第119話目 交流86 MASATO

「ぐふっ……ゲホッ…ケホッケホッ」


 その一文を読み、飲んでいたビールを吹き出しそうになった直人は、喉の変なところにビールが入り込み、涙目になっていた。


 驚いたな。KENさんもブログをやっていたんだな。しかも愛さんをクラウンAIこと竹花愛子と間違えての訪問で知り合うとは、これもまた不思議な縁か。


 直人はその一文を読み、すぐにKENのブログを訪問しようと、愛のブログに表示されている訪問履歴のKENのボタンを押そうとして、意識せずとも目に映っていた愛の言葉でそのボタンを押すのを止めた。


 KENは、愛との交流は内緒でと、いつかMASATOがKENのブログを訪問して知ることになっても構わないがと書いてあり、そして愛が直人から聞いてクラウンKENの存在や素顔を既に知っていたことをKENは知らないと書いてある。となると、今すぐにMASATOがKENのところに履歴を残すのは、タイミング的にマズイ気がしたのだ。


 直人は落ち着いて愛の書き込みを最初から最後までしっかりと読み、愛の意図を理解した。愛にとっては、KENがブログを訪問して、はじめてその存在を知ったことにしておくべきだと愛は考えている。そうだ、愛さんはそうした心遣いをする人だ。NAOから全部教わっていたなどとKENに話したら、直人の立場が悪くなると考えてのことだろう。MASATOもすぐにKENに気付かないほうがいい。そういうことだ。


 直人は一度ログアウトしてから愛のブログのKENの履歴を押した。こうすればKENのブログにMASATOの履歴は残らないからだ。


 KENのブログは研修の後に始めたばかりで、クラウンをやることになった経緯や研修でのことが書かれており、誰に読まれても特に問題はないことが書かれているように見えた。クラウンの活動について記しておこうということなのだろう。


 『愛さん、KENのこと教えてくれてありがとう。愛さんの言いたいことはわかったよ。愛さん、KENのこと知らなかったことにしておいてくれてありがとう。MASATOもしばらく気付かない振りをしておくよ(笑)今ね、履歴を残さないで見てきたところ(笑)クラウンの活動のことを忘れないように記しているみたいだね。ああやって宣伝して、見てくれた人がクラウンフェスタに来てくれると嬉しいよね。投票にも繋がるかもしれないしね。しかし驚いたな、KENさんもブログを始めるとは、しかもAIさんだと間違えてくるなんてね(笑)クラウンのAIさんも、もしかしたらKENを見つけて……いや、AIで検索してここに辿り着くこともあるかもしれないね』


 竹花愛子がAIで検索して辿り着くのか、ここはクラウンAIのブログではありませんよと、愛さん……竹花愛子がそれを内緒にし続ける……のか。


 直人はまだ確信が持てずにいた。愛さんが竹花愛子ではないかと思う気持ちがまだある。が、愛との交流で、あれ?違う?と思うところもある。が、それをそのどちらにもハッキリ聞くことができずにいる。竹花愛子に、あなたはブログの愛さんですか?と聞いて、もし違っていたら、竹花愛子は自分がそう思われて直人に誘われたと思ってしまうだろうし、それよりなにより、竹花愛子が愛さんだとして、それで直接直人がそう聞いて違うと答えたとしたら……自分は拒否されていることになるんだろう。


 あれこれ考え始めると、どうにも行動に起こせない。結局、愛さんが合図をくれるまで待とう。と、そうなる。


 『直人さん、なるほど!そっか、クラウンAIさんが訪ねてくることもあるかもしれないね。それこそ、KENさんはKENというハンドルネームでクラウンのことを書いているんだし、AIさんがKENさんを見つけたら、履歴にある私のAIというハンドルネームが気になるはずだよね……もしそんなふうにして訪ねてくれたら、なんか楽しいことになりそう。たくさんのクラウンさんと知り合ったら、クラウンフェスタをもっともっと楽しめそう(笑)』


 愛さん。


 愛さんは、やはり竹花愛子ではないのかもしれないな。


 愛との交流をすればするほど、違和感が胸に広がる。愛さんを信じている。なのに、愛さんが竹花愛子ではないのかと思う気持ちは、愛を疑うものでもある……


 愛に返事を書こうとしたとき、ラインに新着が入った。その竹花愛子だ。


 ~お誘いありがとうございます。先程増本さんの奥さん、怜美さんからもラインをいただいて、是非参加させてくださいとお返事したところです。NAOさん、増本さんへのプレゼントはもう用意されてますか?もしまだでしたら、ご一緒させていただけますか?どんなものがいいのか……仲のいいNAOさんにご相談したいのですが~


 9月の増本の誕生日に、サプライズでお祝いしませんかと増本の妻、怜美に連絡をもらったのは、バーベキューのすぐ後だった。そこで怜美は、竹花さんも一緒にと言ってきた。怜美なりに気を使ってくれたのだと思う。増本が竹花愛子のことを妻の怜美にどう伝えたのか想像がつく話だ。


 プレゼントをご一緒に……その言葉に自分の顔がほころんだことに気付いた。この感情はなんだ……


 ~AIさん、参加を了承してくれて嬉しいです。プレゼントは自分もまだ準備できていません。何がいいかなぁ……やっぱ海関係かな?AIさん、週末のワークショップに顔を出せますか?もしその日でよければ、自分、ワークショップにいるので終わったあとにお店を回りますか?~


 ご飯でも一緒にと、そう書こうともしたがやめておいた。が、この流れで、じゃあ一緒にということになれば、自然と夕食もとなるのだろうが、言葉にはしなかった。……いや、言葉にしたほうがいいのだろうか?愛かもしれないし、違うかもしれないと思うと、塔子にしていたような積極的に動くことができないでいる。


 ~週末のワークショップにも参加させていただきます。まだまだクラウンとして学べることがありそうですもんね。あと、メイクのことも衣装のことも、相談に乗っていただきたいです。増本さんへのプレゼント、私も考えてみますね。海関係のことはNAOさんにお任せします。私はそれ以外で何か考えてみますね~


 愛さんに返事を書かなければ。愛さんに……なぜか、そう思った。


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