第157話目 交流108 MASATO
愛と出会えて、今までの取捨選択は間違っていなかった。そう書いて、自分の想いを伝えた。が、そこでふと思った。その愛の存在があって、竹花愛子と出会ったとも言える。なんとも複雑な心境だ。ここでも、いつか取捨選択の必要が出てくるということなのか……
直人は重くなる気を奮い起こし、今夜もまた存在のハッキリした愛子と、眠る前の~おやすみなさい~のラインを送り合った。
「おやすみ」を言ったあとで再び送られてきたラインには、~1日の最後のラインを送り合うのが直人さんで嬉しい。直人さんのことで心をいっぱいにして眠ります~そう書いてあった。
そんな愛子からのラインは、それがまるで愛かと思えるほど、愛の使う言葉とよく似ていた。
翌日の夜、愛からは試験に受かったというコメントが入った日、ブログサービスを終了することになったこのサイトから、新たなサイトへの移行手続きが始まった。
『愛さん、移行の作業はいつにする?どうせなら同じ日にしない?こういうところでも一緒に行動したい直人なんだけど(笑)まあ、いきなり今日とは思わないんだけど……ゲストの1人は、早速今日移行手続きをしているよ。それがわかったのは、ニコさんっていうゲストなんだけど、マイページに表示されているそのニコさんの今日の記事のタイトルが、「移行します」だったんで、その記事をクリックしたら、ニコさんのブログがブルー一色で表示されて、その画面の真ん中に移行先へとリンクが表示されていたんだ。そして5秒後にその新たなサイトのブログが開いたという具合さ。なるほどこういう感じになるんだなと納得したところです(笑)』
新しく移行するサイトのニコさんのブログを見て気づいたことがある。ここのブログのような、ゲスト同士が内緒でやり取りできるゲストページのようなものがないのだ。それと似たもので、メッセージを特定の相手に送れる機能が付いているが、その機能ではメッセージのやり取りはサイトの運営がチェックできるようになっているため、誰かに読まれるかもしれないという不安が発生する。これは悪質な書き込みなどを防ぐためだろうが、書き手としては見られると思うと書けない言葉も出てくる。愛とこうして2人だけでやり取りをすることが、新しいサイトでは難しくなる。
直人はやはり、ここは一つ愛との関係を一歩踏み込んだものにできるのではないかと期待する気持ちもある。ちゃんとその存在を認識したうえでの関係になれるのならば……
なれるのならば、自分はどうするのだろう。
『うん、私もね、ゲストの中に早速移行した人がいて、こんな感じになるんだということを教えてくれた人がいたんだ。このゲストページの前に書き込んでくれた人がいたんだけど、その方がいうには移行したあとでも、今のところはこっちのブログのゲストページに書き込みが可能なんですって。12月31日のこのブログが終了してしまうその時まで、同じアカウントで書き込みができるみたい。こちらからは移行したブログに書き込みできないのにね(笑)移行、いつにしようかな……うん、直人さんと同時にっていうのがいいかもしれない。……それとね、新しいサイトではここのように2人だけで内緒でやり取りができないみたいなんだ。だから、新年を迎える直前、5分前くらいに移行したいかなと思っています。もし直人さんが可能ならばだけど……ギリギリまで直人さんと一緒にいたい』
ギリギリまで一緒に……その言葉にドキリとした。ギリギリまで一緒にいて、そのあとは一緒にいられないような気がして胸がざわつく。
『愛さん、うん、そうだね、その瞬間まで一緒にいよう。そうしていっせーのーせで、移行ボタンを一緒に押す。それでどう?移行した瞬間、お互いのブログがブルーになるから、そこから5秒で新しいブログへ行ける。万が一にも上手く移行できないとか何か失敗があったら困るから、ブログのタイトルとハンドルネームは絶対に変えない。そうすればすぐに見つけられるはずだしね。どう?』
そうすればすぐに見つけられるはず。この言葉を書いて、愛の存在の遠さに打ちのめされた気がした。そうしなければ愛を見つけることができなくなるのだ。どうしたことだろう、この感じている恐怖はなんだ。身体中に恐ろしいほどの寒気を感じ、身体中に鳥肌が立った。
愛を失いたくない。絶対に失いたくない。失うことをこれほどまでに恐怖に感じるなんて……
それが現実感となって直人を襲った、最初の出来事だった。
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