第149話目 交流102

 『愛さん、ただいま。今夜は3次会まで参加したので遅くなりました。それでね、いい報告があるんだ。あのね、NAOはね、今年は楽しませてくれたクラウンがもらえる、コメディー賞の3位がもらえたんだよ。嬉しかったなぁ。それでね、今年は実行委員だからさ、いつもと違って実行委員席にいたんだ。でね、「3位はNAOさんです」って呼ばれたとき、一瞬、自分のことだとは思わなくて、誰も前に出てこないから、あれ?NAOさんは今日は欠席か?なんて思っちゃったくらい。なんかさ、やっぱ自分の視点が違ったんだなって実感したよ。今年は実行委員っていう気持ちが強くてね、クラウンになっている時もそうだったんだけど、どうも他のクラウンの動向に目が行くようになっていたなと思ってね。それとね、KENさんからも聞くと思うんだけど、KENさんは芸がすごいスペシャリスト賞2位と、なんと新人賞の1位がもらえたんだよ。ね?すごいでしょ?愛さんもKENさんの芸がすごいっていうところに投票したんじゃない?』


 今夜は遅くなると直人が言っていたため、もしかしたら今夜は書き込みがないかもしれないと思い、他のゲストたちの記事を読みコメントを書いた後は、趣味の読書に興じていた。もちろん、数分おきにF5キーを押しながら。


 23時も過ぎた頃、直人からの書き込みがあり、それとほとんど時間をおかず、KENからも書き込まれた。


 『AI《マナ》さん、こんばんは。今日は嬉しいことがあったので聞いて欲しくて、こんな時間なんですけど書き込みをします。クラウンへの投票結果で、新人賞をもらえたんですよ。しかも1位でした。これは嬉しいです。新人賞って、はじめての年にしかもらえないものだから、それをもらえるとは本当にまさかですが嬉しかったです。それとルイさんも新人賞の2位がもらえたんです。知ってる人がもらえるのもやはり嬉しい(笑)それと、きっとMASATOさんからも聞くと思うけど、NAOさんもコメディー賞がもらえて、さすがだなって思いました。あと、KENはスペシャリスト賞っていうのももらえたんだ。今まで賞なんて、ほとんどもらえない人生だったから2つももらえて嬉しかったな。今夜は気分よく眠れそうです(笑)』


 KENさんは閉会式には行けないと言っていた。けれどこの時間にこの書き込みだということは、仕事のあと飲み会には行ったのだろう。


 愛美は、こんな時間なので、KENへの返事は後回しにすることにした。きっとAI《マナ》からの返事など待たないだろう。坂本さんは明日も仕事だろうから。KENへの返事は明日でいい。


 『直人さん、おかえり。NAOさん、コメディー賞をもらえたんだ!すごいすごい!きっと私がいっぱいNAOさんに票を入れたからだね(笑)でもさ、ふと思ったんだけど、NAOさんもKENさんも、クラウンは2日間だけでしょ?それで賞がもらえるって、すごいことじゃない?やっぱ私がたくさん票を入れたからだね(笑)……あのね、NAOさんとKENさんが賞をもらえたから言っちゃうけど、私ね、投票した時、手に持ってる票を全部NAOさん、KENさんに入れたんだ。まあ、KENさんへは3日の日に見た一か所でだけだけど(笑)感謝してもらわなくっちゃ(笑)なんてね。あ、でも考えてみたら持ってた票を全部入れても、それぞれの項目で票が入っただけで、NAOさんのコメディー賞も、KENさんのスペシャリスト賞もそれぞれ1票だけか(笑)そういえば、新人賞ってあったんだね。そんな票はなかったけど、どんな仕組みなんですか?』


 新人賞の話は聞いていなかった。直人が話してくれないことは、クラウンAIに話が繋がるかもしれないからだろう。ここのところ、どうしても直人が話してくれなかったことを耳にすると、必ずクラウンAIに関わるのだろうと思ってしまう。


 その感情は、愛美の心に翳りを落とす……


 『愛さん、そんなに票を入れてくれてたんだ……嬉しいよ、ありがとう。そうだね、愛さんがたくさん入れてくれたからNAOもKENさんも賞に入れたんだね(笑)そうだ、新人賞の話をしていなかったね。新人賞はね、観客には誰が新人かなんてわからないじゃん?だからね、全部の得票数が多い順に3位までがもらえるんだよ。だから愛さんが言うように、2日間しかクラウンにならなかったKENさんがもらえるのはすごいことだよ。スペシャリスト賞でかなりの数を稼いだみたい。でね、ルイさんが2位だったんだけどね、ルイさんは3日間参加してていろんな部門で票を伸ばしてたんだ。でもルイさんが取れた賞は新人賞の2位だけさ。そう考えるとKENさんはすごいよ。まあ、それだけ満遍なく票を集めたルイさんもすごいけどね』


 ルイさんが2位ね。それはKENから聞いて既に知っていた。新人賞はそんな仕組みになってたんだ。愛美はそれを知り、KENやルイが票を集めたのも納得できると思った。そこにクラウンAIの名が出ないのは、賞に入れなかったということだろう。まあ、そんな簡単なものでもないのだろうとは想像できる。クラウンAIは確かに目立っていなかった。いつもNAOの向こうにいた印象だ。愛美にそう見えていただけではなく、きっといつも自分から動いてはいなかったのだろう。


 『ルイさんも2位だったんだね、すごいすごい。ルイさん、目立ってたもんね。私は直人さんから話を聞いていたから、ルイさんだ……と思って見たけど、きっと知らなくても目を引いたと思う。素敵な人だね。あと、リングさん、AIさん、モモさんだっけ?他のみなさんは入れなかったのかな?まあ、直人さんが仲良くしてるみんながどこかに入るなんてこともないか。クラウンさん、かなりの人数だったでしょうからね。ところで直人さん、お疲れなんじゃない?もう寝たほうがいいんじゃない?(笑)』


 クラウンのAIの名前も出してみた。意識なんてしていませんとでもいうように、ちゃんとリングとモモの名前も出しておいた。直人はどんな返事を寄越すだろう……


 『そうだね、飲んでいるからだいぶ睡魔がやってきた感じではあるよ。リングさんAI《あいこ》さんモモさんは、残念ながらどこにも入れなかったね。仰る通り、クラウンの数からしたら賞に入るなんてなかなか厳しいことだからね、だからNAOも本当に嬉しいんだ。だから飲みすぎちゃった気もするよ(笑)NAOは今年、みんな愛さんだと思って絡んでいたからさ、それがよかったかもしれないね(笑)明日またくるね。おやすみ』


 みんな愛さんだと思って……そうやって、自然に書いてくれるそんな言葉に、愛美は目頭を熱くする。嬉しい。嬉しくて嬉しくて、嬉しくて悲しい。


 この嬉しくて悲しいは、直人と同じだ。今が永遠じゃないからだ。

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