　日曜のワークショップは、クラウンフェスタに参加するクラウンたちが、入れ替わるように顔を出していた。そのほとんどが、自分が考えた衣装の図案を持ち、事務局がクラウン名やその背景に沿ったものであるかの確認をし、ＯＫを出される者と、直しが入る者などがおり、賑わっていた。

　竹花愛子がやってきたのは昼を過ぎた頃で、ショップの片隅で衣装の図案を書いたり、知り合いのクラウンが来るたびに、何やら親し気に会話を楽しんでいた。その様子を目で追いながら、いつも柔らかな笑顔を皆に向けている竹花愛子と長い時間そこにいてやり取りをしている中山瑠衣が目に入った。研修で意気投合した２人は、どうやら毎日のようにラインでも交流を持っているようだ。その姿を眺めているうちに、もしやこれは２人で一緒にご飯でも行こうかとか、一緒に帰りましょうとか、そんな話の流れになるのではないかと、落ち着かない気持ちでいた。

「ＮＡＯさーん、お願いします」

　瑠衣に呼ばれ、２人のところに行くと、瑠衣に２枚の衣装が描かれた用紙を見せられた。

「ルイさん、ケンさんとお会いしたんですね。このケンさんの衣装いいですね。これなら即ＯＫが出そうだ」

「昨日、図書館のボランティアに行ってたんです。そこで今日、ここに来ることを話してて、ケンさんも衣装を描いてあるって言うんで、じゃあって、ケンさんの仕事終わりにこれ預かってきたんです」

　そういえばボランティアの話を車でしていたな。すでに行動に移している瑠衣の姿は好感が持てる。本当にフットワークの軽い人だ。まあ、教員にはそういう人が多いのだが。

「ケンさん、絵がお上手ですよね。こんなふうに描けると、衣装も現実味が出ますよね。私の絵……これでわかるかしら？って思っちゃいます」

「ＡＩさん、大丈夫大丈夫、絵のこと言ったら私の方が酷いから」

そう言って見せられた瑠衣の絵は、言うほど酷くはないが、拓也の絵が上手すぎて、瑠衣がそう言うのもわかる気がする。瑠衣は坂本拓也の衣装のアイデアが描かれた用紙を眺めながら、はぁ……と、感嘆の溜め息をついた。

「ところでＡＩさん、ＮＡＯさん、今日、このあとご飯ご一緒しませんか？私、車なのでアルコールは無理なんですけど」

　その言葉に、瑠衣に２人で出かけるつもりだったと気付かれないように、いかにも大胆に竹花愛子に目を向け、「ああ、そうですね、どうします？」と声をかけた。こんなふうに返答を任せるみたいな形はマズかったかなと思いつつも、上手く答えてくれないかなという気持ちも心のどこかにあった。

「はい、いいですね。どこに行きましょうか？」

「ＡＩさんは、車？」「いえ、電車です」「じゃあこの近くで……」

そう言いながら、瑠衣は早速スマホで店探しを始めた。ふっと、竹花愛子を見やると、こちらに視線を向けた竹花愛子と視線が絡み、自分に向けられた意味のある笑みに軽く頷いた。

　『愛さん、ただいま。今日はワークショップの後にＭ先生の誕プレ見に行く予定だったのが、急遽クラウンメンバーでご飯に行くことになって、買い物には行けなかったんだ。また来週の土曜に見に行くことになりそうだよ。まあ、物だけ決まったらネットで買うって手もあるけどね(笑)そういえばね、今日はクラウンメンバーの希望でパスタにしたんだけど、愛さんはパスタは何系が好き？自分は今日、クリーム系にしたけど、パスタは基本何でも好きだよ(笑)』

　ＡＩさんも今夜はクリーム系のパスタにしていた。ＡＩさんは外で食べるときはほとんどクリーム系だと言っていた。愛さんがＡＩさんだとしたら、この問いかけにはカマをかけられてると思われるかもしれないが……ええい、聞いてしまえと、書いてしまった。

　『直人さん、おかえり。今日はクラウンメンバーでパスタですか、いいですね。直人さん、クリーム系食べましたか。私もクリーム系のパスタが一番好きですよ。トマト系の方が太らなくていいのかなと思うんですけど、やっぱり食べるときはクリーム系になっちゃうかも。うちは父以外はクリーム系です。父はね、昔ながらのナポリタンが一番って言うんですけどね。そういえばさ、給食ではミートソースだったけど、あれは嘘みたいに美味しかったですよね(笑)』

　クリーム系が好きか……そう、そうだよな。……そう、かな……

　『そうそう、給食のミートソースは美味しかったよね。なんであんなに美味しかったんだろう？なかなかあの味には出会えません(笑)ねぇ、愛さん……ね、愛さん、愛さんは……竹花、愛子さん？

　そこまで書いて、その先が書くことができない。聞けない、聞くのが怖い。

　直人は一度書きかけた一文を消した。

　『そうそう、給食のミートソースは美味しかったよね。なんであんなに美味しかったんだろう？なかなかあの味には出会えません(笑)クラウンといえばね、今日はルイさんとＡＩさんもワークショップに来てくれてね、ルイさんがケンさんの衣装のアイデアを預かってきたんだ。けん玉が上手なケンさん……ブログのＫＥＮさんね、すごく絵が上手なんだよ。ビックリした(笑)ＫＥＮさん、衣装の話とか、その……限定記事なんかで載せてたりするのかな？ＫＥＮさんのブログの表面的に見えるものの中には衣装の話がまだ載ってないよね』