第146話目 交流100 MASATO

 愛さん。やっぱりマスコット人形は愛さんだったんだな。


 直人は自分の直観が当たったことが嬉しかった。それも、今朝から手作りで急いで作って届けてくれたのだと思うと、そのいじらしさにまた心の中を撃ち抜かれた気がした。


 愛さんは、このクラウンフェスタで合図をくれなかった。そのことはやはり寂しく思うが、やはり直接知っているわけじゃない人と『出会う』というのは、全く知らないわけではない分、そのハードルは高いものかもしれない。だから、ゆっくりでいい。そう言ったのは自分のほうだ。


 『コメント投稿、ほとんど同時だったね(笑)クラウンフェスタ楽しんでくれたみたいでよかった。チビNAOを持っているところも見てくれたんだね。即興でチビNAOと芸をしたんだけど、どうだった?みんな笑ってくれてたよね?はじめてやることは観客の反応が気になります(笑)クラウンも大勢会ってくれたんだよね?愛さん、投票もしてくれたのかな?誰に入れたんだろう?気になる(笑)まあ、もちろんNAOにも入れてくれたと思うけど(笑)集計も今週には始まると思う。結果が楽しみだよ。もちろんNAOが何か賞に入れるか気になるけど、それよりも実行委員になったからか、自分よりも今年は入ったクラウンが一人でも賞に入れたらいいなと思うよ。みんなすごく頑張ったしね』


 新しく入ったクラウン。そう思って真っ先に頭に浮かんだのは、やはりAI《あいこ》だった。


 愛さんは、クラウンAI《あいこ》ではなかった。昨日、そう確信して今日のクラウンフェスタを終えてみると、今日はAI《あいこ》との間に、何かしら見えない壁のようなものを感じていた。それはAI《あいこ》がどうとかではなく、自分の気持ちの問題だとわかっていた。が、そんなことAI《あいこ》には関係ない。


 ~3日間お疲れ様でした。NAOさんは実行委員で気を使うことも多かったでしょうね。私も初めてのクラウンフェスタで緊張していましたが、NAOさんのお陰で本当に楽しいクラウンフェスタを過ごせました。ありがとうございました。週末の全体のお疲れ様会も楽しみにしています。それと、この前話していたチーズケーキの美味しいお店も楽しみにしていますね~


 愛さんのゲストページに写真を投稿している最中にAIこと竹花愛子から来たラインを読み、そうだった、一緒に行こうと誘ったのは自分のほうだ。クラウンフェスタが終わってからと言ったんだ。


 ラインの返事は、まだ送っていない。


 直人は普通に、どうしよう……と思った。


 竹花愛子が愛ではないとわかった途端、それまでの竹花愛子に向けていた感情が全く消え失せたとは思わないが、自分の気持ちが愛に向いている以上、竹花愛子に特別な感情を持っていると思われていていいのかどうか不安になった。このままだと竹花愛子を傷つけることになるのではないか。


 いっそ、今の自分の感情を、今までの経緯を全て竹花愛子に話てみようか。


 いや、でも、まだ特別な関係とまで行かない彼女にそんなことを話しても、困惑させるだけではないのか。


 直人は竹花愛子に対しても誠実でなければいけないと思っていた。愛には言わなければわからないのだから、実生活では新しい関係を築きあげて行くということもしていいのではないかと思う反面、それでは愛に対して不誠実すぎるのではないかとも思う。愛は、愛とは実際どうにもならない関係のままかもしれない。が、今、気持ちが向いているのは愛だ。


 いろんな感情のせめぎ合いの中で、直人は答えを見つけられずにいた。


 『チビNAO?可愛い名前を付けてくれたんだね(笑)チビNAOのこと、大事にしてね。投票?もちろんしてきたよ。あちこちでしてきました。うん、NAOさんにももちろん票を入れたよ。たくさんね(笑)あとね、やっぱりKENさんにも票を入れてきた。KENさんのけん玉の腕前、ビックリしちゃった。あんなにけん玉が上手な人だったんだね。絵も上手だし、一つのことを極めるタイプなのかも。それと、KENさんがよく話題に出しているルイさんにも票を入れました。ルイさんは人懐こい人みたいですね。ルイさん、いろんな人たちにツンツンして笑顔にさせてた(笑)あと、残念だったのはリングさんに会えなかったことかな。NAOさんばかり追いかけてたからかな(笑)』


 愛さん、NAOばかり追いかけてたんだな。そうか、見せてもらった写真は城跡公園のときのだったけど、愛さんはKENさんのグループを見た以外はずっとNAOのグループを見てたのかもしれないな。ということは、昨日も今日も、AI《あいこ》と一緒だったことも知っているということか。けど、それに触れない。そこに愛の感情が見えた気がして、直人は戸惑いを覚えた。愛は3日だけ来ると思っていたから、今日のグループにもAI《あいこ》がいることを敢えて教えなかった。愛はどう思っただろう。心に込み上げてきたものは、不安だった。


 『NAOにたくさん票を入れてくれたんだね。じゃあNAOは何かで賞をもらえるかも?開票結果を楽しみに待つとするよ。そうなんだよ、KENさんはけん玉がすごく上手い。絵の時にも驚いたけど、愛さんの言う通り、一つのことを極めるタイプかもしれないね。何でも興味があるものに手を出すNAOとは真逆だね(笑)ルイさんはそうだね、コミュニケーションがとても上手いと思う。クラウンの仲間の中でも、あっという間に大勢の人と打ち解けたみたいだし、そうやって周りの人たちを引き込んでいくのが上手い。リングさんに会えなかったんだ。ぞれは残念(笑)リングさんはね、どうやらクラスの子にバレちゃったみたい(笑)はじめてだと知り合いがいるときに顔に出ちゃうみたいだね(笑)』


 敢えてAI《あいこ》には触れないでおいた。愛さんも触れないのだから、わざわざ触れるのもおかしいかと思ったからだ。


 そうして愛とやり取りをして、おやすみなさいを言ったあと、竹花愛子にラインの返事を送った。もしかしたら待っているかもしれないと思ったが、どう返事を書いたものかと悩んでいたのだ。


 ~3日間、お疲れ様でした。返事が遅れてごめんなさい。実行委員でこのあとの予定の確認とか、いろいろ話をしていて遅くなりました。週末のお疲れ様会は楽しみだね。クラウン参加の多くが一度に集まるなんて、なかなかないからね。前夜祭の時も多かったけど、お疲れ様会はもっと多いかもしれない。そのあと2次会もあるんだけど、AI《あいこ》さんも行くでしょ?そしてそのあと、いつものメンバーで3次会なんかどうかなと思ってるんだけど、どう思う?それと、チーズケーキのお店ね、クラウンで疲れた身体を癒すのにもいいかもしれないね。じゃあ、その次の週末辺りに行きましょうか?都合はどうですか?~


 さんざん悩んだ末、約束は約束だと思い、チーズケーキのお店に誘うことにした。返事が遅れた理由をこんなふうに書くなど、なんだか言い訳じみている気がしたが、一応気を使ったつもりだ。これから竹花愛子とどうなっていくのか直人にもわからなかった。どうなっていくのか、いや、自分でもどうしたいのかがわからないのだ。自分は、付き合いたいと言ったわけではないし、竹花愛子からも言われたことがない。ただ、時々会ったり連絡したりしているだけだ。まだそういう、『友人』の域を出ないのだから、そのまま友人として付き合えばいいのではないか。そんなの言い訳だと自分でもわかっていたが、もう戻れず、進めない直人には、今、そうするしかないように思えていた。

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