第64話目 交流46

 待っている時間はとても長く感じる。


 MASATOがパソコンの前にいると思い、ひたすら待ったがMASATOからの書き込みはない。ちょっとした空き時間にブログを開いて、書かれていたコメントに返事を返して、また次の用事に向かったのだろう。MASATOの休日は充実したもののようなので、ダラダラとパソコンの前にいることはないのだろう。


 頭ではわかっていたけれど、それでももしかしたらという気持ちが残り、いつまでもMASATOを待ってしまった。これじゃいけないと、ここ数日で思ったばかりなのに、もしMASATOから何か書き込みがあった時、すぐに返事をしたいという、その気持ちだけで待ってしまった。


 休日の遅めの夕食を終え、入浴を済ませてつけっぱなしのパソコンでブログ画面を開くと、MASATOがいた。この時の感情を言葉で言うと、虚無感だろうか?喜びの感情は大きく、それと比例するくらいの……虚無感。


 そうだった。MASATOは今夜来てくれることがわかっていたのに、何時間も待ってしまった自分の無駄な時間の使い方に自己嫌悪した。が、一瞬んでそんな気持ちも全てなかったかのように、自分の顔に満面の笑みが浮かんだことも愛美はわかっていた。


 『AIさん、こんばんは。今ね、記事を書いたところです。読んでくれた……かな?自分、多趣味なほうだというのはわかっているんですが、そういった自分が楽しむための行為ではなく、人を楽しませること、自分に何ができるかなと考えた時、まあ……ぶっちゃけてしまうと、自分でもこれならできるかなということを、ちょっとだけ学んでみました(笑)』


 記事?


 まだ読んでいなかった。AIのホームのゲストページに新着があり、きっとMASATOだと思い、真っ先にそこを開けたのだ。


 愛美はすぐにMASATOの新しい記事を読みに飛んだ。



     バルーンアート


 こんなもの作ってます(笑)



 そう書かれた言葉の下には、昨夜病院のホームページで目にしたのと同じ形の色が違う、細長い風船で作られた犬と、そりゃそうだよねというような黄色の風船で作ったキリンや白いウサギと、剣や花などが写る写真が何枚かUPされていた。



 クリニクラウンとして、


 子どもたちを楽しませるために自分に何ができるか考えた時、


 これならできるかもしれないなと思い、やってみました。


 はじめて作ったのは、ワークショップに参加した時なんですけど、


 その時にはこれだけじゃなく、ジャグリングやパントマイムにヨーヨー、


 手品みたいなことや、皿回しなんかもやったっけ。


 その中から自分にできそうなことを選んでみました(笑)


 最近では、アレンジを加えたりして、


 自分オリジナル?なものにも挑戦してみたり(笑)



 やっぱりバルーンアートの記事だったな。


 昨夜見つけた写真から想像はしていたけれど、こうして表面でわかる形にしてもらうとその話題も気兼ねなくできるからありがたい。


 その記事には早速コメントが書かれていた。


 『MASATOどの、素晴らしいです。活動は以前から感心していましたが、こんな形で子どもたちから笑顔を引き出しているなんて、MASATOどのには是非とも、小学生を教えていただきたいものです(笑)』


 本当だ。さつきさんの言うように、MASATOが小学校の先生だったら、きっと子どもたちの人気者になるだろう。


 愛美はAIとして、そこにコメントを書こうとしたが、まず先に自分のゲストページの方にコメントを入れることにした。きっとMASATOもそちらにコメントが入ることを待ってくれているだろう。


 『MASATOさん、こんばんは。記事、読んできました。バルーンアートが出来ちゃうんですね。すごいです!あの風船をキュッキュッする音、なんかそれがちょっと怖いです。割れちゃいそうで(笑)それにしてもあのバルーンアートって、あんなにいろんなものが作れちゃうんですね。あの作品って、MASATOさんの部屋にあるんですか?』


 『AIさん、見てくれてありがとうございます。あの作品ね、病院の図書コーナーなんかに置いてあるんだ。あれ、風船だからそのうち絞んじゃうんだけどね、少しの間でも遊んでもらえたらなぁって思っています。そうそう、あのキュッキュッする音、あれが苦手だった人、多いですよね(笑)自分も最初はそうだったので、割れるんじゃないかと不安があったんですけどね、あれ、思い切り捻っちゃえば想像してたより怖くなかったです。何度かやってるうちに慣れてきました。最初は怖がっていた子どもたちも、簡単なものはできるようになった子もいるんですよ。あっ、ところでAIさん……今日、髪を切ってきたんですか?』


 先にゲストページに返事を書いてよかった。やっぱりMASATOは待っていてくれたようで、すぐに返事が入った。これでMASATOにもAIがパソコンの前にいることがわかったし、今夜もMASATOとこのまま会話を続けることが出来る。


 安心した愛美は、MASATOからの返事を待つ間に、昨日書いた記事を今日のことのようにして更新した。


 『はい。髪を切ってきましたよ。今ね、記事をUPしたところです。金蔵さんでラーメンも食べてきましたよ。MASATOさんの言う通りの食べ方をしてみました(笑)初めてのつけ麺、とっても美味しかったです。バルーンアートは図書コーナーにあるんですね。そういえば昨夜話されていたクラウンフェスタですけど、そこでもバルーンアートを作ってるんでしょ?その作品はどうしてるんですか?もしかしたら……見てくださった街の方に差し上げているとか?』


 『あ、はい当たりです(笑)フェスタではストリートで足を止めて観てくださった方に差し上げたりもしています。まあ、だいたいが子供に渡す感じなんですけどね(笑)AIさんがいたらAIさんに渡しますよ(笑)金蔵のラーメン食べてくれたんですね。美味しいって言ってもらえてよかったぁ。食べるものって、人によって好みも違うし、万人が美味しいっていうものって、なかなかないと思っているのでね、AIさんのお口に合っているのならよかったです』


 『欲しいです!MASATOさんの……あっ、NAOさんのバルーンアート私も欲しいです(笑)NAOさんNAOさん、写真で見せてくれたバルーンアートの他にも何かできるんですか?アレンジしてみるって書いてたけど……それと、金蔵のラーメンね、つけ麺も美味しかったけど、あのトロトロのチャーシューもめちゃめちゃ美味しかったです。なので次はチャーシュー麺もいいなって思いました。MASATOさん、チャーシュー麺って食べました?』


 『チャーシュー麺ですか?もちろんですよ。寒い季節にはむしろチャーシュー麺とか辛々麺とかね、そういうほうを食べることが多いです。そちらもお勧めですよ。金蔵のラーメンはね、途中で酢を入れるのも味が変わっていいですよ。バルーンアートはね、犬もいろんな種類がいるでしょ?全ては無理だろうけど、見た目で何かわかるくらいまでは出来たらいいなと思ってやっています。まあ、簡単なのはダックスフントみたいにね、特徴のあるやつかな(笑)あと、猿とか(笑)』


 なるほどね、ダックスフントなら見た目ですぐにわかりそう。猿?なんだか難しそうだけど、MASATOはいろんな動物が作れるといいなと思っているんだろう。なんだか可愛い。


 愛美は昨日話した時の真崎先生の顔を頭に想い描きながら、その声を想い描きながら、MASATOの書く言葉の全てを真崎先生の声に乗せて、自分の耳にその音を響かせていた。



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