第61話目 交流43
MASATOは、以前目にしたようなクラウンの姿で、後ろ姿の子どもたちの向こうで、こちらを向いて出来上がった犬の姿をしたバルーンアートを子どもたちに見せていた。
ほかの写真に目をやると、ジャグリングをして見せているクラウンや、手品と思われることをしているクラウンもおり、MASATOが見せたいって言っていたことは、もしかしたらこのバルーンアートではないかと当たりをつけた。
「こんなことをして子どもたちを楽しませているんだな」
愛美はMASATOが他にどんなバルーンアートができるのか興味が湧いたが、これを先に見てしまったことは言わないでおこう、MASATOが記事にした時、はじめて見たような顔をして感動しなくちゃと心した。
『そうですね、記事を楽しみにしていてください。自分、趣味がたくさんあるというか、前にも書きましたけど、目にしてやってみたいと思うことについ手を出し過ぎなところがあって、だから長続きしないものもあるんですけどね、その中でもこのクラウンの活動はもう5年になります。大学卒業してから始めたのでね。……おっと、バトンで誤魔化した年齢がバレますね(笑)この活動はできる限り続けていこうと思っています。仲間も増えていっているし、その中からは気の合う仲間もできてね、たまに個人的に飲みに行ったりなんかもしているんですよ。もしAIさんが興味持ってくれて……仲間になってくれたらいいなぁ……なぁんて(笑)』
「マジか」
MASATOのそんな書き込みを目にして、思わずそんな言葉が出た。
興味を持ったところで、仲間になるなんてできるわけがない。まずきっと年齢的にも無理だろう。こういうのは18歳以上とか、そもそも高校生は不可とか、そんな縛りがあるに違いないし、いやいやいや、それ以上にAIがMASATOの前に姿を現すなんてことは、絶対にしてはいけない。AIが誰なのかバレてしまうではないか。
『クラウンに興味ですか?そうですね、興味深いです……けど、私には誰かを楽しませることなんてできないです。お手玉なんかは子供の頃に……
いや、ダメだ、この断り方は出来ない。クラウンが何をして子どもたちを楽しませているかは、まだAIは知らないはずなのだから。
『クリニクラウンに興味ですか?そうですね、興味深いです……けど、私に誰かを楽しませることなんてできるのかしら?これからのMASATOさんの活動をたくさん見せてもらって、それから考えてみようかな。と、今はそんな返事でいいですか?(笑)それから……年齢、なんとなくわかってしまいました(笑)私より、ちょっとだけ上ですよ』
年齢のことは誤魔化した。MASATOさんの方がちょっと上ですよと書くことで、MASATOより年下だということ、妹が学生だということ、そんなことから、きっとMASATOはAIの年齢を20代前半だと捉えてくれるだろう。
ハッキリ書かないことで、嘘ではないと自分に言い聞かせた。MASATOがAIを誠実な人だと思い描く、その人柄に合わせなければ……できるだけ、嘘は書かないようにしないと、嘘になりそうな部分は、わざとハッキリ書かないようにしよう。それでいい。そう自分を納得させた。
『AIさん、ごめんなさい。無理に引き込むようなことはしませんから、もし興味持ってもらえたら、いつか一度……見に来てください。病院には、なかなか来てくださいとは言えないんだけど、年に一度、クラウンフェスタという催しがあります。それはね、全国からクラウンのボランティアが集まって、街の中に出没して街の中の人たちを楽しませるっていうことなんだけど、もちろんね、街の中とは言っても範囲は決められていて、毎年それにも参加しているんです。まだちょっと先で、11月の連休の時なんですけど……』
『そんな催しがあるんですか?わぁ……楽しそう。そこに行けば、MASATOさんに会えるんですね。なんか今からワクワクしてしまいます。まだちょっと先だけど、その日を楽しみにしています』
『クラウンにはね、それぞれ名前がついているんだ。みんな自分で考えてつけるんだけどね、……自分のクラウン名は、NAOだよ。えーっと、なんでNAOなのかって聞かれると、ちょっと上手く説明できないんだけど、その辺りのことについては……いずれまた(笑)AIさん、こんなに遅くまで付き合わせてしまってごめんなさい。もう0時を回ってしまいました。仕事で疲れているでしょう?話ができて嬉しかったです。……明日また、来てもいいですか?』
NAOか。直人のNAOなんだろう。それが分かってしまうことが今は嬉しい。やっぱり……もうわかっていたことだけれど、MASATOは真崎先生で、真崎直人……さんだ。
『クラウン名は、NAOさんですか。じゃあクラウンの話をしているときは、NAOさんって呼んじゃおっかな?(笑)いつの日かNAOさんに会える日を楽しみにしています。私のほうこそ、遅くまでお喋りさせてもらえて楽しかったです。MASATOさんのいろんな顔が見られて嬉しかったです。明日もお待ちしております(笑)おやすみなさい』
会話の流れから、今夜は終わりにしようという合図だなと、そう理解した愛美は、おやすみなさいという言葉を入れた。MASATOからも、すぐにその言葉が入るのだろう。
『AIさん、おやすみなさい』
その言葉がすぐに入り、愛美はしばらく今夜のやり取りを眺めていた。
会える日を楽しみにしていると書いてしまった。が、それでよかったのだろうか?AIは、MASATOに……NAOにAIとして会うことはできないのに。
こうして、AIとMASATOはこれから毎晩のように交流を続けることになった。
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