第153話目 交流104
そうだ。確かにそうだ。言われなくてもわかってる。直人は真崎直人で、クラウンのNAOで、クラウンフェスタが終わっても、ワークショップに行けば会えるはずだ。そして……何よりも、真崎直人は愛美の通う学校の先生で、会いたいと思えば毎日だって会えるんだ。
そんなこと、改めて言われなくてもわかっている。が、それはできるはずがない。だから、ブログサービスが終了してしまえば、この関係はそこで終わりだ。
愛美はもう、わかっている。この関係に先がないことを。直人の現実に自分が行けないならば、ここを綺麗な思い出に、直人は現実を幸せに生きて欲しい。
……けれど、少しだけ、
少しだけ、もう少しだけ直人の気持ちが欲しい。あと1ヶ月半、直人の想いが欲しい。
『直人さん、そうだね。うん、そう、運営さんが他のサイトのブログへ移せるように手配をしてくれるみたいだね。なんかね、ブログサービス終了って見て慌てちゃった。直人さんがここからいなくなっちゃうって考えたら、なんかすごく怖くなって……そうだった。私はもう直人さんのこといっぱい知ってるし、どこに行けば会えるのかもわかってるんだった。直人さんは、新しく手配されるサイトでまたブログをやる?』
直人の書き込みの前に、タクシーやKEN、SUN、ネコ、テツと、AIのブログに出入りしているゲストたちのほとんどが、手配されたときに新たなブログへの移行を考えていることを記事にしていた。愛美は記事の更新は以前ほど多くはしなくなっていたが、直人を待つ間の暇つぶしで、交流のあるゲストたちとは交流を続けていたのだ。
その中の、タクシーとKENからはゲストページに書き込みがされており、どちらもブログ終了がショックなことと、違うブログへの移行を考えていて、是非とも交流を続けたいと書かれていた。タクシーはいいとしても、KENは坂本拓也なので、この先もどのブログへ行きどんな記事を書くのかは興味がある。KENはクラウンなのだし、NAOと知り合いなのだから。
タクシーとKENが内緒で書き込みしてくれたゲストページには、既に返事を入れてある。先のことはまだ考えていないが、他のブログへ移るならば、また交流ができたらいいなと思っていると書いておいた。
が、愛美の気持ちは、ブログサービス終了を知り、直人を待つ間に考えに考え、ブログはここまでで止めようかという気持ちに傾いていた。KENや直人が新しいサイトに移るならば、そのサイトを聞き、これからは傍観者で読んでいるだけでもいいのではないか……そう思っていた。
直人との交流を止めたくない、直人と毎日話したい。直人の気持ちが愛に向いているなら、ずっと向かせておきたい。そう思ったが、先が闇に埋もれているならば、いつまでもそれじゃいけないと思うようになっていたのだ。
だから、せめてここがあるうちは、このブログの中だけは……直人にたくさんわがままを言い、想いを伝え続け、その心を掴んでおきたい。期間限定のものは、だからこその価値がある。
『もちろんだよ。新しくどこかのサイトでブログが続けられるよう手配してもらえるなら、ずっと続けるよ。愛さんがここにいる限り、ずっと愛さんのそばにいるよ。っていうか、愛さんを失いたくないんだ。自分、愛さんがいるから心を保てているように思うんだ。あなたが必要だよ』
直人……そんな直人の言葉が嬉しくてたまらない。嬉しくて嬉しくて嬉しいから悲しい。私は、その想いが永遠じゃないことを知っているから。
『……嬉しい。直人さんがそんな言葉を言ってくれるだけで、私は心が溶けてしまいそうになります(笑)あっ、それからね、話はちょっと変わるんだけど、私ね、来週試験があるんだ。仕事に必要な試験でね、絶対に合格したい試験なんだ。まあ、ちょっとだけ自信はあるんだけどね。直人さんが応援してくれたら、もっと頑張れそう』
『フレーフレー愛さん!頑張れ頑張れ愛さん!絶対合格愛さん!……って、試験があるんだね、どんな試験を受けるんだろう?頑張ってね。と、じゃあ来週はあんまり長くここにいたら勉強の邪魔になるかな?というか、来週っていうと、もうずっと勉強の邪魔になってたんじゃ?言ってくれたらよかったのに……』
『ううん、全然邪魔なんかじゃないよ。試験っていってもね、仕事関係の試験で、仕事そのものが試験の勉強になるものだから、日々試験の勉強をしていました(笑)でもやっぱり試験は試験で、何があるかわからないから、だから直人さんの応援が必要です……な~んて。緊張しないように祈っててください』
『祈っているよ。ずっとずっと祈っているから。……と、だからそのためにもその試験がいつなのか教えてもらいたいんだけどなぁ(笑)』
『実はね……月曜なんだよ。明後日……あっ、もう0時過ぎたから明日だ!(笑)月曜日はずーっと私のために祈っていてください(笑)どんな時も直人さんが私のために祈っているってわかってたら、もっと頑張れるような気がするし、そう思うだけで緊張がほぐれていいかも』
他愛もない話題で、身体に籠った熱を下げたつもりだった。
直人とここでこんなふうに交流をするのは、あと1ヶ月半ほどしかない。直人がここからいなくなるのは絶対に嫌だ。そう書いたそれが本音だけれど、でも、ずっとここにいてはいけないということも、もうとっくにわかっていたことだ。
直人を失う現実を抱え、熱くなった身体は、やはり直人でしか
直人を愛している。……そう思う。
だから私は消える……ここから。
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