?その話題の時ですけど……その時、AIさんの名前には愛という漢字が入るという話を聞いて、あいさんかぁと平仮名で書いたら、『あい』じゃなくて、『まな』だと」


「えっ?まな?」


「はい、まなです。その時は、なんでそこまで話してくれたのかと思いましたが、もしかしたらこんな日がくるかもしれないと思ってたのかもしれないですね。NAOさんが、消えたAIさんを探す日が。だから、NAOさんに繋がるKENに、一つだけ手掛かりを残したのかも。その、NAOさんには言えなかったことが、AIさんが消えた理由かもしれませんよ。もしかしたら、知ってる人だったとか……なんて、さすがにそれはないか。急がないで、少し待ってみたらどうですか?もしかしたら、NAOさんに……MASATOさんのブログに会いに来る日がくるかもしれないですし」


 消えた理由。NAOと繋がるKENに名前の一部を教えたこと。「あい」ではなく「まな」だということ……もしかしたら、知ってる人だったのかも?そんなこと、考えたこともなかった。


 KENに言われ、直人は自分の記憶の中に「まな」を探した。が、「まな」という名前には思い当たらない。そして、愛が来ていたはずのクラウンフェスタに来ていた知り合いの中にも、「まな」はいない。本当に知り合いなのだろうか?だから言えなかったのだろうか?


 まな、まな、まな……まな、まな、直人は子供のころからの知り合いの名前を片っ端から記憶の中に探ってみたが、どんなに探しても、直人の記憶の中に、まなはいなかった。



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