第126話目 交流91

 すぐに根掘り葉掘り聞いてはいけない気がした。


 この記事を書くのに、直人はどんな想いだったのか想像はつく。昨夜、あれから書き込んでくれたゲストページを読んで、それからこの記事を読むと、直人に起こったことはなんとなく想像がつく。その別れた人が結婚をするということなのだろう。


 この直人の記事を読んで、愛美は直人の心の中にはずっとこの女性がいたであろうこと、忘れようと必死に愛美に寄り添おうとしてたことを知り、直人を愛おしく思う気持ちと、その心にいる女性に激しく嫉妬をした。直人の心を掴んだままでいることを羨ましく思う反面、どうして直人にこんな想いをさせてしまったんだという恨む気持ちがそこにあり、どうしたら直人の心を救えるのか考えた。


 『直人さん、おかえり。昨夜は独り言の書き込みをしてくれて、ありがとう。アボカドにそんな辛い思い出があったのに、私のアボカドの記事にコメントしてくれたり、成長を喜んでくれていたことを知り、直人さんの心の大きさを知り、感動をしています。ブログって、言葉だけのやり取りだけど、その言葉の中から相手がどんな心でいるのか想像できることがありますよね。文章の中で、攻撃性を感じたり批判的や否定的とか、そういうことも感じるときがあって、でもそれも書き方次第で伝わり方って全然変わると思うんです。直人さんの言葉からは寂しさや悲しさとか、そういうこと感じることが何度かあったんだけど、それでもいつも私を包み込んでくれようとする温かい心を感じていました。それは読み手である私の心が影響している場合もあるんだと思うけど、上手く言えないけど、私が直人さんを受け入れる気持ちが根っこにあって、直人さんのなかにもそういうものがあって、……そういうことかなって思っています。ん?そういうことって?って、聞きます?(笑)』


 『愛さん。今ね、愛さんの言葉を読んで、泣きたい直人は抑えていた感情が膨れ上がって、涙が出てしまいました。こんなこと、今までなかったのに。愛さん、愛さんは自分の心が温かいって言ってくれるけど、本当に温かい心を持っているのは愛さんのほうだよ。愛さんに、好きをいっぱい伝えてきた自分に、他の女性のことでこんな記事を書いてる自分に、それでも愛さんはこんな自分を温かく包み込んでくれようとする。愛さんがいてくれてよかった。愛さんに出会えてよかった。神様は必要な時に必要なものを用意してくれているものだなんて言葉を聞いたことがあるけど、今ね、それを実感しています。どうしようもない心を抱えた時に愛さんと知り合い、どうしようもない自分の心を愛さんが受け止めてくれる。愛さんがいなかったら、もっと自暴自棄になっていただろうって思うんだ。もう、心の中は愛さんでいっぱいだったはずなのに、心に沈んでいた澱が、心が波立った瞬間、ちょっとだけ浮き上がっただけなんだ。すぐに気持ちを鎮められるよ。愛さんがいるから』


 昨夜直人が入れたゲストページにコメントを入れると、待っていたかのように直人のコメントが入った。それを読んだ愛美は、愛を想う直人の気持ちを感じつつ、KENから聞かされた、クラウンのAIと2人で出かけているという言葉が頭をかすめ、直人の心をはかり兼ねる部分があり、戸惑った。


 直人の心を信じよう。そう思う気持ちを意識して持つようにしないと不安でいっぱいになってしまう。


 『直人さん。話してくれてありがとう。そうして話してくれることで、直人さんへの信頼って強くなっていくんだよ。顔が見えない。表情が見えない。声も、その音が聴こえない。音が聴こえないから嬉しいも悲しいも、好きも……その大きさをはかり兼ねる部分があって、繋がる文章から読み取る部分もあるんだけれど、だからこそちゃんと話してくれるってことが大事なのかなって思います。……辛い想いをしちゃったんだね。どうしたらその辛さを癒してあげられるんだろう?直人さんがその女性に向けていた想いが強くて、私はその女性が羨ましくてしかたがありません。そんなふうに、誰かに愛されてみたいです……』


 『文章を書く時、余白を入れたり……を入れたりして、そこには書き手の隠れた心の部分が、言葉にできないものが隠れていると思っていてね、その書かれていない想いみたいなものに想いを馳せてみるって、大事なことかなと思っています。愛さんが言葉にしない部分に、自分はいつも自分に都合いいように受け取っています(笑)愛さんの言葉を読んでいると、自分の気持ちが愛さんに向いていることを実感してしまいます。過ぎた過去にいつまでも囚われていてはダメですね。思いがけずその相手と顔を合わせたときに結婚の話を耳にして、動揺してしまいました。自分、まだまだです(笑)』


 その相手と顔を……相手って、その女性の彼と顔を合わせたってことだよね。それはさすがに動揺するね。


 その時の直人の気持ちを想い、なんとも切ない気持ちに襲われた。


 でも、そんな気持ちの反面、直人がその女性と別れて、本当によかった。そう思った。


 その夜は、直人はずっとパソコンの向こうにいて、会話するようにすぐに返事が入ったため、直人とのやり取りの途中に入ったKENからのゲストページに返事を入れないままだった。もう時間も遅いし、返事を入れても読まれないかもしれないと思ったが、返事を入れた。他のゲストたちなら返事が明日でもいいやと思うが、KENが坂本拓也だと思うと、やはり返事を入れておこうと思った。それに、KENから入る情報は多ければ多いほどいい。


 『KENさん、返事遅くなってごめんなさい。KENさん、ルイさんとランチしたんですね。いい出会いできたようですね。でもそうですか、ルイさんもNAOさんのことが気になっていたんですね。でもルイさんはNAOさんと2人では出かけたことがないって……複雑な心境でしょうね。でもルイさん、こんなふうにKENさんとも交流があるって、NAOさんが気になるって感情だって、そこから膨れなければ萎むだけでしょうから、KENさんにそんなに連絡くれるんだから、もしかしたら上手くいくかもしれませんよ(笑)』

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