第101話目 交流74 MASATO

 気が向いたら……か。誘いに乗ってくれるといいな。愛だと名乗ってもらえなくても、同じ空間を共感してもらえるだけでいいし、そういうことを繰り返していつかは名乗ってもらえたら……


 直人は実行委員にならないかという話があったとき、真っ先に愛のことを考えた。いつでも自分に会いに来られるように、愛だと名乗らなくても自分に会いに来られるように。クラウンフェスタの話をして、その時に会いに来てもらえたらと思っていたが、実行委員になりワークショップにもいるようになれば、愛はそれだけ直人に会いに来やすくなる。こちらから会いに行くことができないのだから、愛のほうから会う気になってくれなければ、2人が出会うことなどできないのだから。


 『もちろん、愛さんが名乗ってくれなくてもいいですよ。逆に名乗ってもらえなくて知り合いになっていくというのもいいですね(笑)いつでもお待ちしています。それから実行委員になってもNAOとしてフェスタには参加できますよ。もちろん裏方の仕事もあって、フェスタ中の毎日はNAOになれないかもしれませんが、できるだけフェスタの間中はNAOになれるように、事前の他の仕事に回してもらうようにしようかと思っているよ。その一つにね、新人さんの研修に参加することになっているよ。お盆休みの頃なんだけどね、2泊3日の研修になるんだ。新しく仲間に入る人たちとひと足先に出会えるし、新人さんたちがどんなクラウンになるのか楽しみでもあるよ』


 坂本美和がその仲間に入るということは敢えて書かなかった。Sさんも一緒だよと書くと、また愛さんが嫉妬するかもしれないと思ったからだ。そうした感情を敢えて抱かせる必要などない。最初の頃はそんな焼きもちが嬉しくもあったが、こうして書く言葉でしか繋がれない今は、もう余計な感情は邪魔なだけだ。愛さんの気持ちは伝わってくるし、自分の想いも必要なだけ伝え続けることが出来る。


 『そっか、じゃあクラウンフェスタではNAOさんにもちゃんと会えるんだね。楽しみ(笑)いっぱい歩いてNAOさんを探すね(笑)それと、泊りでの研修があるんだね。直人さんも新人のときには参加したんだったね。泊りで3日間も一緒に研修してたら親睦も湧きそうだし、結束も強くなりそう。でもさ、それって毎年やってるんでしょ?クラウンさんが大勢になって、街中まちじゅうクラウンさんだらけにならない?(笑)』


 そうか、そう聞くとそう思うよな。毎年クラウンをやりたい人を募集して研修をやってると、、それなりの人数になっていると思うものだろう。


 そんな自然な愛の感想も、なんだか新鮮だ。慣れすぎるのも考えものだな。その立場から見てしまうから、こうした素人目線も時には必要だ。いつも愛さんは自分に気付きをくれる。何の気なしに聞いてくれること、話してくれること、そうしたところから気づかされることがあるのは、それが愛さんだからだろう。愛さんは、ちゃんと話を聞いてくれている。これは簡単なようでそうでもないときもある。人と話しとぃるとき、軽く聞き流すなんてこともままあることだ。どんなに大切なことを聞いていたとしても、「そこ」だけを受け取っておくことは瞬間瞬間であったとしても、深く掘り下げるなんてことは、そうはしない。話を聞き、それを意識して自分の中に取り込む。そんな簡単で難しいことを愛さんから教わっているようにさえ思うほどだ。


 『街中まちじゅうがクラウンだらけか……それはそれで面白いし楽しそうだね。そんな1日があってもいいように思うよ(笑)でもね、クラウンっていうのも毎年できる人とそうでない人といてね、そうだな、結婚して新しい生活の中で難しくなったり、家族の予定でできないことがあったり、その日が仕事になってしまう人だっているよね。だからそのフェスタ期間の1日だけ参加できるとか、2日間だけとか、平日だけとかね、人によって参加条件があって、それを組み合わせて一定の数のクラウンが街に出没するようにしているわけさ。その日程を組んだりするのも実行委員の役目ってわけさ。NAOだって平日にクラウンになるのは難しいからね』


 『あっ、そっか。じゃあクラウンさんの数はある程度いたほうが組み合わせもし易いってことだね。直人さんは、その研修で新しいクラウンさんのデビューに立ち会えるってことだね。楽しみだね。あのさ、メイク……みんなわりと同じようになったりしない?そんなにバリエーションって、ないんでしょ?』


「ふっ」と、笑みがこぼれた。


そうきましたか。でもそうだな、素人目線だとそう思うだろうな。


 『それが違うんだなあ(笑)メイクもそれぞれの個性が出るものだよ。クラウンもね、一応なんていうか、自分で役割を決めて創り上げることがほとんどで、NAOの場合は保安官だからさ、保安官らしく……といっても、あくまでも直人の主観で創り上げているんだけどね、一応、テキサスの保安官のつもりなんだ。衣装もそうだけど、メイクでもそう思ってもらええるようにしているつもりだよ。トランプ君の顔、覚えてる?目を中心に目の周辺に星に見えるように描いてるでしょ?あとね、目を中心にするんじゃなくて、目じりに星を書いたり、恋する乙女というクラウンさんは、毎回顔の違う場所にハートを描いてることもあるんだよ。まあこれは毎日のように見てるから気付くだけで、その日に見ただけの人には気づかれないことだけどね。そんなわけで、去年、記念に撮ったその日の全員が写った写真をゲストページに届けるよ。見てみて。それとね、NAOも少しずつ変えているんだ。ここ3年ほどのやつも載せるよ』

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