第63話目 交流45

 愛美は特に用事のない休日の土曜のほとんどの時間を、読書をして過ごしていた。両親も休日の土曜は、朝はいつもよりもずっと遅く、8時頃からの朝食を終えると、つい最近まで小学生だった美菜はいつもどおり両親のいるリビングでほぼ過ごしており、春休みを終えた愛美は、もうその相手もしなくていいのだ。


 いつもと同じように、アイスコーヒーを持ち込んで、しばらくはパソコンのあるテーブルの前で昨日の続きをひたすら読み、それを読み終えた11時過ぎには、図書館で借りてきていた次の一冊、『ある視線』をベットに転がって読み始めた。


 一冊読み終えたことで、集中力の途切れが睡魔を呼び起こしたのか、いつの間にか眠りに落ちていて、時計は既に14時を過ぎていた。


「あちゃー、3時間近く眠っちゃったんだ」


 昨夜はMASATOとやり取りして、おやすみなさいの挨拶をしたあとも、やり取りを読み返したりしていて、結局ベットに入ったのは午前1時を過ぎてしまっていた。やはり寝不足だったのだろう。


 まだ特に空腹は感じていなかったが、昼の用意もあるだろうからとリビングに下りて行くと、そこには父の和弘がソファで熟睡中だった。


 これは起こしてはいけない、毎日仕事でお疲れのようだなと、そーっとダイニングテーブルまで行くと、過ぎ去ったカレンダーをメモ代わりにした紙に、『冷蔵庫にサンドイッチがあるよ』と書かれていた。


 母と美菜の姿が見えないことから、2人でスーパーにでも行ったのだろう。


 そーっと冷蔵庫からタマゴと、ハムとチーズとキュウリが挟まった2種類のサンドイッチの皿を取り出して、またアイスコーヒーを持ち、自分の部屋へと静かに上がった。


 サンドイッチをひと口食べながら続きを読み始めた。が、本当は目の前にあるパソコンが気になっていた。MASATOは今頃、美容院に行っているのだろうか?もしかしたら、もう帰ってきてパソコンを開けているのではないか。


 いや、今日は夜にはきっとMASATOは来てくれる。昨夜そう書いていたじゃないか。パソコンに、…ブログに囚われてはいけないと、自分に言い聞かせたばかりじゃないか。


 ともすればそこに意識が行ってしまいそうになる自分の意識をそこから逸らすため、サンドイッチの昼食をさっさと食べ終え、ベットに横ばいになった。お腹がいっぱいで、この体勢はよくないな。愛美はお腹が落ち着くまで……と、つい今しがた振り切ったばかりのブログを開いて、読み終えた読書の記事を書くことにした。


 ダメだな。頭ではわかっているし、MASATOはまだいないだろうし、今日は昼間はブログを開かないと、朝、自分で決めたではないか。なのに、やはり気になってしまう。記事を書くという理由を見つけ、これ幸いとブログを開いてしまった。



     提灯祭りの夜に


 『提灯祭り』というものは、多少の名は違えど、


 どこにでもありそうな祭りですね。


 実際、母の実家の辺りでは提灯祭りというものがあり、


 小学生の頃には、白装束を身に纏い、それぞれが提灯を持ち、


 氏子の家の前を提灯の灯りで照らしながら歩き、


 その家々では、その提灯の中から一つ選んでロウソクに火を移し


 祭りの日はその火で線香をたき、ご先祖様に祈りをあげるとか。


 そして氏子の家々を回り終えると、その提灯は神社に届けて


 神主様にお焚き上げをしてもらうとか……


 そんな行事があったと話していたことがありました。



 この本では、そんな暖かなお祭りとはまるで正反対かと思えるような、


 何かの力で人間を選定しているかのような、そんな話で、


 なにやら背筋がゾッとさえするような気持ちになりました。


 ただでさえそんな気持ちになるのに、


 その何かしらの力を、悪意の中で利用しようとするなんて、


 そんなことしたら、罰が当たりそうですよね。


 けれど、それを利用とするのが子供だった場合、


 未熟という名のもとに、赦されてしまうのでしょうか?


 難しい問題ですね。



 つい先ほど読み終えたばかりの『提灯祭りの夜に』の感想を書き上げると、下書きフォルダに入れた。これは明日以降のどこかで記事にすればいい。今夜の記事はもう決まっているのだから。


 記事を書き終え、パソコンを消して読書の続きをしようと思っていたが、その前に……と、自分のホームを開くと、F5キー更新ボタンを押した。


 すると、MASATOのブログに新たなコメントが書かれている表示が現れた。誰だろう?


 愛美はその新しいコメントのついたMASATOの記事へと飛ぶと、そこにはつい先ほど入れたMASATOからの返事が書かれていた。


 MASATOがパソコンの前にいる。もしかしたらAIのブログに書き込みがあるかもしれない。そう思ってしまったが最後、愛美は何度も何度もMASATOから書き込みが入るかもしれないと思い、何度も繰り返しでF5キーを押していた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る