第117話目 ブロガー14
「よっしゃー!」
拓也はベットの中でスマホ片手にガッツポーズをした。
水族館に行った翌日、KENとして新たに始めたブログだが、数日間コメントも入らず、考えてみたらタクシーのブログも最初はこんなだったなと、まず自分で行動を起こさねばと、クラウン・ピエロ・違う自分・などの検索をかけ、そこで気になったブログを訪問し、いくつかコメントを残したことで、徐々にコメントが付き始めていた。
その間、履歴の中にAI《マナ》を見つけていた。ちょこちょこKENの履歴を残していたことが功を奏したのだろう。が、いくら経ってもAI《マナ》から書き込みをされることがなく、やはり何かこちらから行動を起こさねばと、拓也は考えを巡らせていた。そこで、竹花愛子には申し訳けない気もしたが、竹花愛子のクラウン名AIを使わせてもらうことにした。AI《マナ》に対して、あなたはクラウンAIですか?と。
その晩も、返事が入ることなく時間だけが過ぎていき、その間、拓也はタクシーとしてAI《マナ》にも書き込みをしたし、ゲストたちのブログを回って時間を潰していた。
いよいよいつもの就寝時間が過ぎ、それでももしかしたらという気持ちが消えず、どうせ明日行けば明後日は仕事が休みだ。その気持ちも手伝って、いつもよりだいぶ夜ふかしになっていた。
いよいよ寝るかという気持ちになり、これで最後とAI《マナ》のブログを見ると、KENへの返事が目に入った。
自分はクラウンAIではないという書き込みだ。そんなことはわかっているさ。そこを足掛かりにKENとしてAI《マナ》と交流することが目的なのだ。そこで登録させてくださいと返事を送り、AI《マナ》からも同様の返事が入ったことを目にし、思わずガッツポーズが出た。これで明日からKENとしても書き込みをすることができ、タクシーとしても書き込みができ、その両方でそのどちらかしか知ることができないAI《マナ》を知ることができる、MASATOもやっているクラウンのKENとして、もっと近づくことができるのではないかと期待する心が逸った。
明日はどんな書き込みをしようか。そうだ、記事でもAI《マナ》の気を引くようなことを書かなければと、AI《マナ》がファンになったことで、ファンしか読めない限定の記事を書くことができる。拓也はそんなワクワクした気持ちのまま眠りに落ちた。
違う自分(F)
恥ずかしながら、知り合いから聞いたことで、
クラウンというものの存在を知り、
前記事に書いたように、ピエロというものは知っていたのだが、
それがクラウンというものだと知ったのは知人の話からだった。
ピエロというものは、一人のクラウンの名前だということだ。
そんなわけで、わたくしクラウンのケンです(笑)
ピエロみたいに有名になることは一生ないけれど、
ケンというクラウンがいることを知ってくれる人ができたらいいなと。
そんなクラウンというものがいると知っても、
じゃあ自分も……と、
今までの自分だったら考えもしなかっただろう。
まず、とっかかりというものがないのだ。
が、その地人の知り合いにクラウンがいると聞き、興味を持った。
そんなわけで、クラウンのワークショップに顔を出した。
するとどうだろう、
あれよあれよとクラウンになることが決まってしまった。
前記事での研修で、はじめて自分の顔にメイクというものをした。
するとどうしたことだろう?……面白いのだ。
自分の顔を自分じゃないものに仕立て上げる楽しさ。
そんなものに目覚めてしまった感がある。
クラウンフェスタ本番に、
どんなメイクにするのかまだ決めていませんが
とりあえずこれ、見てください。
公開記事で載せるのはちょっと恥ずかしいので、限定にします。
そう記事を書いて、研修でしたメイク顔を添付した。かなり塗りたくった感じで、坂本拓也感はキッチリ消せたと思うが、あまり大きな写真にはせず、載せた。
するとどうだろう。ほどなくしてAI《マナ》から返事が入った。
『素顔を隠すと違う自分になれるって、わかる気がします。よく、本当の私は……なんて言葉を目にしますが、その本当の私と言ってる自分と、何が違うんだろう?と思います。そのどちらも自分でしょと思うのですが、消極的な性格で、それをなかなか直せずにいるところに、クラウンのメイクで表に出る。そしたら、もしかしたら積極的ということに挑戦できるかもしれないと思うと、そういうアイテムを使ってみるのも、隠れていた自分を出せるかもしれませんね』
それを読み、もうブログ開けているんだなと、タクシーのアカウントでAI《マナ》のブログに行くも、内緒で入れたタクシーへの返事は書かれていない。それを目にして、なんともいえぬモヤモヤが湧き上がったが、拓也はKENのブログに戻り、AI《マナ》のコメントに返事を入れた。
『AIさん、コメントありがとうございます。そうですね、隠している自分を出すためのアイテムという考え方、いいですね。わたしもそのアイテムで自分から人に話しかけて行こうと思います。……と、話してみるは変でした。クラウンは言葉を発してはいけないのでした。身振り手振りでクラウンを観に集まってくれた人たちにちょっかい出してみます。AIさんがどこにお住まいかわからないのですが、もしお近くならクラウンフェスタに来てください(笑)』
これでいいか。
やはりクラウンの記事への食いつきはいいようだ。それもMASATOの存在がそうさせているのだろうと思うと面白くないが、でも……こうして言葉を交わしてくれるのは、素直に嬉しい。拓也はKENとして、AI《マナ》のゲストページに書き込みをすることにした。そちらへの返事のほうがタクシーより早く入る気がしたのだ。
『AIさん、記事へのコメントありがとうございました。まず先にお詫びをしておきます。ゲストページへの書き込みを内緒にすることをお許しください。あの、気付いてしまったのですが、こちらにMASATOさんというゲストさんがいますが、MASATOさんはNAOさんですよね……いえ、NAOさんに自分のブログを知られるのは全然問題ないのですが、他の方との交流を読まれるのは少しばかり抵抗があるというか、恥ずかしいというか……そんなわけで、基本的にはこちらへの書き込みは内緒にさせてもらいたいのです。こうしたところにも、元々の内向的な性格が出ているかと思うのですが、今、自分改造中だと思って、お許しください』
これでいい。KENがマナも知る坂本拓也だといつか知る日がくるかもしれないが、それは今じゃない。今は、クラウンケンとしてマナではないAI《マナ》と交流をしたい。その気持ちだけだった。
すでにKENが坂本拓也だろいうことを愛美が知っているとは、拓也は夢にも思ってもいなかったのだった。
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