第114話目 ブロガー13
結局、昨夜はAI《マナ》からの書き込みはなかった。AI《マナ》はMASATOとは言葉を交わしたのだろう。ゲストページに表示されるNEWがそれを示している。
拓也は仕事の間中、悩んでいた。クラウンになることを記事に書こうかどうか……AI《マナ》はこの話に食いついてくることは間違いないだろう。だが……
拓也のブログは外ランチの記事を載せるようになってから訪問が増え、明らかに同県民と思われるブロガーとの付き合いも増え、そんな中にクラウンになる、クラウンフェスタに出るなんてことを書けば、いずれ自分がどこの誰なのかを突き止められることもあるかもしれない。もちろん、ブログで書いていることも、どこの誰なのかがわかってもたいして問題はないのだけれど、万が一何かのトラブルに巻き込まれるようなことがあると面倒だ。そう思って、匿名性を大事にしていた。が、AI《マナ》ともっと話をするためには、クラウンになる話題はもってこいなのだが。
「あっ」
「えっ?」
「あっ、いや、失礼しました。ちょっと紙芝居のことで考え事してて」
いい思い付きに、つい声が出てしまい誤魔化した。
そうだ、なにもタクシーのブログの中でクラウンの話をする必要などないのだ。新しく、ケンとしてブログを始めればいい。ブログは一つしかしてはいけないという決まりがあるわけでもないのだし。
その思い付きから、拓也は仕事中も今夜始めるケンとしてのブログにどんなことを書こうか、どんなふうにして、ブログで新たにAI《マナ》と知り合えばいいのか頭を巡らせた。
ブログはじめます
今年、クラウンをやることになりました。
その活動について書き記しておこうと思います。
クラウンになるきっかけは、
知り合いがクラウンをやっていて、誘われました。
まず、ワークショップでクラウンの体験をするところから始め、
それから、11月にあるクラウンフェスタに出場するため、
2泊3日の研修を受けたところです。
自分、インドア派で外で何かをするという経験が少なく、
クラウンは一般的には「ピエロ」と呼称されるもので、
要するに、顔にはメイクが施されているのだ。
顔見知りの自分には、もってこいの姿かもしれない。
そんなわけで、自分にちょっとした変化をもたらせるためにも、
やってみるか……となったのである。
自分だけど自分じゃない、違う自分になるために。
これでいいか。
拓也は誰に読まれても問題ないように、タクシーの要素は取り外して記事を作成した。
新たに『KEN』としてブログを始めたが、ここからいきなりAI《マナ》のところに行くというのも変だ。何かしらのきっかけが必要なのだ。が、どうしたものか……
何かこちらからアクションを起こすとしても、AI《マナ》のブログの記事で表面上で読めるものは、ほとんど読書の感想なのだ。そこに感想を書くのは簡単だ。そのほとんどは自分も読んだものなんだし、タクシーとして書いていることを少し変えればいい。が、いきなり始めた日に行くのもな……そこに出入りするMASATOが万が一にもKENのブログを訪れたら、KENが拓也だというのもバレる。まあ、それは最終目的に一番近道なのかもしれないが。
さてどうしたものか……
しばらくKENのブログで悩んだ拓也は、とりあえずAI《マナ》のブログへ履歴を残すことにした。AI《マナ》がそこから訪問してくれるのが一番なのだが、期待はせず待つことにした。
拓也はもう一つ、タクシーのブログを開くと、下書きに書き溜めたランチ記事をUPして、いつもコメントを書き込んでくれるゲストたちを一通り訪問してコメントを残すと、AI《マナ》のブログを開いた。昨夜はとうとう返事をもらえずにいたタクシーは、もしかしたら今夜は返事を書いてくれているのではないかと期待しつつ、返事がない現実から少しでも目を背けたくて、AI《マナ》のブログを一番最後に訪問したのだった。
『タクシーさん、こんばんは。新たな情報をありがとうございました。黒井さんの新作、もうすぐ出るんですね。すごい楽しみです。前回の「粛清のその向こう」すごく考えさせられる内容で、読んでいて怖さをすごく感じたんですけど……だからこそ、また読んでみたいです。また面白そうな本があったら教えてくださいね』
ああ、今夜は書き込んでくれたんだな。と、やはり心はホッとし、嬉しい気持ちがこみあげてきた。MASATOの対する嫉妬はもちろんある。大きくなり過ぎるほどに。けれど、やはりAI《マナ》の返事を目にすると、まだタクシーを気にかけていることがわかり安心する。嬉しい。
マナ、KENのブログにも来てくれないかな……
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