第147話目 交流101
結局、クラウンAIの話は出てこなかった。
愛美は直人とのやり取りの中で、何度かAIの名前を出してみようかと考えてみたが、それに触れることはできなかった。直人も一度もAIの話を出さなかった。今日も愛がクラウンフェスタに行ったということは、AIがNAOのグループにいたことを愛は知ったことを直人だってわかっているはずだ。それなのに触れない。それどころかもともと直人は3日目もAIと一緒だと教えてくれていなかった。
直人はクラウンのAIを特別な存在と捉えていないから話に出さないのだろうか?
いや、それは違う。愛美はブログの中で、KENから直人がAIと連絡を取り合っていること、2人で会うことがあることを聞いて知っているのだ。直人が愛にAIの話をほとんどしないということに直人の心が表されているのだと思う。直人は聞けば答えてくれたのだろうか?でも、聞けるはずない。
感じたのは、疎外感だ。すでに幾度となく感じていたものだが、それはことある毎に大きくなり、愛が直人の現実にいないことを実感させられる。
そうだ、そうだととっくにわかっていたではないか。自分はどうやっても直人の現実の場には行けない。
諦めきった感情が心を覆い尽くした。
愛美はログアウトしてパソコンを閉めようと、カーソルをそこに当て、ああ、そういえばKENにまだ返事を入れていなかったと手を止めた。KENには昨日も返事を入れていない。さすがに2日間入れないというのもマズイかと思ったのだ。今日はともかく、昨日はクラウンフェスタに行ったことになっているのだから。
『KENさん、こんばんは。お返事遅くなってごめんなさい。昨日のクラウンフェスタはとても楽しかったです。KENさんのけん玉を見て、本当に驚きました。すごく上手なんですね。私も子供の頃にやったことがありましたが、あの大きなお皿にも滅多に乗せられなかったくらいだから、KENさんのけん玉はまるで魔法を見ているみたいでした(笑)絵もすごく上手だし、KENさんは一つのことを極める人なのかなって思いました。それと、ルイさんと一緒にいたところを目にしましたけど、なんか、いい感じでした(笑)KENさん、夢の中にいるみたいでしたか。それは私も同じです。クラウンフェスタの街の喧騒の中で、いろんなクラウンさんたちが街の中にいて、みんな笑顔で、観客もみなさん笑顔で、本当に夢の中にいたみたいな、そんな感覚でした。楽しませてもらって、本当にありがとうございました』
コメントを投稿して、愛美はパソコンを閉じようとしたが、やはり1日の最後は直人で終えたいと思い、昨日撮ったNAOの写真を目に映し、ツーショットに加工した写真を開いて目に収めパソコンを閉じようとしたところで、それに気づいた。直人が記事を更新したのだ。時計を見ると、0時を回っている。直人は3日間のクラウンフェスタを終え、今夜はさすがに疲れているだろう、明日は仕事なのだからと、今夜は23時にはおやすみを言い合っていた。
ありがとうございました
クラウンフェスタが終わりました。
大勢のキャストとスタッフのみなさんには感謝しかございません。
今年は、はじめて裏方を経験させてもらえ、
スタッフの細やかな配慮を身をもって知ることができ、
見えていないものへの感謝を、より強く感じた年でした。
そんな気持ちから、
今年は今まで以上に観客にも目を向けたように思います。
自分の周囲の人、みんな笑顔にしたい。
そんな気持ちがふつふつと湧き上がる。
みんなを笑顔にと思い、
多くの人たちとハイタッチや握手をしました。
触れられた人も、触れられなかった人も、
みんな、ありがとう!
その記事の下には、大勢のクラウンの集合写真が載せられていた。
すぐにNAOを探す。
あっ、NAOだ。NAOがいた。
たくさんのクラウンが写っていても、すぐNAOがどこにいるのかがわかる。すぐに見つけられる自分が嬉しい。……そして、意識しなくても、ちゃんと見なくてもすぐにわかる。横にいるのは、やはりAIだ。見ないようにしている目の片隅には、ちゃんとAIが写っていて、愛美と写した時と同じポーズで、AIを包むように見える。
見つけられて嬉しい、NAOがいて嬉しい。嬉しくて、悲しい。
楽しいのに泣きたくなるのは、それが永遠じゃないことを知っているから。
直人はよくそう言う。でも、私が嬉しくて泣きたくなるのは、それが永遠じゃないと知っているからじゃない。永遠どころか、そこは自分がいないNAOの現実だから、だから悲しいんだ。
愛美は直人の現実の場にいる。が、愛はそこにいない。
なにがいけなかったんだろう?ブログで出会った最初から、MASATOに自分は寺井愛美だと言わなかったことだろうか?MASATOさんは真崎先生ですかと問わなかったことだろうか?でも、それをしたら今の愛美はいない。直人を想う愛がいない。直人が心を寄せてくれる愛は存在しないことになる。
堂々巡りだ。
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