第55話目 交流37

 愛美は家に帰りつくと、早速パソコンを立ち上げた。当然のことながら、MASATOからの書き込みはない。時間から見て、もう入学式が始まっている頃だろう。



     休日(F)


   今日は髪を切ってきました。


   本当は3月のうちに髪を切って、


   新しい気持ちで4月に向かおうと思っていましたが、


   諸事情により……って、予約が取れなかったってことですけど、


   そんなわけで、今日でした(笑)


   まあ、そうはいってもいつもよりちょっと短くなったってだけですけど。



   そのあと、なんとなくラーメン食べたくなったので、


   暇そうにしていた妹と、ラーメン食べに行ってきました。


   そこで、はじめて「つけ麺」を経験しました。


   つけ麺も美味しかったんですけど、


   柔らかすぎるチャーシューに感動でした(笑)


   今度、チャーシュー麺も食べてみようかな(笑)


 その記事に、金蔵のHPから借りてきた、「つけ麺」の写真を、「お借りしました」と記載してUPし、下書き用のファイルに入れた。昨夜MASATOが行ったお店が、金蔵だったとしたら、きっとすぐにわかるはずだ。


 その後、履歴を残さないよう、MASATOのブログをチェックし、ニコさんからのコメントを見つけて読み、自分のブログに戻り、自分のゲストたちのブログを回ると、それぞれの記事のコメントを自分の下書き用のページに書き込むと、パソコンを消した。


 愛美のブログに対しての時間の使い方が徐々に決まってきていた。無駄にダラダラとパソコンに向かっているのは、自分の精神衛生上よくないと、趣味の読書に集中できない時間でそう感じ、メリハリを付けなければと心していた。が、それはMASATOがパソコンの前にいないとわかっているからだということも、意識下ではそんな自覚もあった。夜はきっと、ずっとMASATOを待ってしまうだろう。だからこそ、MASATOのいない時間は、パソコンから離れようと思っていた。


 パソコンを消すと、図書館から借りていた「提灯祭りの夜」の続きを読み始めた。が、読み始めて5分もすると、瞼が重たくなってきた。お腹はいっぱいだし、朝起きる時間も連休中とは違い、多少ゆっくりめだったのが、日常に戻るためにより早起きをしたし、久しぶりの学校でクラス替えなど多少の緊張感もあったし、思ってた以上に疲れがあったのかもしれない。


「マ…ナ……マーナー……」


 遠くで誰かが自分を呼んでいるようだ……


 愛美は、まだうつらうつらとしていた。閉じた瞼の中で、その呼ぶ声に自分が眠っていたことに気付き始めていた。


「お姉ちゃん!ご飯!」


 ドアが叩かれると同時に開き、無理やり眠りから引き戻された。


「はいはい、すぐ行く」


「もうっ、何回も呼んでいるのに来ないんだから!寝てたでしょ!」


 よほど眠かったらしく、いつの間にかベットで眠っていたらしい。ベットに乗った記憶はないのだけれど。そこで美菜がいきなり部屋に入ってきていたことにそこでようやく気付き、一瞬、『ヤバッ!』と、パソコンを見た。あっ、そうだった、一度消したんだった。美菜に見られなくてよかった。時計は既に18時半を回り、思ってた以上に長く寝てしまったことに自分で唖然とした。


 4月に入り、異動で新しいメンバーが入ったとかで、なんやかんやで遅くなるという父がいない3人の夕食を済ませると、もうMASATOからブログに何か書き込みがあったかもしれないと、その事が気になって、「お風呂に入ってしまいなさいね」という母の言葉に、「うん、支度してくる」と、部屋に戻ると、まずパソコンをつけMASATOからの書き込みがないかチェックした。


「まだないか」


何か記事を書かないと、コメントもしづらいかもしれない。


 愛美は下書きしておいたクレープ記事を公開してしまおうかと思ったが、それをしてしまうとスイーツ記事のストックがなくなってしまうし、立て続けにスイーツというのも、なんだか芸がない。


 気持ちは逸ったが、MASATOが自分のブログにいる様子もまだないし、まずは先にお風呂に入ってしまおう。入ってしまえば、寝るまでずっと、パソコンの前にいられる。愛美は急いでログアウトし、画面をトップに戻すと、風呂に入る準備をして部屋を出た。



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