第141話目 交流98 MASATO

 『直人さん、おかえり。今日の活動、お疲れ様でした。今日ね、NAOさんに会ってきたよ。NAOさんは、すっごい楽しそうに観客を楽しませていたし、メイクの下の顔もちゃんとずっと笑顔で、私はそんなNAOさんを見ているのが嬉しくて、いっぱい写真を撮ってきました(笑)KENさんやルイさんのグループも見てきましたよ。ルイさん、もうベテランみたいに馴染んでた(笑)リングさんのグループには会えなかったんですよ、残念。それと、Tさんは今日も来てたんだね。じゃあどこか同じ場所にいたのかも?……NAOさんがいろんなところで観客に絡んでいるところも見ましたよ。絡むのは子どもさんが多かったように見えたけど』


 いろんなところで……か。


 愛さんは、いろんなところでNAOを見てくれたんだなと思うと、それは純粋に嬉しい。が、聞きたいのはそれだけじゃない、NAOに触れたかどうか、それが知りたい。どんなに思い返しても、小指にだけ触れてくれた人はいなかった。


 直人はどういう言葉を書いたら愛がそれを教えてくれるのか考えたが、詮索するような聞き方はしたくない。ズバリ聞いてしまおうか。


 『愛さん、クラウンフェスタを楽しんでくれたようで、よかったよ。ところでNAOは愛さんがどの人なのか、キョロキョロ探してたんだけど、気付いた?愛さん、NAOに触れることはできましたか?』


 『たくさんの人と手を合わせたNAOさん。私も合わせたくって、何度も近寄って行ったんだけど、いっつもお子さんたちに邪魔されちゃった。NAOさんの周り、いつも人がたくさんいて、なかなか近寄れなかった……残念(笑)そういえばさ、NAOさん子供たちに何か書いてあげてたでしょ?あれは何?他にも何か書いてあげていたクラウンさんがいたけど……』


 ちぇっ。話を上手いことかわされたかな。


 直人は愛が軽くかわすことで、互いが触れられなかったことを悲しく思うとか寂しく感じるとか、そういう負の方向に感情が向かないようにしてくれたような気がしていた。愛さんはそうだ。そういう人だって、もう知ってるじゃないか。


 『あ、書いたものを渡すところ、見てた?あれね、サインなんだよ。そうか、そのことを教えてなかったね。城跡公園に子どもの広場っていう場所を設けているんだけど、そこでね、お気に入りのクラウンにサインをもらおう。たくさん集めて景品ゲットだぜ!なんてことやってるんだ。実はね、いくつ集めてももらえる景品は一緒でね、クラウンの赤鼻を子どもたちの鼻につけてあげるんだ。はじめてクラウンフェスタにくる子にはクラウンが持ってるクラウンの絵柄のある紙に書いて渡してるんだけど、何度も来ている子はね、自分のサイン帳を持ってきたりしてるんだ。だから去年も書いてもらったって、見せてくれる子もいるんだよ。そんなわけで、NAOも毎年サインに変化をもたせているわけなんだ』


 その光景を目にしているのだから、やはり愛さんは城跡公園にいたんだな。でも、いろんなところで見かけたと言うんだから、NAOが行く先々に来てくれていたんだろう。そう思うとやはり胸に込み上げてくるものがある。なんだか、いじらしいや。


 愛さん、本当に来てくれたんだな。嬉しいや。


 『サイン!?わぁ……私も欲しかったなぁ。あっ、でも子どもの広場でだから、大人は書いてもらえないかな。NAOさんのサイン、見たいなぁ……欲しかったなぁ(笑)景品は赤鼻ね、そういえば赤鼻の子供たち、たくさんいたっけ。メイン通りの城跡通りでさ、身体にペイントしてた場所がいくつかあるじゃん?あそこでも顔にペイントしてもらった子が赤鼻もつけてもらってたんだけど、だからあの赤鼻、そういうところで買ってつけているんだと思ってた。でねでね、私もペイントしてもらったんだよ。さすがに顔は恥ずかしいから手の甲に描いてもらっちゃった。手の甲に描いてもらってる人、たくさん見かけたよ。やっぱり大人は顔は厳しいよね。でも中高生くらいの何人かのグループでいた子たちはしっかり顔に描いてもらってたけどね。ああいうのも見てて楽しかった』


 手の甲か。それを聞いて、また生徒の寺井のことを思い出した。ルイが寺井がバルーンの花を囲むように花のペイントをしてもらってたと言っていた。愛さんも、そんな感じで手の甲に描いてもらったんだろう。


 直人は自分が作った花のバルーンを腕に通してやったときの寺井愛美を思い出し、顔がニヤけた。NAOが話しかけて、一瞬、「えっ」てした顔、まあ、可愛い子ではあるよなと、その手にどんな花を描いてもらっていたのか見たかったなと思った。直人は、その時の寺井愛美の手の甲に、愛の手の甲を重ねるようにして、その描かれた花を、幾度となく今までに目にしたことのある花の絵柄を重ね、楽しい時間を過ごしてくれたであろう2人を喜ばせることができて、本当によかったと思った。


 サインか。


 直人は愛の言葉を受け、手元にあるクラウンの絵柄のメモ用紙に、今年書いているNAOのサインをし、それを撮って愛のゲストページに届けた。そのサインは、今日書いた中でも一番上手く書けたものだ。愛に見せたくて、今、何枚か書いた中で、一番いいやつを愛に届けたのだから。


 『NAOさん、サインを見せてくれてありがとう。NAOさん、こんな字を書くんだなって、じっくり見ちゃった。でもサインは普段の字とは違うか(笑)今日もお疲れでしょう?明日もあるし、今夜は早く休んでね。最終日……嬉しくても悲しくならないようにね。って、違うか。嬉しい分だけ、楽しいぶんだけ悲しくなるんだったね。じゃあいっぱい悲しくなるくらい、明日は楽しい1日にしてね』


 愛の言うとおりだ。楽しいから悲しいんだ。嬉しいから悲しいんだ。愛がいて嬉しくて、でも、だから悲しいんだよ、愛さん。


 眠くなりはじめ、ぼんやりとしていた感情を愛に呼び起され、悲しみに襲われた。


 愛さん。……会いたいんだ、愛さんに。


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