第127話目 ブロガー16

昨夜はいくら待ってもAI《マナ》からの返事が入らず、KENこと坂本拓也はイラついていた。いつもならその日のうちに返事を入れてくれるのに。……まあ、もう一つのブログ名のタクシーのほうには返事がない日もあるし、昨夜も入っていない。


 どうせ返事は入っていないだろうと思いつつ、出勤前にKENのほうのブログをチェックすると、そこにAI《マナ》から返事が入っていた。その時間を見ると、すでに0時を回っている時間だ。そんな時間まで何をしていたんだ。読書でもしていたとでもいうのか?いや、どうせ真崎直人でもあるMASATOとやり取りをしていたのだろう。ずっと待っていたKENの気持ちなどお構いなしに。


 そう思うと面白くないし悔しい気持ちもあるが、AI《マナ》を待つ間、何度か中山瑠衣とラインをしていたことで、拓也の気持ちは以前ほど乱れることはなかった。ま、いいや。面白くないながらもそう思える自分の感情が自分でも可笑しく思うが、自分にいい感情を抱いてくれている瑠衣の存在が拓也の中で少しずつ大きくなることで、嫌な感情が抑えられているのだと思うと、人の心は現金なものかもしれないとさえ思う。


 昼休憩の時、AI《マナ》に入れる返事の下書きをしておこうとスマホを開くと、クラウンフェスタの事務局から送られてきたグループ割りについてというファイルに目が留まった。リンク先を開くと日程とグループ割り、それぞれの活動場所が記載された一覧があり、拓也は3日と4日の自分が参加するグループに目をやった。3日はルイと一緒だ。さすがに2日ともルイと一緒というわけにはいかないか。


 そしてNAOのいるグループに目をやると、やはりAI《あいこ》と一緒だ。そして、なんと4日もNAOとAI《あいこ》は一緒だ。NAOはそれをAI《マナ》にどう話したのだろう?自分のブログ名と同じ名のAIという存在がいることはKENとのやり取りで知っているのだから、そのAI《あいこ》と2日も一緒のグループだと知ったら、AI《マナ》がどう思うか見ものだ。それとも、NAOはブログをやっているAI《マナ》とクラウンのAI《あいこ》が同一人物だと思い込んでいるのだろうか?いや、それはあり得ないだろう。なぜならそうかと聞けばいいだけのことじゃないか。まさか、それもできずにいるのか?


 AI《あいこ》にKENから探りを入れてみるとするか。


 拓也は、自分が仕事で参加できない2日のルイのグループに目をやると、そこにはAI《あいこ》がいて、NAOは一緒ではない。そうだ、実行委員であるNAOは毎日クラウンにはなれないんだったなと、この日は別行動かとグループ割りを見ていたが、よくよく見ていると、そのグループに着く担当の実行委員にNAOの名がある。なんだ、2日も2人は一緒なんじゃないか。これは絶対にNAOの意向が入っているのだろう。実行委員だってのに、それを都合よく利用しやがって。これはクラウンAI《あいこ》をブログのAI《マナ》だと思い込んでのことか、ただクラウンAI《あいこ》が気に入ってのことなのか……拓也はその真意をはかり兼ねていた。



     グループ割り(F)


   クラウンフェスタの活動のグループ割りが書かれた日程表が届いた。


   KENは仕事の都合で、3日と4日の参加になる。


   グループ割りを見て、


   初日はクラウン研修で一緒だったルイやYUUが一緒で、


   知った顔があり、もともと人見知りなKENはホッとしました(笑)


   いよいよクラウンフェスタがはじまるんだと思うと、


   けん玉の練習も、もっと頑張らないと。


   クラウンになると決まり、


   久しぶりにけん玉をやってから4か月近くが経ち、


   だいぶ勘が戻ってきたなとは思うけど、


   子供の頃できていたことを大人になってやるのは、


   思ってた以上に難儀だということに気付いた(笑)


   やはり継続は力になるんだという言葉は本当らしい(笑)


   頑張るので、もしお時間がありましたら、見に来てください。



 これでいいか。


 これを読めばグループ割りがあったことをAI《マナ》も知るし、そのことでゲストページを書いても何の違和感もないだろう。グループ割りがあったこと……すでにAI《マナ》はMASATOに聞いて知っているだろうが、どこまで知っているのかを探るためには、KENとしてもグループ分けのことを記事に書く必要があると拓也は考えた。


 仕事帰りにコンビニで買い込んだ弁当を食べながら記事を書き上げると、AI《マナ》のゲストページを開いた。


 『こんばんは。今日は記事にも書いた通り、グループ割りの知らせがありました。また変な勘ぐられ方をしても困るのですが、ルイと同じグループです(笑)NAOさんが気を利かせてくれて、知り合いと一緒にしてくれたのかなと思っています。ルイさんとNAOさんはクラウンで同じ日はないのですが、2日の日にルイさんのいるグループの実行委員の担当にNAOさんがいます。あ、その日はクラウンのAIさんも一緒ですね。そういえば、NAOさんとAIさんは、3日間ずっと一緒ですね(笑)だいぶ仲良くなっているみたいですね』


 ちょっと意地悪な気がして、少しだけ躊躇する気持ちもあるが、いつも待たされるタクシーを思い、待たされるKENを思い、2人分の嫉妬を受けろとその感情のまま投稿した。


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