第77話目 交流58


 『AIさん、ただいま。明日はいよいよクリニクラウンの活動に行きます。今日はね、仕事から帰ってきてからいくつかバルーンアートを作ってみたんだ。毎日作ったりするものではないから、ちょっとだけ練習しています。当日にスムーズにいくようにね。どう?可愛くできたかな?子供たちが喜んでくれると思いますか?』


 そのMASATOの書き込みと一緒に、一枚の写真がゲストページに載せられていた。それは黄色いキリンに薄い茶色のマジックで模様を描いたもので、ひと目でキリンとわかるものだった。


 MASATOは最近、こんなふうにゲストページに写真を載せてくれるようになっていた。これならば愛美だけに見せたい写真も見せられると言い、そんな2人だけのやり取りに、愛美は特別感が更に増していたし、その方法もMASATOに教えてもらい、愛美も記事には載せない写真をいくつかMASATOのゲストページに載せるようになっていた。


 『MASATOさん、おかえりなさい。これは、キリンですね。すっごい可愛い。こんなふうに模様をつけると、本当にちゃんとしたキリンだし、間違いようがないね。ところでNAOさん、明日もこんなふうに模様をつけるんですか?』


 『そうそう、問題はそこなんだよ……風船はもちろん模様のない黄色い風船だし、膨らませる前に模様を書いておくなんて至難の業だし、膨らませて「ちょっと待ってね」って描くのもなんか変だし……でもまあ、模様がなくてもこれだけ首を長くすれば、キリンってわかるかな(笑)』


 『そうですね、これだけ首が長ければ、間違いなくキリン……ですね(笑)明日の準備も万端のようですね。そういえば、家からクラウンの姿で行くわけじゃないんでしょ?あのメイクと衣装で運転してたら赤信号で止まった時、隣の車の人とか歩行者とか、ギョッとしちゃうでしょ?(笑)』


 『そりゃあそうだよ。あっ、でもどうかな……GWだから、それこそ何かのイベント?って思ってもらえるかもしれないね。明日はね、11時頃には病院に着くように行くよ。会議室で着替えてメイクをさせてもらいます。それからもう一度流れを確認して、本番という感じです。AIさんの明日のご予定は?』


 『私ですか?そうですね、明日は……考えてませんでした(笑)というか、特に予定はないので、最近ちょっとできてなかったので、お菓子でも作ろうかなって思っています。なんとなくプリンの気分なので、プリンを作ってフルーツでデコレーションして食べようかなと(笑)生クリームもたっぷり乗せてね(笑)』


 『わぁ……いいなぁ、プリン食べたくなりました!!こりゃ明日の帰りはコンビニでプリンかな(笑)AIさんのプリンが食べたいです!(笑)……プリンといえばね、何かと話題をくれるTさんね、彼女もお菓子作りが得意なようですよ。今日、たまたまTさんの担任と話す機会があって、お菓子作りが得意なこと耳にしました。それを聞いて、真っ先にAIさんのことを思い出して、AIさんもお菓子作りが好きだから教えてあげようと思ってね(笑)』


「げっ。増本、真崎先生にそんな話をしてたんだ……なんで私の話題なんか……」


そうか、あの時だな。


 担任の増本とそんな話が出たとすれば、今日の会合の後か職員室で増本と話していたあの時だろう。札幌の美味しいラーメン屋さんを聞き出した時、増本もそこにいたし、もともとサーフィン仲間らしい増本とはフランクに話せる相手なのだろう。


 職員室のあの時、思いがけず真崎先生と視線が合って、ドキッとして目を泳がせたことに気付いて、マズイと思って会釈だけして急いで職員室を出た。が、あの感じだと真崎先生を意識していると気付かれたかもしれない。……でも、だったら……


 『へぇ……Tさんもお菓子作りが得意なんですね。どんなのを作るんだろう?興味あります(笑)お菓子づくりって、ネットや本で調べても同じものでもレシピによって分量が違ったりもするので、何度か作ってみないとわからないことって、あるんです。Tさん、高校生だからこれからそういう方面に進んだりするのかな……私もちゃんと勉強してみればよかったなって思ってるんです』


 真崎先生がどこまで増本に聞いているのか探りを入れた。


 『今日ね、3年生の修学旅行の会合に出席してきたんです。自分、去年行ってるんで、その経験談を話すためにね。その時に、Tさんと話をする機会があってね、その時の話の流れからTさんの担任に聞いたんだけどね、ずっと製菓の専門に進むつもりだったのが、大学進学に志望変更したそうなんです。髪を短く切ったこともあったし、どんな心境の変化があったのかなって、ちょっと気になって職員室で担任と話しているTさんのほうに目が向いていたんです。……あのね、……こんなことAIさんに言っても……な話なんだけれど……』


 ん?なんでここでコメント切れるんだ?しかもこの流れって、……愛美はふわっと来る期待感と不安感の混ざった、なんとも言えないざわつきを感じていた。



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