第100話目 交流73 

 『愛さん、こんばんは。今日はね、どうしても気になっていたから、初日からいきなり感はあるけど、市役所へ見に行ってきちゃいました(笑)大きなパネルで観る自分は……あ、いや、NAOは、自分で言うのも変だけど、いい顔してました(笑)愛さんにも、是非観て欲しいです。それとね、この話をすると、またその人の話題?って感じなんだけどね、驚いたことにTさんを見かけたんだ。しかもね、どうもNAOを見つけて観てたんじゃないかなって思う位置でね(笑)あっ、と思ってTさんたちが帰るまでロビーには行けなかったよ。休日に学校以外で顔を合わせるのは避けたいしね』


 うそっ。真崎先生、いたの?どこに?全然気づかなかった。市役所に着いたとき、まさかねと思いながらも、止まっている車に視線を巡らせたけれど真崎先生の車はなかったと思う。帰りにも見渡してみたけど気付かなかった。でも駐車場は広いし見えない場所もあるし、美菜も一緒だったから、さすがに全部の車を見て確認したわけじゃなし……まさか同じ時間帯にそこにいるなんて、もしかしたらと思いつつも、本当にいるとは思ってもみなかった。


 愛美はジメっとした空気の中で、それだけでは到底感じることのない暑さを感じ、ティッシュペーパーを一枚取りおでこに当てた。変な汗を感じ、落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせながら、展示会場での自分の行動を思い返した。


 市役所のロビーでは、美菜とその友達の写真を観て写真を撮り、NAOが写っている以外の入選写真2枚をささっと写し、それから心を整えてNAOの写真を観て写真を撮り、しばらくそこで立ち止まって、そこにいるNAOの姿を目に焼き付けて……そうだ、そこで坂本と会って話をした。真崎先生はその様子もどこかで目にしていたということだ。坂本と話しているところを見て、真崎先生はなんと思っただろう?もしかしたら男と一緒に観に来たと思われはしなかっただろうか?あ、でも帰りは坂本が先に出て、自分は美菜と2人で出たのだからそれはないだろう。落ち着け落ち着け……


 以前、ディズニーで自分たちを見かけた話を聞いたときもドキリとしたが、それとは違い、こうしてやり取りをするようになってからで、しかも周りに多くの人がいるわけでもない生活圏内でもある場所で自分が見かけられたというのは、なんとも居心地の悪さを感じた。というか、いっそバッタリ会って言葉でも交わせたら、色々取り繕うこともできたのに。と、取り繕うって、何を?自分に問いかけて、愛美はますます混乱していた。それより私、今日、どんな格好だっけ?色々なことが頭の中がグルグル巡っていた。


 『直人さん、こんばんは。今日、写真展を見てきたんですね。写真はパネルですか……じゃあ、すごく大きい写真なんですね。私も観るのが楽しみだなぁ(笑)それと、Tさんも写真展を観に来てたんですね。すごい偶然ですね。誰かお知り合いでも入賞してたんでしょうか?そこでNAOさんを見つけて……って、そのSさんの写真を観て、病院で見た人だって気付いたんじゃないですか?もしかしたらそれが先生だって、気付いたかもしれませんね(笑)どうなんでしょう?気になりますね。それにしてもそんなところでもバッタリ会ってTさんに気付くなんて、直人さん……意識しちゃいません?(笑)』


 愛美は、愛が今日は写真展を観に行っていないと思えるような書き込みにした。同じ日に写真展に行ったのは、あくまでも寺井愛美で、愛は行っていない。その現実が今は必要な気がした。そうしておいて、敢えて寺井愛美がNAOの正体に気付いたかもしれないと問いかけた。こうしておけば、真崎先生の中で愛と寺井愛美が同一人物ではないと刷り込めるはずだ。月曜に真崎先生と、それこそ校舎内のどこかでバッタリを装って顔を合わせてみよう。そんなふうにして探りを入れてみようと思っていた。


 『Tさん、気付いたかな……大丈夫だと思うけど、少し気にしているようにするよ。それとね、もう一つ報告があって、実はね、クラウンフェスタがある話をしたでしょ?NAOはね、大学を卒業してから毎年参加していて、そこの実行委員の上層部の人たちとも交流が続いてて、今回ね、その実行委員の一人にならないかって話があって、それを受けることにしたんだ。その関係で、ワークショップにも指導するほうで入ることになりそうなんだ。もちろん平日の活動には参加できないんだけど、休日には行ける日もあると思うんだ。愛さん、よかったら遊びに来てね(笑)気が向いたらでいいし、愛ですなんて言わなくてもいいんだからさ』


 実行委員か。直人さんはいろんなことに興味を持って、新しいことにもどんどん挑戦していくよな……そういうところ、見習いたいなと心から思う。


 ワークショップにも遊びに来て……か。行かないな。いや、行けない。寺井愛美として、そういうことに興味がありますみたいな顔をして訪ねることはできるが、やはり危険が伴う。あまりに近くに行き過ぎるのは避けたい。それに、直人が求める愛は、愛美ではないのだから。


 愛美は自分の休日の過ごし方や性格から自分はインドア派なのは間違いないと自負しているし、それを変えようとは思ったことがない。が、こうして直人が新しいことに挑戦していく姿は羨ましく思うし、人生楽しんでいるなと思う。そしてそうなれたらいいなと思う反面、自分にはできないかなと思う気持ちがある。だからこんな話を聞かされるたび、自分には見えない、見ることがない世界を見せてもらえていることが嬉しくも思う。


 『実行委員になるんですか?仕事をしながらそういう活動までやるなんて、大変になりませんか?時間がある時にだけ参加できるなら大丈夫なのかな?なんにしても、身体に無理がないようにしてくださいね。ワークショップね……愛ですって言わないで覗いてみるのもいいかも(笑)気が向いたらね(笑)実行委員って、他にどんな仕事をするんですか?あっ……もしかしたらクラウンフェスタの実行委員っていったら裏方さんになるってことですよね?じゃあNAOさんは街中まちなかには出なくなるんですか?』

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